「技術が変わると、人が変わってくる」 デジタル化で建設業界を盛り上げる巴山建設の挑戦:自分も怖かったし、現場も不安だった(1/3 ページ)
人手不足や高齢化が問題となっている建設業界。何もしなければ深刻になることは目に見えている。そこでデジタル化となるのだが……。ICTには「全く興味がなかった」という担当者は、3年後に「技術が変わると、人も変わる。それが仕事の楽しさ」であることを知る。その変化のプロセスを追った。
人手不足が進む昨今、2040年には労働供給制約社会(労働力が供給できなくなる社会)が到来するといわれている。特に、建設や土木、物流、介護福祉、接客など生活を維持するサービスでは、既に著しい人手不足に陥っている。東京商工リサーチによれば、2024年の「人手不足」倒産は、過去最多の289件に上っている。
人手不足の解決策の一つが、徹底的な機械化や自動化をはじめとしたデジタル化である。
デジタル化に取り組んでみたものの、周囲からの理解が得られず「それは大きな企業がやることで、うちみたいな中小は無理だよ」といった周囲からの声に、心が折れそうになっている担当者もいるかもしれない。
そこで今回は、労働環境が厳しくデジタル化が難しそうな業界の一つ、建設業に目を向ける。当初ICT(情報通信技術)には「全く興味がなかった」という担当者は、3年後に「技術が変わると、人も変わる。それが仕事の楽しさ」であることを知った。
技術者の負担が多い建設現場
巴山建設は、東京都・多摩エリアにある従業員60人ほどの建設会社である。インフラをはじめとした公共工事など、地域密着型の建設事業に取り組んでいる。
巴山建設がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めたのは2021年のこと。もともとは2018年ごろ、代表取締役の巴山一済氏が「いつかこういうのを仕事に使えればいいな」と、ドローンに興味を持ったことがきっかけだ。ドローンに興味を持った背景には建設現場における「技術者の負担」があった。土木部 技術システム課 課長代理の松村大生さんは、次のように話す。
「社長はよく現場に行く方で、状況もよく知っていました。現場の状況に『負担が大き過ぎる』と思っていたようです」
建設や土木の現場で掘削作業を行う場合、その前段階として、木や糸を用いて「ここから、ここまでを削る」といった施工の基準となる目印を付ける。これを「丁張り(ちょうはり)」といい、測量や丁張りは多くの時間を要する。
「測量や丁張りって、機械が動いている近くでは危なくて近寄れないじゃないですか。結局、作業をやっていないときにやるしかない。そのため、作業後の時間や朝の開始前によくやっていたんです」
しかも、人手不足により現場は慢性的に人員が不足していた。以前だったら、1つの現場に施工管理者が4〜5人いたが、近年は2〜3人しかいないときがある。施工管理者の業務は、測量や丁張りの他にも多岐にわたる。人数が減ると単純に負担が増え、残業も増え気味だった。
「ある現場を担当していたとき、部下がインフルエンザにかかってしまったんです。その現場はもともと人数が少ない上に昼夜作業だったため、とても大変でした。予定が分かっていれば事前に人を手配できますが、突発的なことが起きると、いまいる人員で何とかしなくてはいけない。ギリギリの中で戦っていました」
「このままではまずいな」とは思うものの、「何かをしなければ……」という気は、松村さんには起こらなかった。それほど忙しかったのだ。「とにかく、目の前のことに追われていました」
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