AI本格導入に、技術的負債の解消 企業が避けて通れない「6つの挑戦」とは IDC調査:AI時代のサバイバルガイド
IDCは2025年3月24日、AI(人工知能)を活用する企業、組織のCIOが対応すべき6つの事項をまとめたブログエントリを公開した。同ブログエントリでは、AIを価値あるものに変えるために必要な施策などについて解説されている。
IDCは2025年3月24日(米国時間)、AI(人工知能)を活用する企業、組織のCIO(最高情報責任者)が対応すべき6つの事項をまとめたブログエントリを公開した。同社は以下のように紹介している。
1.AIガバナンスを強化する
IDCの調査「IDC 2024 CIO Sentiment Survey」によると、日本を除くアジア太平洋地域の企業の41%が、AIや生成AIの活用に向けた組織的なデータガバナンスポリシーの確立に注力している。IDCは、2025年までに企業の70%が、AIに関するリスク(倫理、ブランド、個人識別情報
こうした動きに対し、企業のCIOは、戦略的なビジネス目標と明確に連携した「信頼を中心とするAIガバナンスモデル」を構築する必要がある。
2.技術的負債を削減し、イノベーションを加速させる
同調査によると、アジア太平洋地域のCIOの37%が「ITの近代化」を最優先の戦略課題としている。2025年には40%のCIOが、技術的負債を解消して競争優位性を確立するため、影響力の大きい分野で企業変革を推進するとIDCは予測している。老朽化したコードベース、時代遅れのシステム、非効率なプロセスなどの技術的負債を整理することで、企業は新技術を迅速に導入し、イノベーションの加速とAIの円滑な統合を実現する。
3.AIを価値あるものに変える
AIの導入は急速に進み、もはやニッチな技術ではなくメインストリームとなっている。しかし、多くの企業は依然としてPoC(概念実証)段階を超えた本格導入に進めないでいる。
IDCの「2024年 未来の企業のレジリエンスと支出」(FERS)の第4回調査によると、アジア太平洋地域の企業は過去12カ月間に平均24件の生成AIの試験運用を実施したものの、本番環境に移行したのはわずか3件にとどまった。その一因として、明確な方向性が欠如していたことが考えられる。IDCは、2026年時点でも3分の1以上の企業がAIの実験段階から抜け出せず、局所的なソリューションにとどまると予測している。
CIOは、ビジネス価値を生み出す指揮者(オーケストレーター)として、他のCxO(経営幹部)と連携し、曖昧なアイデアを具体的なAI活用へと変換する役割を担わなければならない。具体的には、AIの導入を加速し、一貫性を確保するために、AIのCoE(Center of Excellence)を設立し、専門知識の一元化、ベストプラクティスの共有、部門横断チームの統括を進める必要がある。また、CIOは責任あるAIの戦略ロードマップを策定してビジネスへの最大限のインパクトを実現し、倫理的な課題に配慮してリスクを事前に軽減する必要がある。
こうした動きを受けてIDCは「2026年までにCIOの70%が責任あるAIの迅速な実装に向けた戦略ロードマップの策定を主導する」と予測している。
4.AIを活用してサイバーセキュリティを強化する
サイバーセキュリティは単なるITの課題ではなく、戦略的なビジネス上の必須事項だ。しかし、脅威が高度化する中で、最終的に組織を守る責任を担うのはCIOとなる。
IDCは、2026年までにCIOの50%が、自社のITおよびセキュリティチーム全体にわたる戦略を多様化し、技術やサプライチェーンのエコシステムに対する新たな脅威や急速に進化するリスクへ対応すると予測している。CIOは、AIや機械学習(ML)を積極的にサイバー防御システムへ統合し、内部と外部の高度な脅威から組織を守る必要がある。
5.IT戦略にサステナビリティを組み込む
サステナビリティ(持続可能性)は、企業の中核的な経営課題となっており、技術投資はESG(環境、社会、ガバナンス)目標の達成において重要な役割を果たすようになっている。
IDCは、2027年までにCIOの50%が、全ての技術プロジェクトにサステナビリティ目標を組み込み、その成果を測定して投資判断を最適化し、環境目標と整合させる責任を負うと予測している。そのため、CIOはIT投資の意思決定に環境要素を積極的に取り入れ、インフラ開発やAI導入の各プロジェクトに明確なサステナビリティ指標を組み込む必要がある。
6.先進ツールを活用し、デジタルとAIスキルのギャップを解消する
AI技術の急速な普及により、デジタルスキルの不足という既存の課題がさらに深刻化している。この問題に対応するため、IDCの「IDC’s 2024 Asia/Pacific Software Survey」(2024年アジア太平洋ソフトウェア調査)によると、アジア太平洋地域の企業の45%以上が、非IT部門の従業員に開発業務の一部を担わせる動きを強めている。
IDCは、2028年までにA1000(アジア太平洋地域の主要1000社)の50%が最先端ツールを導入し、専門人材への依存を軽減し、労働力の強化とイノベーションの推進を図ると予測している。
CIOは、単に技術スキルを向上させるだけでなく、従業員のスキルをビジネス成果と適切に連携させる必要がある。ローコード/ノーコードプラットフォームを活用すれば、技術へのアクセスが民主化され、各チームが迅速にカスタマー向けアプリを開発できるようになる。このスキル変革を主導することで、CIOは市場投入のスピードを向上させ、ビジネスの俊敏性を高め、持続的な競争優位性を確立できるだろう。
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