わざとハリボテのシステムを発注しましたね――黒い三人の男:コンサルは見た! 情シスの逆襲(11)(1/3 ページ)
社長退任を迫る前社長の出現に荒れる「ラ・マルシェ」の役員会議。腹心の部下を後任に据えようという前社長の提案に「待った」をかけたのは、われらが江里口美咲だ!
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
登場人物
ラ・マルシェ
都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン
A&Dコンサルティング
大手コンサルティングファーム
前回までのあらすじ
老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」のオンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」開発頓挫の裏には、質の悪いシナリオがありそうだ。ラ・マルシェの小塚から相談を受けたITコンサルタントの江里口美咲と白瀬は、ベンダーの「ルッツ・コミュニケーションズ」、そしてラ・マルシェの顧客「アクセル乳業」を訪ね、手掛かりをつかんだようだ。
1週間後、先代社長の鈴木が株主を引き連れてラ・マルシェの役員会議に現れ、高橋社長の退任を要求する。後任として資格を問われた鈴木は、候補は別にいると答える。
「後任候補は呼んであります。入りなさい!」
招待客
役員会議室に入ってきたのは、村上と羽生だった。
ほおを紅潮させている村上とは対照的に、羽生はやや青ざめていた。鈴木は株主たちに、2人を誇らしげに紹介した。
「ご存じの方も多いでしょう。村上常務です。彼は古き良きラ・マルシェの伝統を踏まえながら、AIによる在庫管理システムという新しい手法を導入し、ラ・マルシェを復活に導いてくれる立役者です。隣にいるのは、そのシステムを作っている羽生情報システム部長。彼にも今後は、より大きな責任を担ってもらいたいと私は思っています」
株主たちは沈黙したまま何も言わなかった。正直、株主から見て村上常務は新鮮味がないし、AI在庫管理システムも、その効果を見てからでなければ評価のしようもない。
何の反応も示さない株主たちに、鈴木の唇がゆがんだ。
「皆さんはまだ、村上君の実績と力をよくご存じないようだ……」
鈴木がそう言いかけたとき、入り口のドアが開いた。
「お待ちください!」
そこには小塚と白瀬を両脇に従えた美咲が立っていた。見慣れぬ顔に会議室内がざわついた。
「何だ、君たちは!」
大声を上げたのは村上だった。鈴木はいぶかし気な目で美咲を見ている。羽生は息を飲んだまま動けずにいた。
「私が呼びました」
そう答えたのは高橋だった。
「どういうつもりだね」
鈴木が高橋をにらむ。
「ご推薦の村上常務について、少々確認したいことがありまして、A&Dコンサルティングさんに調べていただきました」
「確認したいこと?」
鈴木の目が高橋に向いた。その視線を無視するように美咲は小塚を伴って会議室の奥まで進み、出席者たちに向かって一礼すると、話を始めた。
「高橋社長の肝いりで小塚取締役が進められていた『スマホ・デ・マルシェ』の開発が、契約交渉がこじれ、開発がストップし、さらにベンダーの『ルッツ・コミュニケーションズ』から損害賠償もしくは開発費を請求されていることは、皆さまもご存じのことと思います」
鈴木と村上、そして羽生を除く出席者が皆、小さくうなずいた。
「しかし小塚取締役および高橋社長からのご依頼を受けて、われわれが調査をいたしましたところ、一連の出来事は最初から仕組まれていたのではないか、との疑いが強くなって参りました」
美咲の言葉に、株主たちがざわついた。
「最初っから失敗するように仕組んだってことですか?」
「誰が、そんなことを……」
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