「実は知らない」とは言いづらい「AIエージェント」の基礎を把握する:ビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説
IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第30回は「AIエージェント」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
1 AIエージェントとは
AI(人工知能)エージェントとは、ユーザーの意図を理解し、自ら判断してタスクを実行する自律型のソフトウェアです。従来の単純な自動化ツールとは異なり、状況に応じて柔軟に対応できるところが特徴です。
AIは、スケジュール調整や業務の進行管理、顧客対応の自動化など、ビジネスのさまざまな場面で活用が進んでいます。近年では「ChatGPT」のような生成AIの登場によりAI技術への関心が高まっていますが、AIエージェントは対話にとどまらず自律的に動くことができる点で、その一歩先を行く存在として注目されています。
2 AIエージェントの特徴と生成AIとの違い
AIエージェントは、「指示されたことをこなす」だけでなく、「目的達成のために自律的に動く」という点が特徴です。
例えば、営業担当者が「このお客さまに合う資料を準備して」と頼むと、AIエージェントは過去の提案履歴や製品情報を基に、適切な資料を選び出し、必要に応じて関係者と連携する、といった動きが可能です。
一方、ChatGPTのような生成AIは、文章や画像などの「コンテンツを作る」ことにたけています。例えば、「企画書の冒頭を考えて」と頼むと、自然な文章を生成してくれますが、それを誰に送るのか、何の目的で使うのかまでは判断しません。
生成AIは「会話」や「創作」に強みがあるのに対し、AIエージェントは「意図をくみ取り、必要な行動を自動でする」ことに重点があります。昨今では、この両者を組み合わせることで、より高度な業務効率化が可能になってきています。
3 AIエージェントの仕組み
AIエージェントは、主に「理解」「判断」「実行」の3つの機能で構成されています。
まず、ユーザーの発言や入力内容を自然言語処理技術で分析し、「何を求められているのか」を理解します。次に、蓄積された知識や外部データを基に、最適な対応方針を判断します。最後に、システム操作や通知、文書作成などの行動を自動で実行します。
これらの動作は、業務システムやクラウドサービスと連携することでさらに拡張され、単なるチャットツールにとどまらない実務支援が可能となります。また、利用履歴やフィードバックを基に継続的に学習し、精度や対応力を高めていく点も特徴です。
AIエージェントは、反復的、定型的な業務だけでなく、情報収集や判断を要するタスクも支援することで、人がより創造的かつ付加価値の高い業務に集中できるよう後押しする存在です。人とAIが協調する形で、業務の質と効率の両立が期待されています。
4 具体的な活用事例
AIエージェントは既に私たちの生活やビジネスの中で活用され始めています。日常生活から企業活動まで、主な活用事例は以下の通りです。
4.1 日常生活における活用例
「Amazon Alexa」などのスマートスピーカーは、広く流通している身近なAIエージェントといえます。音声で天気を尋ねることや、照明の操作など、ユーザーの要望に応じてさまざまなタスクを実行可能です。
これらは単なる音声認識機能ではなく、ユーザーの発言の意図をくみ取り、適切な行動を自動で選択する点において、AIエージェントとして機能しています。また、「Google Assistant」などスマートフォンのAIアシスタントも、スケジュール管理やリマインダー設定などを自動化し、日常の煩雑な作業を軽減しています。
4.2 企業における活用例
企業では、AIエージェントがより実務的なタスクを担っています。例えばコールセンターでは、ユーザーからの問い合わせにAIエージェントが一次対応することで、オペレーターの負担を軽減し、対応品質の均一化を図っています。
また人事の現場では、従業員の評価履歴や勤怠データを基に、次に実施すべき面談の提案やフィードバック資料の作成を支援するAIエージェントも登場しています。これにより、担当者は判断や交渉といった本来の業務に集中できるようになります。
5 AIエージェント活用における注意点
AIエージェントを業務で活用する際は、主に以下の点で注意が必要です。
5.1 セキュリティとプライバシーの確保
AIエージェントは自律的に業務データや個人情報にアクセスするため、監視やセキュリティポリシーが不十分な場合、情報漏えいや不正利用のリスクがあります。機密情報に対しては「アクセス権限の設定」や「通信の暗号化」「アクセスログの管理」など適切な管理体制が求められます。
5.2 意図しない動作、誤作動への対策
AIエージェントは生成AIと同様に万能ではなく、文脈を誤解するなど間違った処理をすることがあります。
業務に大きな影響を与えないよう、「人間の最終確認を挟む運用設計」や、「リスクの高い業務を実行させない体制」「誤動作時の対応フロー」などをあらかじめ整備しておくことが大切です。AIエージェントの活用を検討している業務に対して誤動作によるリスクを評価し、段階的に適用していくことが望ましいです。
5.3 学習データへの依存と品質管理
AIエージェントの精度は、与えるデータに大きく左右されます。
古い情報や偏ったデータに基づくと、誤った判断を下す恐れがあります。定期的にデータを見直し、最新かつ信頼性のある情報を維持できる運用体制が不可欠です。
6 今後の展望と導入に向けた課題
今後、AIエージェントはさらに高度化し、単一の業務支援にとどまらず、複数の業務領域をまたいで連携する存在へと進化していくと考えられます。
例えば、営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、部門ごとに配置されたAIエージェントが相互に情報をやりとりし、企業全体の意思決定を支援する仕組みが実現しつつあります。
一方で、上述の通り継続して活用する上では注意が必要です。誤った判断によるリスクへの対応やデータの品質維持には多大なコストがかかる場合があります。また、現場の業務プロセスを理解した上で設計、運用しなければ、期待通りに機能しない可能性もあります。技術的な成熟と併せて、業務側の視点から「何を任せ、どう連携させるか」を見極める力が、今後ますます重要になるでしょう。
古閑俊廣
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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