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月に住んでも寂しくない Interopで見つけた惑星間インターネットと月面開発の夢Interop Tokyo 2025 Internet x Space Summitレポート(2/2 ページ)

Interop Tokyo 2025のInternet x Space Summitでは、宇宙開発についての議論が行われた。月面での人々の生活を支えるデジタルインフラとはどういうものなのか。本稿では、宇宙分野に関わっていない人こそ注目すべきセッションをレポートする。

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 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦教授は、もともとJAXAで宇宙開発に携わっており、大規模なものを最適化するという「システムデザイン」の観点から、月面、そして火星を考えている。

 ロケットで運べる荷物は限りがあるという観点だけでは不十分で、「月面に行ったとき、人がどう生活できるかを考える必要がある。宇宙の専門家だけではうまくいかない。街を作るにしても人間ではなくロボットのようなものが活躍する時代が来る」と想定する。そのときに必要なものこそが、計算能力や、低遅延で最適な通信が行えるインフラだ。

 そこに日本はコミットしようとしている。宇宙戦略基金も立ち上がり、予算が付こうとしている。

 「例えば地球では当たり前に使われる、GPSによる測位も月面では考慮が必要。いま、月面での衛星測位の取り組みを日本主導でやろうという議論も起きている。“宇宙村”と呼ばれるような宇宙関係者だけではリソースが不十分。日本が宇宙業界をリードしていければ大きなパワーになる」と述べる。

 これについて「非常に夢がある」と村井氏も反応する。本サミットをInteropの会場で行う意味について「たくさんの人が関心を持ってくれ、日本のベンチャー企業によるチャレンジも広がっている」と述べた。

 金子氏はInternet x Space Summitの3年間を振り返って、こう話した。

 「1年目の参加者は通信関連企業が中心だった。しかし、通信というのは誰かに使ってもらうもので、“ユーザー”が必要。2年目以降は使う側になるような人たちをたくさん呼んだ。その結果、月面でエネルギーを生成する計画がある企業や、ロボットを使い探索することを考える企業など、いろいろな通信の“使い手”が集まった」(金子氏)

 そしてこう呼びかけた。

 「通信は手段。データを処理して、利用可能にすることで初めて意味を成す。処理と蓄積と利用に焦点を当て、デジタル業界の皆さんもぜひ参加してもらいたい」(金子氏)

「月面社会」という夢――技術で孤独を解決する

 月面開発そのものに参加できる企業は少ないかもしれない。しかし片岡氏は「自社の事業が地球での生活に向けて考えられるのならば、宇宙開発との両立もできるのではないか」と述べる。

 サミットのブースでは、かつてインターネット黎明期に村井氏もマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究室と行ったという「talkコマンド」によるチャットを、月面との間で行ったときにどうなるのかを示すデモを行った。

 その意義について村井教授は「月面社会を作り生活したとしても、地球には家族がおり、コミュニケーションが必須だ」と述べた。

 インターネットが最も貢献したのは、家族が世界に散らばったとしても、インターネット技術で会話できるようになったことだと村井氏は話す。同じことを宇宙生活でも実現できれば、仲良く励まし合って生きていくことができる。

 「速い通信と計算量があれば、月面に1人でいたとしても、実はバーチャルで周りに人が多数いるような環境を作り出せる。例え月面で孤独であっても、それを感じないようなことが技術でできるのではないか。その技術を日本が支える。日本人ほど、月を見る国民はいないのだから」(神武氏)

 アポロ計画で月面に人類が立ってから56年。これからの探査はデジタルの力で変えていくことができる――。Interopという場で宇宙開発が語られる理由はそこにある。そもそもInteropとは「Interoperability」(相互接続性)を由来としており、宇宙との相互接続を考えたとき、村井氏も述べるように最も適切な場であるとも考えることができるだろう。宇宙村の外にいるわれわれにも何かができるかもしれないと思えるようなイベントだった。

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