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カヌーと物理が好きな女子高生が、JICAの青年海外協力隊員としてタイでプログラミングの先生になった話Go AbekawaのGo Global! 森見真弓さん from 日本 to タイ(前編)(2/2 ページ)

幼少期から「ものづくり」と科学技術に魅せられた森見真弓さん。カヌーとアンテナに熱中した学生時代から、ハードウェア、ソフトウェアの開発に熱中したエンジニア時代を経て、青年海外協力隊のメンバーとしてタイに赴任した彼女の、行動の原動力に迫る。

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「目に見えないのに使える」電波とアンテナへの傾倒

 高校卒業後、森見さんは帝京大学 理工学部 電気・電子システム工学科に進学する。父親がエンジニアであり、得意科目が数学と物理であることから、理系を選んだのも自然な流れだったといえよう。電気系を選んだのは、「目に見えないものよりものづくりや物理の方が好きだったので、電気か機械かなっていう感じで」という理由からである。

 大学時代は「ずっとものづくりや物理の成績が良かった」という彼女だが、「電波とアンテナの『目に見えないのに使える』ところに興味を持って、結局アンテナの研究をしていましたね」と語る。

 簡単な金属でダイポールアンテナなどを作り、電波を飛ばせるかどうか試すことから始め、「こういうアンテナだとこういう電波の方向があってデータが飛ばせる、という理論の方を、大学時代はやっていました」と、理論的な側面を深く探求した。卒業論文でも簡単なものを作り、理論を多く記述して提出したという。


米国 ネバダ州で超小型人工衛星の実験機を打ち上げた

 大学院では工学研究科(現 理工学研究科)情報システム工学専攻に進み、研究テーマは「超小型人工衛星のアンテナ」へと進化した。

 大学でアンテナを研究したことで、「やっぱり作りたくなっちゃって。一番難しいアンテナって何かと考えたときに、人工衛星のアンテナは完璧にして打ち上げないと修理できないので一番品質を目指せるかなと思いました」と、より高度な「ものづくり」への意欲からの選択であったことを語る。

 大学院時代は、ものづくりへの関心と同時に、開発と研究どちらの職が自身に向いているのかを考える期間でもあった。鉄道会社でインターンシップをし、内定も得たが、「電車の保守よりも作る方が好きだ」と思ったという。「大学院時代に、私は0から1を生み出すよりも1から100にする方が楽しいタイプだと分かって、『では開発だ』と進路を決めました」と、技術を応用、発展させる「1から100」にするプロセスに喜びを見いだしたことを語る。


H-IIAロケットから、森見さんの超小型人工衛星が宇宙に放出された瞬間

社会人としてのエンジニア経験、そして青年海外協力隊への道

 大学院修了後、森見さんは無線通信機器メーカー「アイコム」に入社する。入社当初は電気回路設計を担当し、約2年間「回路設計したり、作った機械を測定したり」という業務に携わった。特に「ハードウェア設計としては4層基板などを書けたので、とても面白くてやりがいありました」と、開発の楽しさを実感していたようだ。その後、5年間ソフトウェア開発を担当し、通算7年間アイコムで勤務した。

 2017年1月、森見さんは国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員としてタイへ渡ることを決意する。

 決断の背景には、中学時代から宇宙関連の仕事と協力隊への参加という2つの目標を抱いていたことがある。「人工衛星は大学院時代に打ち上げたけど、協力隊はまだだったなと思って」と、長年の夢をかなえることにした。中学時代の理科教師が協力隊員であったこと、協力隊にはエンジニアの案件が多いと知ったことも決断を後押しした。

 当初はアフリカを希望していたが、面接での話し合いの結果、「技術が進んでいる国の方がいいんじゃないかという話になって、タイになりました」と決断も軽やかだ。

 タイを訪れるのは初めてであったという。



 森見真弓さんのキャリアは、幼少期からの揺るぎない「ものづくり」への情熱と、高度な技術開発への探求心に裏打ちされている。

 高校でのカヌーでの全国レベルの活躍、大学や大学院でのアンテナ研究、そしてアイコムでのハードウェア、ソフトウェア開発。その全てが、彼女を「1から100」を生み出す開発の道へと導いた。そして、長年の夢であった青年海外協力隊への参加を決意し、未知の国タイへと飛び立つ――。

 後編では、森見さんがタイの地で直面したプログラミング教育の課題、それを乗り越えるために企画したハッカソンの詳細、そしてその経験を通じて得た自己変革と異文化理解の深まりについて、掘り下げていく。タイの学生たちに「ものづくり」の楽しさを伝え、カリキュラムにまで影響を与えた彼女の奮闘に注目したい。

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