ITエンジニアに関する5つの“誤解”と“真実”、そしてAI時代をサバイブする“ヒント”つよつよじゃないと積む、ブラックでしょ、AIに仕事を奪われる

ITエンジニアを取り巻く環境が大きく変化している昨今、生成AIの急速な進化により、求められるスキルセットが問い直されている。

» 2025年05月28日 05時00分 公開
[岡田有花@IT]

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 「AIに仕事を奪われるのでは」「エンジニアの職場は“ブラック”なのではないか」――エンジニアを目指す学生の中には、こうした不安を感じている人もいるだろう。

 これらは“誤解”だと、学生エンジニアのキャリアや就職活動(就活)を支援する「サポーターズ」の楓博光代表は言う。楓氏は「技育祭2025春」で「ITエンジニアというキャリアの誤解〜生成AI時代をサバイブする5つのヒント〜」と題し、これらの誤解を解き明かした。

誤解1:エンジニアは人気職業で競争が激しい

 ITエンジニア職はいまや、就職ランキングで上位に入り、親が就かせたい職業としても公務員に次ぐほどの人気になった。「ITエンジニアは人気職でライバルが多いという印象があると思いますが、実態は違います」と、楓氏は言う。

 日本の全労働者人口におけるITエンジニアの割合はわずか1%。企画職や営業職、事務職などが多くの割合を占める中で、エンジニアは圧倒的に少数派だ。

 求人倍率は、全職種平均で1.5倍のところ、エンジニア職は10〜15倍。Pythonエンジニアに限れば50倍にも達するという。1人のエンジニアに対して10〜50社が争奪戦を繰り広げている状態だ。今後、さらにエンジニアが不足すると予想されている。

 「この30年間、世界を変えてきたのは間違いなくエンジニアです。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、イーロン・マスク、サム・アルトマンなど、技術が分かる人が世界を変えてきました。これからの時代も、世界を変えていくのは皆さんエンジニアです」と、楓氏はハッパをかける。

誤解2:IT業界はブラック

 IT業界はブラックなイメージもある。「IT業界は3Kだ」と、親に就職を反対される学生もいるようだ。

 楓氏によれば、この認識も誤解だ。「時代は変わりました。IT業界やエンジニアはもはやブラックとは対極にあります」

 例えば、技育祭2025春のスポンサー企業であるサイバーエージェントやディー・エヌ・エー(DeNA)、ゆめみなどのエンジニア初任給は500万円以上。日本の大卒の平均初任給20数万円(年収250万円程度)、40歳の平均年収400万円強を上回っている。「新卒で年収1500万円からスタートした人もいる」という。

 働き方も柔軟だ。フレックスタイム制や、出勤・退勤時間を自由に設定できる「スーパーフレックス」を採用する企業も。職場環境も充実しており、スタジオやラボを持つ会社もある。

 コロナ禍が落ち着き、職場の「リアル回帰」が進んでいるといわれるが、エンジニア職のテレワーク率はいまだに高い。楓氏は「エンジニアの半数以上がリモートをキープしている」とみている。

誤解3:“つよつよ”以外はみんな“よわよわ”

 上記のような企業に採用されるのは、能力が高い“つよつよ”なエンジニアだというイメージもある。確かに、“つよつよ”ほど良い待遇が得られるのは事実だが、そこまで“つよつよ”でなくても、同世代平均以上の待遇を得られるのがエンジニア職だと楓氏は言う。

 サポーターズが過去13年間、約7万人のユーザーデータを分析したところ、エンジニアのキャリアは、以下の4つに分類できたという。

 入社3年目のイメージはこうだ。トップ5%層はメガベンチャーなどで1人前になり、年収は600万〜800万円に。上位10%層はやりたいことが一通りできるようになり、年収は500万〜600万円程度に上昇。スタートアップへの転職も目立つという。

 上位20%層はSIer(システムインテグレーター)などに入社し、特定の言語やフレームワークはできるようになるものの「これは自分のやりたかったことだったっけ?」と疑問を持ち、Web系などに転職するケースが多い。残りの80%=大半は「与えられた仕事をただ何となくやる」人たちだ。

 30歳時点で、トップ5%はスタートアップでCTO(最高技術責任者)やリードを務めるなどして“神”と呼ばれ、年収は1000万円を超える。上位20%も一人前になり、年収600万円程度に届く。

 「上位20%以内に入っていれば、良い環境で働けてやりたいこともできます。アウトプットがあれば上位に入れるので、今のうちにアウトプットを出せるよう頑張りましょう」と参加者にエールを送る。

誤解4:アウトプットするのは簡単じゃない

 上位20%以内に入るために学生時代にやるべきは「アウトプットを出しておく」ことだと楓氏。だが、質の高いアウトプットを出すのは容易ではない。だから自分には無理だと思う人も多いだろう。だが楓氏は、アウトプットは「ポテンシャルが垣間見えるかどうか」が重要だという。

 「新卒エンジニアはポテンシャル採用です。企業がアウトプットから知りたいのは『今の能力』ではなく、どれぐらい成長するかという『伸びしろ』です。それを測るのに一番分かりやすいのが、どんなものを作っているかです」

 ポテンシャルを見るポイントは、「自分で考えて自分で作っているかどうか」だという。「自分で考えて自分で作ることができていれば、それでOKなんです。ハッカソンに参加するなどして、これらの習慣を身に付けてください」

 ここで問題になるのが生成AI(人工知能)だ。

 「アウトプットについて『なぜこの技術を選んだのか』『どういう課題があったのか』と質問すると、『ChatGPTに聞いた』と答える学生が増えています。AIをツールとして使うのはOKですが、ちゃんと自分で考えて自分で作っているかどうかを自問自答してください」

誤解5:AIで仕事がなくなる

 「AIでITエンジニアの仕事はなくなる」というイメージも広がっているが、これも「誤解だ」と楓氏は言う。「コードが書ければいいという時代は終わった」ことは認めつつ、「エンジニアという職業はなくならない」からだ。

 技育祭に登壇したサイバーエージェント首席エンジニアの木村衆平氏や、ディー・エヌ・エーの南場智子会長の見解を引用して、「南場さんが“起点力”とおっしゃっていた『欲求、欲望を持つ』とか、『夢中になる』のは人間の意思です」と語る。

 技術ブロガーのmizuchiさんも、「プログラマーが不要になるとは思っていない。プログラマーというのはコードを書く作業員ではなく、対象のドメインを抽象化して構成要素を分解、再構築する思考訓練を受けた専門家だ」「高度なAIは自分の鏡みたいなもので、AIから引き出せる性能は、自分の能力にそのまま比例する」とブログで指摘している。

 AI時代にもITエンジニアは必要だ。ただ「恐らく、今ほどの人数は必要なくなる」と楓さんは認める。これは「エンジニアだけではなく、営業やマーケティング、クリエイターも同じ」こと。「その中でも生き残れるニーズがあるのは、エンジニアじゃないでしょうか」と楓さんは考える。



 メッセージをまとめると、エンジニア志望の学生がやるべきことは、AIに依存せず、自分で考えて作ること。さらに、人間にしかない「起点力」を磨き、技術の変化に対応し、PDCAサイクルを回しながら常に新しいことに挑戦する姿勢だ。

 「皆さんは今、エンジニアという社会として貴重で最も足りない職業を目指しています。それを誇りに思ってほしいし、社会の期待を背負っています。僕は期待しています」

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