だからといって、「何も気にしなくていい」というわけではありません。新入社員と関わる上で、注意すべき点はあります。
僕たち40代以上の人は若いときに、今ならパワハラ、モラハラと言われる部類の理不尽な扱いを受ける機会が多くありました。目的も告げられないまま「いいからやれ!」と仕事を指示されたり、「そういうものだから」と妥協を強要されたりするケースもありました。何の悪気もなくプレッシャーをかけてきたり、傷つけたりする人もたくさんいました。
こういった人は今もいますけどね。でも、以前の方がはるかに多かった。実際、動画サイトで過去のドラマを見ていると、よくありますよね。「これ、今だったらアウトだな」というシーンが。でも、かつては問題視されることもなく、そうした理不尽な言動がなされていたわけです。僕たちはそのような環境で育ってきました。ドラマではありませんが「不適切にもほどがある!」と言ってやりたい。
それだけに、自分たちも「悪い」という認識がないまま、無意識にパワハラ、モラハラな言動をしてしまう恐れがあります。それを防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。
皆さんもかつて、パワハラ、モラハラな言動を受けて、「何でそんな言い方をされなければいけないんだろう?」「何でそんなひどい仕打ちを受けなければならないんだろう?」「もっとちゃんと教えてよ」と、悔しく、悲しい思いをした経験が、一度や二度はあるはずです。
それならば、自分が「悔しい」「悲しい」と思った言動を、次の世代に繰り返さないようにしましょう。僕らの時代で断ち切りましょう。若かりし頃の悔しく、悲しい気持ちを思い出して、よく味わって、その言動を繰り返さないようにすること。まずは、そこからでいいんじゃないかと思います。
最後に、新入社員との良好な関係を築くためのコツをお話しします。大きく分けると2つあります。僕が実際に試して、とても効果的だった方法です。一つは「新入社員の不安に耳を傾ける」こと。もう一つは「ネガティブな状況に肯定的な意味を付け、伝える」こと。
先ほど、新入社員の不安は「人間関係」と「仕事をうまくこなせるか」の2つだという話をしました。彼らがこれらの不安を抱えているときに必要なのは、「その場合は○○した方がいいよ」といったアドバイスや、「分かるよ。俺が若い頃は……」といった上司の体験談ではありません。
まず、彼らが話す機会を作り、その話に耳を傾けること。自分の話をする前に、いったん受け止めること。そこから始めましょう。
話を聞くときには、相手の話に耳を傾け、会話の切れ目で「なるほど、○○に悩んでいるんだね」「そうか、××ということがあったのか」「つまり、△△という気持ちなんだね」のように、相手の話を要約したり、確認したりしながら話に耳を傾けます(専門用語では、これを「バックトラッキング」と言います)。「私はこのように理解しましたが、合っていますか?」「伝えたいのは、こういうことですね」と確認しながら話を聞くイメージです。
なお、「困ったときは何でも言ってね。話を聞くから」という言葉は一見優しく聞こえますが、そうとは限りません。本当に困ったり悩んだりしているときに、新入社員からは声を掛けづらいものですから。
不安を早めにキャッチアップするためには、1週間に1回など、定期的に話をする機会を設けることをお勧めします。いわゆる1on1ミーティングですね。
まず相手の話に耳を傾けることで、「○○さんは私の話を聞いてくれる」「××さんは私のことを分かってくれる」と思ってもらえる関係性ができるでしょう。なお、成長を支援するために「ここは、アドバイスをした方がいいな」と思うこともあると思います。その場合は、話をいったん聞いた後に伝えるといいでしょう。
仕事をしていると、ネガティブな状況に陥ることがあります。特に経験が少ない新入社員の場合は、先輩の言っていることが理解できなかったり、作業のスピードが遅かったり、繰り返しミスをしたりして、落ち込むこともあるかもしれません。
そのような場合、僕たちが言われてきたのは「何度言ったら分かるの?」「ちゃんとメモを取りなよ」といったコミュニケーションでした。そのため、自分が注意する立場になった今、同じような伝え方をしたくなることもあるでしょう。でも、それでは人は萎縮するだけです。
このような場合にお勧めなのが「肯定的な意味を付ける」という方法です(専門用語で「リフレーミング」と言います)。リフレーミングは、ネガティブな状況に対して、それに役立つポジティブな意味や状況を考えて伝えます。
「経験がないために、先輩の言っていることが理解できない」という状況を例にとって考えてみましょう。どんなポジティブな意味が考えられるでしょうか? この経験が、どんなところに役立つでしょうか?
リフレーミングをするときは、「○○のおかげで……」「××だからこそ……」といった言葉を付けると、考えやすくなります。
「経験がないために、先輩の言っていることが理解できない。そのおかげで……」
「経験がないために、先輩の言っていることが理解できない。だからこそ……」
例えば、こんな感じです。「先輩が言っていることが理解できないのは、まだまだ伸びしろがあるってことだよ。質問すれば先輩と話す機会にもなるね。積極的に質問してみたら?」「先輩が言っていることが理解できないからこそ、繰り返し実践する機会になるんだよ。理解できるまで実践することが大切だよ」のように。
イメージとしては、元サッカー選手の本田圭佑さんや、お笑いコンビ「ぺこぱ」のお2人のような言葉遣いですね。
「作業のスピードが遅い」ならどうでしょうか? 「作業のスピードが遅いと不安になるのは、それだけていねいにやろうとしている証拠だね。○○を××にすると、もっと早くできるようになるよ」といった感じなら、アドバイスも受け入れやすくなるかもしれません。
リフレーミングを使うと、相手のネガティブな意識をポジティブにリードできます。頭をひねる必要があるのでうまくいかないこともありますが、でも大丈夫。ポジティブな意味を考える試み自体が大切です。自分にとっても、物事にポジティブな意味を付ける柔軟な思考のトレーニングにもなります。
「事実は変えられないが、解釈なら変えられる」。これが、コミュニケーションの可能性です。
新入社員との関わり方について見てきました。
繰り返しになりますが、最近は「○○世代の特徴」といった情報が多いですね。そういった情報に触れると、「自分とは考え方が違うんじゃないか」と不安になるのも当然です。また、近年はコンプラ社会といわれています。「こういう言い方はパワハラになるんじゃないか?」と心配になることもあるでしょう。
また、新入社員が思い通りに動いてくれないと「最近の若い世代はこれだから……」のように、ある世代をまるっとひとくくりにして表現してしまいがちです。
でも、現代の新入社員と、僕らが新入社員だったときの不安は、さほど変わりません。また、僕ら同年代でもさまざまな価値観、さまざまな個性の人がいるように、若い世代の一人一人にもさまざまな価値観、さまざまな個性があります。「Z世代」とは誰かが勝手に付けたラベルのようなもので、実際には「Z世代さん」という人はいません。いるのは「私とあなた」です。
新入社員との関わり方に不安を覚えるのは「できれば、いい関係を築きたい」と思っている証拠であり、あなたの優しさです。まずは、新入社員の不安に耳を傾けること。そして、さまざまな状況に肯定的な意味を付け、伝えること。
もちろん、これで全てが解決できるわけではありませんが、新入社員一人一人に目を向ければ、良い関係が築けるようになるでしょう。少なくとも「最近の若い世代は〇〇の”傾向にある”と“言われている”」といったふわっとした情報で、過度に不安になることは少なくなるはずです。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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