HPEによるJuniperの買収がとうとう実現する。最後の壁となっていた米司法省との和解が成立したからだ。和解に当たっては、2つの条件が義務付けられた。
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米司法省(DOJ)は2025年6月28日(米国時間)、Hewlett Packard Enterprise(HPE)によるJuniper Networksの買収につき、2社と和解したと発表した。これで買収を阻む最後のハードルをクリアできたことになる。いつ、正式な買収完了が発表されてもおかしくない。
HPEとJuniperは2024年1月、両社合意による買収を発表した。その後、英国や欧州共同体(EU)などの関連国/地域がこれを承認。しかし、2025年1月になってDOJが独占禁止法違反で2社を提訴したため、買収プロセスはストップしていた。
自他ともに認めるネットワーク業界の巨人はCisco Systemsだ。HPEとJuniperのネットワーク事業における売り上げを合わせても、Ciscoの3分の1に満たない。それでなぜ市場を独占する可能性があるのか。
DOJが説明した提訴理由は、特に企業向け無線LANで2位と3位にある企業が統合されると、この市場における競争環境が阻害され、製品価格の上昇やイノベーションの妨げにつながるというものだった。
いずれにしても司法省は買収をブロックし、半年後の6月下旬に和解したことになる。
和解内容は主に2つある。HPEの無線LANビジネス売却と「Mist AI」の他社へのライセンスだ。
まず、HPEは「Instant On」と呼んできた自社の中堅・中小企業向け無線LAN製品群を売却することになる。
「資産、知的財産、研究開発(R&D)要員、顧客関係を含め、全てをDOJが承認した買い手へ180日以内に売却しなければならない」(DOJの発表)
HPEは2015年に無線LAN製品ベンダー、Aruba Networksを買収した。Arubaは買収後、有線LANやSD-WANを含め、HPEのネットワーク事業を引き継ぐ形で統合的に推進した。最近になってHPEの組織に完全に組み込まれたものの、「HPE Aruba Networking」という名前が使い続けられている。
[2025/07/02 23:40] Instant OnがHPE Aruba Networkingの無線LAN製品の全てではないとの指摘や記者説明の内容を受けて、以下の部分を修正しました。
HPEは、無線LANで大規模環境向けの製品ラインを展開する一方、Instant Onというブランドを数年前に始め、中堅・中小企業向けの製品群を提供してきた。後者のInstant Onが売却されることになるという。
もう一つの焦点となるのは、AI(人工知能)を生かしたネットワーク運用管理。
HPEがAruba由来なら、JuniperはMist Systemsという無線LANベンダーを買収し、製品群を強化してきた。そして、Mist社が持っていたAI(人工知能)機能を発展させた「Mist AI」に注力してきた。AIを活用して、ネットワーク製品の設定からトラブルシューティングまでを自動化/効率化することを目指している。
Juniperは無線LAN以外のネットワーク製品にもこの技術の適用を拡大、「ネットワークの包括的なAIOps(AIを活用した運用管理)」への移行をアピールしてきた。
一方でHPE側は、「HPE Aruba Networking Central」というAIドリブンなネットワーク運用管理プラットフォームを展開している。
これら2つの運用管理製品は、今後のHPEにおけるネットワーク事業戦略を支える柱となる。買収完了後のブリーフィングでの説明によると、どちら側の顧客でも、HPEの描く理想的な世界に近づけるようにしていくという。
和解のもう一つの条件として挙げられたのは、Mist AIの他社へのライセンス供与だ。
「Juniper Mist AIOpsのソースコードをライセンス供与するためのオークションを実施しなければならない。このライセンスは永続的かつ非独占的なもので、競争を促進するための移行サポートや人員移管の選択肢も含まれる」(DOJの発表)
ライセンスは最大で2社に提供する必要があるという。供与先は米国政府が承認した相手に限るとしている。なお、所有権はHPEが維持する。
これは今後のHPEにとって大きな足かせとなりそうに見える。だが、HPE CEOのアントニオ・ネリ氏によると、ライセンスの対象となるソースコードは「AIオペレーションの部分」であり、Mistコードのほんの一部だという。
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