ひろゆき、ぶるぶる震える学生たちにガチでフィードバックする努力と根性で頑張ればいけんじゃねーかな

機能、事業計画、類似サービスとの差別化――論破王ひろゆきが、学生エンジニアが作ったプロダクトにガチでフィードバックする。歯に衣(きぬ)着せぬ発言をくらってぼっこぼこになる覚悟で挑んだ学生たちの命運やいかに。

» 2025年06月02日 05時00分 公開
[小林由美@IT]

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 ひろゆき(西村博之)氏は、匿名掲示板「2ちゃんねる」や「ニコニコ動画」など、多くのサービスや企業の企画立案、サービス運営に携わり、現役プログラマーとしても活躍するインターネット界の著名人だ。

 そのひろゆき氏が、学生エンジニアのプロダクトにフィードバックする「ひろゆき虎の穴」を「技育祭2025春」で開催した。

 対象は、エンジニア同士のつながりを支援する『DevConnection』、振り返りアプリ『リフティ』、そしてドライブ中の“いい景色”を自動撮影する『PhotoBot』の3プロダクト。「ずばずば正論を言う」「論破王」というイメージもあるひろゆき氏は、学生たちにどのような言葉を投げ掛けたのだろうか――。

こういうサービスで事業として回っているところを見たことがないんですよね

 プレゼン前に「緊張して吐きそう」とつぶやいた、DevConnectionの開発者「ごみちゃん」さん。「厳しめで大丈夫ですか?」と心配しつつ尋ねる「サポーターズ」の楓氏に、「あーと、いや、大丈夫です……」と、やや弱々しい感じでひろゆき氏のフィードバックに挑んだ。

DevConnection:つながりたいエンジニアのための便利アプリ(ごみちゃん)

DevConnection

 DevConnection(デブコネクション)は、イベントや勉強会で出会ったエンジニア同士が効率的に情報交換できるアプリだ。「GitHub」「Qiita」「X(旧Twitter)」などのアカウントをまとめて登録でき、QRコードやすれ違い通信によって名刺交換のようにスムーズにやりとりできる。特にSNSのIDが長過ぎる人には便利とのこと。

 「ワンタップ検索機能」は、あらかじめ自分のSNSや技術アカウントのURLを登録しておくことで、相手がアプリ内からワンタップでそれらを検索、閲覧できる。「すれ違い通信機能」は、半径5メートル以内にいたユーザーの情報を端末が自動取得して後で閲覧できるため、イベント会場や勉強会などで直接話せなかった相手との接点を残せる。「フォロー機能」では、以前出会った相手の最新の活動情報(GitHubの更新、Qiitaの記事など)をタイムライン形式で確認できる。

 QRコードによる情報交換機能も搭載している他、「App Clip」(※)にも対応している。アプリをインストールしていない相手でもiPhoneのカメラでQRコードを読み取るだけで、簡単に情報にアクセスできる。

 クライアントサイドはSwift、サーバサイドはGoなどを使用。今後は、GitHubのAPIなどを利用し、同じ言語を使うユーザーや気が合いそうなユーザーをレコメンドする機能を追加予定だ。

※iPhoneアプリの一部の機能を、アプリ本体をダウンロードすることなく利用できる機能のこと。

フィードバック

 ひろゆき氏は最初に、このサービスを専業でやるのか趣味でやるのかを尋ね、ごみちゃんさんは副業として考えていると答えた。ひろゆき氏がこの質問をしたのには、理由があった。

 「こういう、プロフィールでいろいろつながるみたいなサービスは海外も含めていっぱいあって、僕が見てる限り、基本的にどれも事業としては回ってないんですよね」(ひろゆき氏)

 いきなりの辛口意見だが、続けて「一定数の人にとっては便利な仕組みなので、3〜4年くらいかけてそれなりのユーザー数を増やしていくことはできると思う」とフォローもする。

 マネタイズについてごみちゃんさんは「一般向けと企業向けとに分け、サポーターズのようなエンジニア交流会を主催する企業にサービスを提供し、参加者と企業の橋渡しを支援すること」を考えている。だがひろゆき氏は、「それだと、企業がお金を払ってDevConnectionのコミュニティーを育てることになっちゃう」と懸念を示す。

 営利を目的とする組織がコミュニティーを育てるためには、担当者の思いや熱意、そして粘り強さが大切、マネタイズはその次だ。コミュニティーを育てる活動自体が直接お金を生み出すわけではないからだ。

 問題点を指摘するだけではないのが、ひろゆき氏のいいところ。「まずは、企業にも無料でサービスを提供してコミュニティーを広げてもらう方が可能性あるんじゃないかな。事業化を先に決めてしまうと、コミュニティーが広がりにくくなる気がする。それにイベントにこだわり過ぎなくていいのでは」とアドバイスも授けた。さらに、レコメンド機能について「いいスキルセットを持っていて、自分の相談に乗ってくれそうな親切なエンジニアが見つけられたら便利かな、と思いました」とのコメントも加える。

 サービスを広めるためにどのような手段を使ったらよいのかと尋ねるごみちゃんさんにひろゆき氏は、「広めるための手段」にお金を大々的に投じるのではなく、「広めてもらうための工夫」について地道な努力を積み重ねた方がいいのではないかと答える。

 「スタンプみたいにイベント参加のログが残り、イベントの参加人数や参加者も分かるようにする」という具体的な案も示す。それによってイベントが活性化したり、ユーザーが参加するきっかけを作ったりができるからだ。人がたくさん集まるイベントで積極的に使ってもらえるようにしたらよいのでは、とアドバイスした。

 そうやってプロダクトをコツコツと育てていくうちに、Xなどの既存のコミュニティーと一味違った“濃いつながり”を生み出す可能性があって、そこが差別化やマネタイズのポイントになりそうだと、ひろゆき氏は言う。

 「じわじわコミュニティーを広めていって、かなり広がった状態でいきなり牙を向いて金もうけに走る方が、うまくいきそう」(ひろゆき氏)

日記やブログにはないリフティのメリットって何?

 楓氏の「1人目を見て、少しは気が楽になりましたか?」との質問に、リフティ開発者の「ゆせ」さんは、「全然楽にならないですね」と気弱に答える。「厳しめで大丈夫ですかね?」と楓氏から聞かれ、「むぐぐ! いや厳しめ半分、やさしさ半分で」と不安な気持ちをいっぱいにじませながらフィードバックに挑んだ。

リフティ:振り返りアプリ(ゆせ&ぴーなっつ)

リフティ

 リフティは、振り返りや日記を一元管理できるWebアプリケーションだ。リリースから3カ月で投稿数は700件ほど。参加者が制作物を持ち寄るリアルミートアップイベント「技育博2024」においてサイバーエージェント賞を受賞している。

 ゆせさんが以前から1日の最後に振り返りをする習慣があったことから開発に着手した本アプリ。振り返りがもたらす効果は先行研究(※)でも証明されており、エンジニア仲間にも勧めたいと考えたという。「ゆくゆくは日本全体に振り返り文化を根付かせたい」とゆせさんは意気込む。

※ハーバード大学による研究「なぜ振り返りを行うのか

 主な機能は4つ。

  • 投稿機能(公開/非公開の切り替えが可能)
  • 自由記述(日記・ポエム)やテンプレート形式(例:イベントの振り返り)で投稿可能
  • Markdown記法対応。スタンプも使える
  • 投稿後に過去の投稿をランダム表示する仕組み

 さらに、「ソート・管理機能」では、タグやフォルダで投稿を整理可能。投稿一覧のソートや検索にも対応している。「AI(人工知能)によるフィードバック」もあり、5種類の性格を持つAIから任意でフィードバックを受けられる。例えば、「ストイックなAI」からは、「自己評価が楽観的過ぎる」など厳しめのコメントをもらえる。

 TypeScriptをベースに開発し、一部バックエンドにPythonやGo言語も使用。AWS(Amazon Web Services)などのクラウドインフラも採用し、スケーラブルな構成を意識した。

フィードバック

 ゆせさんの「リフティを使わなければならない理由が弱い」という課題に対しひろゆき氏は、「AIを使ったポジティブなフィードバックをしてもらえるところが、日記やブログのアプリとの違いではある」と前置きした上で、「じゃあ、それがどう便利なのか、何がメリットなのかってところが欠けている気がするんですよねー」とバサリ。

 もしひろゆき氏が日記のアプリを作るなら、「非公開日記のサービス」にするという。他者のリアクションが欲しいのであれば、既にメジャーな日記サービスが存在するからだ。

 ひろゆき氏は、人は日記にオープンにしてはいけない情報も書いており、そのクローズドな情報こそ、その人にとって価値があると考える。「オープンにしてはいけない情報」とは、人についてのネガティブな思いや体験、失敗しそうな仕事などだ。これらを振り返り、「いま以前と同じことが起きている」「また同じ失敗をしそうだ」などと分析し、ユーザーに気付きを与えてくれるのであれば、他のオープンな日記サービスではできないことであるし、「マーケットとしても、まだ空いている部分」と述べる。

 「日記の公開/非公開機能は、既に実装しています」と反論するゆせさんに対しひろゆき氏は、「あーこれ、見せ方の問題で……」と答え、「他の日記もだいたい非公開の機能は付いてるんですよ。でも、それだと何となく安心感が得られなくて、結局、誰かを意識して書いてしまうんですよ」と説明する。

 つまり「非公開を前提にしたサービスに振り切った方が安心感があり、それがリフティにしかないものとなって、差別化ができるのではないか」ということだ。

 もう一人の開発者「ぴーなっつ」さんからの「非公開の日記で、使ってみたい機能はありますか?」との質問に、ひろゆき氏は「全文検索と、失敗を繰り返さないための気付きを与えてくれる機能」と即答する。

 「iPhoneや紙の手帳に日記を書いている人って多いんですけど、皆、全文検索があった方がいいのにな、と思っているんです。紙の日記をOCR(光学式文字認識)で取り込める機能もあると、移行しやすいのでは」(ひろゆき氏)

 気付き機能は、「夜にコーヒーを飲んだ次の日は遅刻しやすいとか、気が付いていない食べもののアレルギーの可能性とか」。一つ一つはあまり深い意味がないデータであっても、組み合わさることで重要な意味を成すことがある。さらに日々の食事や体温などバイタルデータも含められたら、かなり有意義な情報を与えてくれる可能性がある。

 ひろゆき氏との対話でいろいろな可能性が見えてきたゆせさんからマネタイズのアイデアをせがまれたひろゆき氏は、イジワルアイデアを伝授した。

 「毎月500円払ってくれなかったらデータがなくなりますよって言ったら、皆、必死で払いそうですね」(ひろゆき氏)

ドラレコから直接データを取ればいいんじゃないですかね?

 最後に登場したのは、エンジニア学生向けピッチコンテスト「技育展2024」で優勝したプロダクト「PhotoBot」だ。開発者の「七輝(ないしん)」さんは、「気合で緊張に耐えています。ぼっこぼこにしてほしいです!」と優勝者の気概を見せた。

PhotoBot:ドライブ中の景色を自動撮影し、評価してくれるAI(ないしん&シチン)

PhotoBot

 PhotoBotは、「運転中に美しい景色に出会っても撮影できずに通り過ぎてしまうのがもったいない」とないしんさんが考えたことがきっかけで生まれたアプリ。ドライバーの代わりにAIが景色を検出し、リアルタイムで自動撮影をしてくれる。

 「景色がいいって、人間の感想ですよね」(景色の良しあしは主観的であり客観性を欠く)ということで、開発チームは独自に「良い景色」を判定するAIの仕組みを構築。アルゴリズムとデータセットは完全にオリジナルだ。電波の届かない山間部でも動作するよう、スマートフォン上でローカルかつリアルタイムに動く軽量設計である。

 AIモデルは複数用意されており、ユーザーの好みに応じて選択可能である。「判定精度は90.33%」とないしんさんは説明する。実際の検証では、レインボーブリッジの景色は「グッド判定」になり、工事車両などが視界に入ると「ノットグッド判定」となることを確認している。

 AIが撮影した画像にはGPS位置情報が付与され、写真をドライブルート上にマッピングできる「ドライブ振り返り機能」が搭載されている。

 将来的には、全国のPhotoBotユーザーから収集したビッグデータを基に「PhotoBot景色マップ」というサービスを展開する構想がある。このサービスでは、景色情報と飲食店や宿泊施設などを組み合わせた旅行ルート提案が可能になる。

 観光客に対しては、撮影スポットに近い店舗のクーポンを提示する機能を検討しており、観光事業者や自治体向けには景色のデータやその分析結果を提供することを想定している。

フィードバック

 「ドラレコ(ドライブレコーダー)のデータをそのまま使えた方が便利じゃないですか」(ひろゆき氏)

 「フロントガラス付近にホルダーを設置してスマホを置き、フロントガラス前の景色を撮影する」いう撮影方式にひろゆき氏は、ドラレコのデータをWi-Fi付きSDカードを使ってスマホに自動で取り込めるようにした方がいいのではと提案する。

 「スマホのアプリ起動しっぱなしでドライブすると、起動中にスマホを使いたいときにどうするのかとか、かかってきた電話のせいで接続が切れちゃいそうとか気になる」からだ。

 実は以前、Wi-Fi通信搭載のドラレコから映像を取り込もうとRaspberry Piでハードウェアを作ろうとしたが、品質管理の面でハードルが高いと諦めてしまっていたないしんさん。「Wi-Fi付のSDカードを使えばいいというのは、思い付かなかった」と、盛大に目からうろこを落としまくった。

 ひろゆき氏は、展開アイデアも授ける。

 「プロフィールを見るとハード(ウェア)が得意そうだから、アプリ専用のWi-Fi付SDカードとか作っちゃえば? スマホのGPSデータを使って『ここの景色の写真が撮れた』とXに投稿できるテンプレートまで作ってくれるとか」(ひろゆき氏)

 ひろゆき氏は、取りっぱなしのドラレコデータを何となくずっと取ってあるけれどどうしたらいいのかよく分からない人たちをターゲットにすれば売れそうだともアドバイスする。ドラレコのデータをいかに取りやすくするか、使いやすくするかに注力すれば、使いたい人がもっと増えると考える。

 「努力と根性で頑張ればいけんじゃねーかな。既存のドラレコのデータをデジタルデータとして楽に保存しまくれる仕組みができたら、リリースしちゃっていいんじゃない?」(ひろゆき氏)

 「ぼっこぼこにしてくれ」という気合のこもったないしんさんに、「ぼっこぼこにしようがなくね?」と優しいひろゆき氏だった。ないしんさんは、「将来は自動車メーカーでの仕事を経験して、生産時点でPhotoBotの機能を組み込みたい」と、キャリア計画も含めた開発の展望を話した。



 ひろゆき氏は最後に、ものづくりに携わる全エンジニアに向けてメッセージを贈った。

 「はやっているサービスと同じようなことをやっているのにうまくいっていないサービスって、実はそんなに機能は変わんなかったりするんすよね。でも、ほんのちょっとの使いやすさの追求とか、細かい改善とかを、諦めずに積み重ねられるような、根性がある人がやっぱりうまくいく。その努力の結果として『当たる』んだと思うんですよね。創業者ってプロジェクトや会社が好きだと思うので、ワークライフバランスだとか言わず、ひたすら働き続けるっていうのが成功するための要因の一つじゃないかなと思いますけど」(ひろゆき氏)

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