AIコーディングとは? メリット・デメリット、活用例を分かりやすく解説

ソフトウェア開発現場の生産性を飛躍的に向上させる技術として期待されている「AIコーディング」。その概要から、導入状況、メリット・デメリット、現場での活用事例、AIコーディングツール/サービスの導入ポイントまで、調査データを交えながら詳しく説明する。

» 2025年08月21日 05時00分 公開

 AIコーディングは、ソフトウェア開発現場の生産性を飛躍的に向上させる技術として期待されていますが、「精度やセキュリティは信頼できるのか」「導入するには何から始めるべきか」といった懸念から、導入に踏み出せない企業の管理者もいることでしょう。

 専門知識がなくても開発が可能なノーコード開発の普及が象徴するように、開発プロセスの効率化は業界全体の大きな流れとなっており、AIコーディングもその中核を担う技術として期待が高まっています。

 本稿では、AIコーディングの基本からメリットとデメリット、具体的な活用例、導入のポイントまでを解説し、現場での活用に一歩踏み出すためのヒントを紹介します。

AIコーディングとは?

 AIコーディングとは、AI(人工知能)を活用してソフトウェアのソースコードを自動生成したり、人手によるコーディングを補助したりする技術です。大規模言語モデル(LLM)などのAIが、自然言語による指示やコメント、書きかけのコード、既存のコードベースなどを理解し、ソフトウェアのソースコードの生成、補完、説明を支援します。実装したい内容を日本語で入力するだけで、必要なコードや処理例をAIが自動で提案してくれます。

AIコーディングの仕組み

 こうした技術の背景には、膨大なコードデータベースで学習されるLLMの進化があります。開発現場へのAIコーディングの導入は着実に広がっています。@ITの独自調査によると、開発者のうち「会社として導入」が31.6%、「個人利用」が23.5%で、半数以上が何らかの形でAIを活用している状況です。

「開発運用におけるAI活用」(@IT読者意識調査2025年4月「アジャイル・DevOps編」から引用)

 特に、従業員1000人以上の大企業では約半数(49.0%)がAIを会社として導入しており、IT業界全体でも4割以上(40.5%)の企業が組織的に活用しています。

「開発運用におけるAI利用(従業員規模別/業種別)」(@IT読者意識調査2025年4月「アジャイル・DevOps編」から引用)

 コーディング工程でのAI利用率は、わずか1年で12.7%から30.3%へと大幅に増加し、短期間で広く浸透している状況です。

「開発運用プロセスにおけるAI利用(前年比)」(@IT読者意識調査2025年4月「アジャイル・DevOps編」から引用)

 デジタル庁のAI学習データ整備に関する調査にある通り、政府機関におけるAI技術の活用は積極的に検討されており、国家レベルでのAI活用推進が進んでいます。調査はAIコーディング単体を対象としたものではないものの、こうした動きによって開発分野におけるAIコーディングへの注目も着実に広がっています。


AIコーディングの6つのメリット

 AIコーディングツールの導入は、開発現場に多くの恩恵をもたらすと考えられます。生産性の向上から品質の安定化、さらにはエンジニアのスキルアップ支援まで、そのメリットは多岐にわたります。

メリット1:開発スピードの飛躍的向上

 AIコーディングを導入する最大のメリットは、開発にかかる時間を大きく短縮できる点です。GitHub Copilotの研究調査によると、AIの利用者は非利用者よりも55%早くタスクを完了させたと報告されています。AIがコードの大部分を自動で生成、補完するので、エンジニアは手作業でコードを書く手間が大幅に省けます。

 中でも繰り返しの多い定型的な処理はAIに任せやすく、その結果、開発者はより創造的な設計や、システムの根幹に関わる課題解決など、本来集中したい仕事に時間を使えるようになります。

メリット2:コード品質の均質化とバグの削減

 AIはベストプラクティスに基づいたコードを生成するので、チームでの開発においてコード品質が均質化され、メンテナンス性が向上します。さらに、単純な構文ミスなどのケアレスミスも未然に防ぎやすくなるので、結果としてレビューやデバッグの手間も減らせます。

メリット3:学習コストの低減とスキルアップ支援

 AIコーディングは、新しい言語やフレームワークを学ぶ際の心強い学習ツールにもなります。実現したい内容を自然言語で指示すれば、直ちにサンプルコードが提案されるため、効率良くスキルアップできます。

 東京大学の数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムでは、生成AIを活用したコーディング支援やデータ加工などをモデルカリキュラムに組み込み、教育現場でのAI技術の実践的活用を推進しています。

メリット4:テストコード生成やドキュメント作成の自動化

 AIは、コードのコメントや仕様書、単体テストのひな型なども自動で作成できるので、時間のかかる作業を効率化し、開発者の負担を軽減します。

 日本総研の調査によれば、テストケース生成やドキュメント作成支援は、システム開発における代表的な生成AIの活用例として位置付けられており、その有効性を示す事例や研究動向が報告されています。

メリット5:属人化の防止と知識の共有

 複雑なコードをAIに解析させて、分かりやすい言葉で説明させることで、担当者以外でもコードの内容が理解しやすくなります。その結果、知識の共有が進みやすくなり、特定の個人にしか分からない「属人化」のリスクが減らせます。

メリット6:アイデア創出の触媒

 実装方法に悩んだときは、AIを壁打ち相手として活用することで、自分では思い付かないアルゴリズムやアプローチのヒントが得られ、創造的な問題解決の糸口となることもあります。

 GitHub Copilotの調査によると、73%のユーザーが「GitHub Copilotがフローの維持に役立った」と回答しています。心理学の研究では、フロー状態は創造性と密接に関連しており、高い集中力や没頭が新しいアイデア創出の下地になるとされています。AIコーディングサービスによって作業に集中しやすくなることは、創造的な思考の後押しにつながると言えます。


AIコーディングの6つのデメリット

 AIコーディングにはメリットが多い一方、精度、セキュリティ、著作権といった無視できないデメリットやリスクも存在します。

デメリット1:コードの正確性と信頼性の問題

 AIが生成するコードは、必ずしも正確で最適とは限りません。文脈に合わなかったり、非効率だったり、バグを含んだりする場合もあります。そのため、AIが作成したコードは必ず人間の手でレビューし、内容をきちんと理解した上で検証するプロセスが欠かせません。

デメリット2:セキュリティと情報漏えいのリスク

 クラウド型のAIコーディングサービスを使う場合、入力したソースコードや機密情報が意図せずAIの学習データとして利用されたり、外部に漏れたりするリスクがあります。特に企業の重要な情報を扱う際は、入力データを学習させない設定が可能な法人向けプランを選ぶなど、セキュリティ対策を徹底することが大切です。

デメリット3:著作権やライセンスの問題

 AIは、さまざまなライセンス形態のオープンソースコードを学習に取り込むので、生成されたコードが意図せずオリジナルのコードのライセンス条件に触れる恐れがあります。いわゆる「ライセンス汚染」リスクであり、場合によっては法的なトラブルに発展しかねません。こうした問題を防ぐためにも、生成されたコードのライセンスが適切かどうかを、最終的には開発者自身でしっかり確認することが重要です。

デメリット4:技術力の低下と思考停止への懸念

 AIに頼り過ぎると、開発者の問題解決能力や基本的なコーディングスキルが低下する恐れがあります。そのため、AIの助けを借りるとしても、仕組みを理解しようとする姿勢を忘れないことが大切です。

デメリット5:ハルシネーション(もっともらしいうそ)

 AIは、存在しない関数やライブラリを存在するかのように生成することがあります(ハルシネーション)。こうした生成内容を“うのみ”にせず、必ず公式ドキュメントや信頼できる情報源を確認する習慣を持ちましょう。

デメリット6:導入/運用コスト

 ツール自体のライセンス費用だけでなく、社内ガイドラインの整備や利用者向けの教育といった運用面でのコストも発生します。こうした目に見えにくいコストについても、導入前にしっかり検討しておくことが大切です。


AIコーディングの主な活用例

「開発運用プロセスにおけるAI利用」(@IT読者意識調査2025年4月「アジャイル・DevOps編」から引用)

 AIコーディングは、開発プロセスのさまざまな場面で活用され始めています。@ITの独自調査によると、開発工程の中で最も多くAIが利用されるのは「コーディング」そのもので、回答者の30.3%に及びます。「コードの可視化」(17.7%)や「要件定義」(16.4%)といった工程でも利用が広がっているようです。

 定型的(ボイラープレート)コードの自動生成や、既存のコードをより効率的で読みやすい形に整えるリファクタリングの提案などが具体的な例です。さらに、データベースから情報を取り出すSQLクエリの作成や、複雑な正規表現の生成といった専門知識が必要な作業もAIがサポートします。

 他にも、コードの変更内容を要約してコミットメッセージを自動作成したり、単体テストのひな型を作ったりなど、開発に付随する細かなタスクも自動化できるため、開発者が本来の業務に集中しやすくなります。


AIコーディングの導入を成功させるためのポイント

 AIコーディングの効果を最大化するには、計画的な導入が重要です。

・まずは小規模から導入する

 最初は、特定のチームや小規模プロジェクトで試験的に導入し、使いながら知見を蓄積していくのがお勧めです。成果や課題を確認しながら、徐々に適用範囲を広げていくとよいでしょう。

・明確なガイドラインを整備する

 セキュリティや著作権リスクを防ぐために、入力してよい情報の範囲や、生成コードのレビュー方法など、利用ルールを明文化しておくことが大切です。

・目的の明確化と効果測定

 「特定タスクの工数を◯◯%削減する」など、達成度の測れる目標をあらかじめ設定し、導入後も定期的に費用対効果を確認する仕組みを設けておきましょう。

・AIと人間の役割を共有する

 AIはあくまで「副操縦士」であり、最終的な判断と責任は人間が担うという意識をチームで共有することが重要です。


おすすめのAIコーディングツール/サービス

「AIコーディングアシスタントツールの利用」(@IT読者意識調査2025年4月「アジャイル・DevOps編」から引用)

 市場には数多くのAIコーディングツール/サービスが存在しますが、@ITが2025年4月に公開した独自調査では「GitHub Copilot」と「ChatGPT」が特に多くの開発者に利用されています。ここでは、この2つに加えて、独自の強みを持つ「Claude」も含め、代表的な5つのプラットフォームを紹介します。

 なお、調査時点からも新しいAIコーディングツール/サービスが次々と登場しており、2025年8月の原稿執筆時点ではAmazon Web Services(AWS)の「Kiro」なども話題を呼んでいますが、本稿では紹介していません。

Claude(Claude Code)(※1)

 Anthropicが開発したAIで、特に長文のコンテキスト(文脈)を理解する力に優れているのが大きな特徴です。数十万トークンにも及ぶ長い文章や大量のコードを一度に処理できるので、大規模なソースコード全体の要約や、詳細な仕様書からコードを生成するといったタスクを得意とします。用途に応じて「Claude Sonnet 4」「Claude Opus 4」など複数のモデルが用意されている点も魅力です。

 2025年上半期には、大規模AIモデルとは異なるターミナルやIDE(Visual Studio Code、JetBrains)で使えるAIエージェント型コーディング支援ツール「Claude Code」も話題を呼びました。自然言語でコード編集、バグ修正、リファクタリング、テスト実行などの指示が出せます。明示的な承認がない限りコードやファイルを勝手に変更しないセキュリティ重視設計も特徴の一つです。

(※1)https://claude.ai/

ChatGPT(※2)

 OpenAIが開発した世界的に有名な対話型AIです。非常に汎用(はんよう)性が高く、コーディングに関する壁打ち相手としても優れた性能を持っています。具体的なコードの生成だけでなく、「このエラーの原因は?」「この処理にはどんなアルゴリズムが考えられる?」など、開発プロセスにおける幅広い相談に対してヒントや回答が得られるのが特徴です。優れた対話性能から、問題解決のパートナーとして多くのエンジニアに活用されています。

(※2)https://chatgpt.com/

GitHub Copilot(※3)

 GitHub、OpenAI、Microsoftが共同開発した、OpenAIのLLM技術をベースにしたコーディング支援特化型のAIツールです。Visual Studio Codeなど主要なコードエディタとシームレスに連携し、開発者がコードを入力している途中で文脈を先読みしながら、リアルタイムで次のコードを提案してくれるのが特徴です。

 特に、定型的なコードの記述では高い生産性を発揮します。法人向けプラン「Copilot Business」「Copilot Enterprise」では、入力したコードをAIに学習させない仕組みが用意されており、セキュリティや管理面の機能も強化されています。

(※3)https://github.com/features/copilot

Amazon Q Developer(※4)

 Amazon Q DeveloperはAWSが提供する生成AIアシスタントサービスで、AWS環境と密接に連携しながらインフラ管理からアプリケーションのコード生成まで幅広くサポートします。クラウドサービスやデータパイプライン、セキュリティ設定など、AWSを利用する開発チームに特にお薦めです。

(※4)https://aws.amazon.com/jp/q/developer/

Cursor(※5)

 Cursorは米国発のコーディングAIで、低コストかつ高い日本語対応力が特徴です。ノーコード/ローコード開発の要素も強く、業務の自動化やSaaS連携、ドキュメントの作成まで幅広い現場ニーズに対応します。中小企業や日本語主体のチームにも導入しやすいプラットフォームです。

(※5)https://cursor.com/ja


FAQ

 AIコーディングの導入に当たって、よくある質問への回答をまとめました。

Q1:AIが生成したコードの著作権は誰に帰属しますか?

A1:多くのAIコーディングツールでは、生成されたコードの著作権は利用者本人に帰属すると定められています。ただし、学習データに由来するライセンス問題が発生する可能性もゼロではありません。生成コードのライセンスについては個別に確認するプロセスが引き続き重要です。

Q2:完全にAIにプログラミングを任せることはできますか?

A2:現時点では、完全な自動化は困難です。AIはあくまで開発者を補助する「副操縦士」の役割であり、システム全体の設計や最終的な品質保証など、より高度な思考や責任が求められる部分は人間のエンジニアが担う必要があります。今後も、人間とAIの協働によるものづくりが基本となるでしょう。


AIコーディングについて、もっと知りたくなったら

 @ITでは、AIコーディングに関する記事も多く掲載していますので、ご参考に。

 筆者紹介


雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

1000人規模のライター・編集者を擁する編集プロダクション雨輝のIT・AI専門部門。現役エンジニアをはじめ、システム運用管理、仮想化、サーバ・ストレージ、クラウド分野の実務経験者や、セキュリティ、エンタープライズAIプロジェクトに関わったメンバーが在籍。技術記事の執筆やITコンテンツの制作を中心に、編集プロダクションの強みを生かした技術情報の発信を行っている。


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