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ベンダーが失敗の責任をユーザー企業に負わせるのはズルい「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(125)(1/2 ページ)

準委任契約で進めていたアジャイル開発プロジェクトが頓挫した。ユーザー企業は、システムの未完成を理由に開発費用の支払いを拒み、ベンダーは、準委任契約なので成果物の完成義務は負わないと反論した。裁判所はどちらの言い分を認めたのか――。

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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

編集部:準委任契約について認識の誤りがありましたため、タイトルと本文を修正しました(2025年9月5日)


 筆者は普段、政府機関で働いている。役所というところは当然ながら、システムの開発においても事前に期待効果や実現する機能などをできる限り明確にしなければならない。故に、開発中に機能や要件が変化する可能性があるアジャイル開発は役所の予算制度との相性が悪いところがあり、なかなかアジャイル開発を見ることができなかった。

 だがそんな役所でさえ、アジャイルによるシステム開発が徐々に見られるようになってきた。役所がアジャイル開発に興味を持つようになってきたのは、アジャイル開発の方が、よりユーザーの要望に近いシステムが作れそうだという認識が世間一般に定着してきたことによるのかもしれない。

 アジャイル開発と相性の良い契約型と言えば、請負契約よりも準委任契約ということになるだろう。

 詳しい説明は省くが簡単にいえば、請負契約が「成果物の完成を約束する」ものであるのに対し、準委任契約では受注者は成果物の完成責任を負わない。実際の開発現場において準委任契約に基づく作業が行われる場合、受注者は見積において提示した作業工数に基づき業務を遂行することになる。

準委任契約におけるベンダーの責任とは?

 この準委任契約はアジャイル開発と相性が良いといわれる。アジャイル開発は成果物であるソフトウェアやシステムの持つ機能や特性が契約期間中に変わっていくことが多い開発方式であるため、契約時点で、完成すべき成果物の要件を定義しきれない場合が多いからだ。

 アジャイル開発が徐々に増えていけば、それにつれて準委任契約も増えていくであろうことは想像に難くない。ここで問題になるのは、準委任契約において、ベンダーはどのような責任を負うのかという点である。

 前述した通り、準委任契約は成果物の完成を債務とはしない。最終的にシステムが完成しなくても費用を払ってもらえることが多いわけだが、ベンダーは人さえ出していれば債務を履行したことになるのであろうか。それ以外にベンダーには責任を負うべきことはないのか――。

 今回はそのあたりが問題となった訴訟を見てみたい。

東京地方裁判所 令和2年9月24日 判決より

ある開発ベンダーは、ユーザー企業からの委託に基づき、イベント管理システムの開発をアジャイル型で行った。契約型は準委任であり、開発ベンダーは成果物の完成に責任を負わないことが契約書に明記されていた。

しかしながら開発は遅延し、完成のめどが立たないと判断したユーザー企業は契約を解除し、システムの未完成を理由に開発費用の支払いも拒んだが、開発ベンダーは契約上、成果物の完成義務は負っていないとして費用の支払いを求めて訴訟を提起した。

公刊物未掲載 事件番号 平成28年(ワ)29834号

 準委任契約では、ベンダーは成果物が完成しないことに対する責任、すなわちプロジェクト全体の進行管理に関する責任は、ユーザー企業側にあるとする主張である。確かにそれは準委任契約の考え方に照らして一定の妥当性がある。

 ただ、現実にはそうきれいに責任分担ができるわけでもない。なぜならば、ユーザー企業はシステム開発について素人であり、ベンダーの作業を事細かに指示したり、その妥当性を確認したりする知識を十分に持っていない。

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