2025年7月15日、Gartnerは「2030年に向かって企業がデジタルワークプレースを変革する上で考慮すべき6つの論点」を発表した。働き方、働く場はどう変わるのか。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、働く場所や時間に対する柔軟性要求が強まり、テクノロジーの進化がそれを後押ししてきた。特にここ数年の生成AI(人工知能)や自動化ツールの普及は、生産性や組織の在り方を大きく変えつつある。一方で、従業員のエンゲージメント低下や人材不足といった課題も顕在化しており、解決に向けた新しい働き方が模索されている。
こうした中、国際的にも注目を集めているのが「デジタルワークプレース」だ。企業文化や組織構造そのものを変える上で重要な取り組みと位置付けられている。2025年7月15日、Gartnerが発表した「2030年に向かって企業がデジタルワークプレースを変革する上で考慮すべき6つの論点」は、ITリーダーが未来の働き方を設計する際の指針となるという。
第1の論点は、働き方の柔軟化だ。従業員は個々のライフスタイルに応じて働く場所や時間を選択したいと考えており、企業はこれに応える必要がある。オフィスは単なる作業場所ではなく、創造的交流や新しい発想を生み出す場へと再定義されていく。IT部門は多様な勤務環境を支えるインフラを整備し、どこでも快適に働ける環境を提供することが求められている。
第2の論点は、現実世界と仮想世界の融合にある。拡張現実や仮想現実は情報伝達や共同作業を強化する手段として進展し、スキル習得や人材育成の効率化に貢献すると予測される。これにより、従業員がより直感的かつ効果的に学び、協働できる仕組みが形成される。ITリーダーには、セキュリティやプライバシーに配慮しつつ、これら技術の導入が求められる。
第3の論点は、生成AIの普遍化だ。2030年には文書作成や顧客対応などに自然に組み込まれ、日常業務に不可欠な存在となると見込まれている。成功の鍵は、まず積極的な部門や個人から取り組みを始めて全社的に広げる点にある。生成AI活用を推進する環境を組織的に整備し、専門チームによる戦略的な活用推進が望まれる。
第4の論点は、AIが同僚のように職場に加わる未来だ。AIは大量のデータ処理やルーティン業務を担い、人間は創造的で戦略的な仕事に集中できる体制が整う。企業はこの協働を前提に役割を再定義し、従業員のリスキリングを支援する必要がある。加えて、キャリアの不安を軽減し、モチベーションを維持するための職務設計や教育施策が不可欠となる。
第5の論点は、週4日勤務制度の拡大だ。従業員の価値観が多様化する中、短縮勤務を採用する企業は増加する可能性がある。この制度はエンゲージメント向上に資するが、情報共有の課題を伴う。IT部門は非同期型のコミュニケーション手段や自動化の仕組みを整え、効率的に仕事が進む環境を整備する必要がある。業務の自律化と省力化の推進が前提となる。
第6の論点は、現場労働者の働き方の変革だ。日本における現場の人材不足は顕著であり、テクノロジーによる効率化や安全性の向上が急務となっている。機械が担える業務は機械に委ね、人間は創造的で人間らしい業務に注力できる体制を整えることが求められる。特に、負担軽減やスキル継承の領域で優先的に取り組みを進め、現場環境の改善を図ることが重要だ。
6つの論点は、単なるシステム導入ではなく、組織文化や人材戦略そのものを刷新する方向性を示すものだ。ITリーダーは経営層や各部門と緊密に連携し、テクノロジーを最大限に活用する戦略を描くことが必要だろう。
特に生成AIの浸透が象徴するように、人ならではの力とテクノロジーならではの力を見据え、それらをどう融合するかが問われている。組織文化の変革にも関わるこのテーマは成果を得るまでに相応の時間が必要だ。既存業務の効率化を目的とした表層的なテクノロジー実装にとどまらず、新たな価値創造に向けて、可能な部分から一日も早く「場」や「プロセス」にテクノロジーを埋め込み、組織的に“DCPA”を回していくスタンスが求められる。
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