MicrosoftはMicrosoft 365サブスクリプションにおいて、商用データ保護付きの「Bingチャット」である「Bingチャットエンタープライズ(プレビュー)」を既定で有効化し、プレビュー版の提供対象を広げました。
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Microsoftは「GPT-4」ベースの生成AIで強化された「Bingチャット」を、「Bingサイト」と「Microsoft Edge」のサイドバー(「b」アイコンのクリックで表示)に組み込んで提供しています。
「Bingチャット」をコンシューマー(一般)ユーザー向けとするなら、「Bingチャットエンタープライズ」は企業向けです。Bingチャットと同じ技術をベースとしていますが、GPT-4そのものではなく、ビジネス向けにカスタマイズされた機能を提供します。
Bingチャットエンタープライズは、「Microsoft 365」のE3、E5、Business Standard、Business Premiumのサブスクリプションライセンスを持つユーザー向けに追加費用なし(無料)で提供されます。2023年7月18日(米国時間)にプレビュー提供が開始され(既定で無効)、2023年8月17日(米国時間)にMicrosoft 365サブスクリプションのテナントで既定で有効化されました。
一般提供の時期は明らかにされていません。対象ユーザーの資格情報(Microsoft Entra IDアカウント、旧称Azure ADアカウント)でMicrosoft Edgeにサインインしている場合、Microsoft EdgeでBingサイトにアクセスするか、Microsoft Edgeのサイドバーの上にある「b(検出)」アイコンをクリックすると、通常版のBingチャットではなく、Bingチャットエンタープライズにアクセスできるようになります(画面1)。
また、対象のサブスクリプションライセンスを持っていないユーザーには、おそらく一般提供開始後に、1ユーザー当たり月額5ドルでスタンドアロン版が提供される予定です。なお、現状、Microsoft Edge バージョン114.0.1823.86(2023年7月18日リリース)以降のみがサポートされ、「InPrivateモード」では利用できません。将来的には他社のモダンブラウザでも利用可能になる予定です。
2023年8月21日(米国時間)にリリースされたMicrosoft Edge バージョン116(安定版)からは、Microsoft Entra IDを使用してMicrosoft Edgeにサインインするユーザーは全て、企業向けの新しい「Microsoft Edge for Business」(これまでの企業向けダウンロードオプションとは別)に移行し、ブリーフケース付きのアイコンに変更され、個人向けブラウザとは明確に識別されるようになります。この変更は、Bingチャットエンタープライズの有効化とは直接的には関係ありません。
Microsoftの計画では、BingチャットとBingチャットエンタープライズの両方に機能セットの全てを実装する予定です。ただし、現状では、チャット履歴、プラグインのサポート、Bingイメージクリエーター、画像検索の機能は、Bingチャットエンタープライズでは利用できません。
BingチャットエンタープライズはMicrosoft 365サブスクリプションで費用なしで利用可能になる機能ですが、Microsoft 365のデータに直接的にアクセスする機能はありません。その機能は、Microsoft 365サブスクリプションで1ユーザー当たり月額30ドルの追加費用で利用可能になる予定の「Microsoft 365 Copilot」が担います。なお、チャットプロンプトにMicrosoft 365のデータを直接入力することは可能であり、その方法でMicrosoft 365のデータを絡めた作業は可能なようです。
BingチャットとBingチャットエンタープライズの最大の違いは、チャットに入力されたデータの扱いにあります。Microsoftが提供する(提供予定の)他のAI関連サービスと同様、MicrosoftはBingチャットエンタープライズに入力された個人データおよび商用データをAIのトレーニング(学習)に利用することはせず、Microsoftもチャット履歴に直接アクセスすることはありません。従って、入力データは保護され、外部には漏えいしないことが保証されます。一方、GPT-4ベースのBingチャットは、入力データが匿名化された上でトレーニングに再利用されます(画面2)。
匿名化されるとはいえ、Bingチャットに入力したデータはAIのトレーニングに利用されてしまうため、機密データの漏えいが懸念されます。しかし、Microsoft Edgeを利用している限り(システム的に利用をブロックしない限り)、Bingチャットは誰でもアクセスできてしまいます。Microsoft 365サブスクリプションでBingチャットエンタープライズが既定で有効化されることで、機密データの漏えいの懸念を取り除きながら、社員への生成AIの活用を促すことができるでしょう。
Bingチャットエンタープライズは、Microsoft 365テナントのグローバル管理者でMicrosoft Edgeにサインインし、「https://aka.ms/TurnOffBCE」または「https://www.bing.com/business/bceadmin」にアクセスすることで、テナント全体で無効にできます(画面3)。
Bingチャットを完全に利用禁止したい場合は、以下のサポート情報を参考に、ネットワークレベルで「www.bing.com」を「strict.bing.com」または「nochat.bing.com」のIPアドレスに名前解決されるように構成します(画面4)。
上記方法だけでは、サイドバーの上にある「b」(検出)ボタンは残ります。Bingチャットへのアクセスをブロックした場合、この「b」ボタンをクリックすると、現在表示中のサイトの概要(生成AIを使用しないサイトの概要)などが表示されます。
この「b」ボタンはユーザー個人でMicrosoft Edgeの「設定|サイドバー|アプリ固有の設定|検出|Bingチャットの表示」から無効にできますが、Microsoft Edgeのポリシー管理テンプレートを使用すれば、社内のデバイスに一括設定できます。具体的には、Microsoft Edgeの管理テンプレートの「ハブサイドバーの表示」ポリシーを「無効」にすることで、サイドバーの機能そのものを無効化できます(画面5)。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2024(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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