エンジニアにはただの計算式の塊でも、われわれにとっては秘伝のノウハウなんです!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(120)(1/2 ページ)
レースの編み機を制御するソフトウェアを開発した技術者が、退職後に同じようなソフトウェアをライバル企業に納品した。開発者や開発者が在籍していた企業は、秘密保持義務違反となるのか――。
IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「ソフトウェア開発における秘密保持義務」を取り上げる。
プログラムの権利といえば、著作権が代表的なものである。あるプログラムを作成して著作権をユーザー企業に譲渡したにもかかわらず、元の作成者がこれとよく似たプログラムを作って第三者に販売したとき、作成者はユーザー企業から著作権違反として訴えられる可能性があることを、以前本連載で扱った。
プログラムの権利について注意すべきことは他にもある。ソフトウェアを開発する際、その委託契約に秘密保持を義務付ける条項がある場合、作成するプログラムのアルゴリズムも「営業機密」と捉えられ、これを流用して別の顧客向けのプログラムを作ると秘密保持義務違反として訴えられる危険がある。
プログラムにはユーザー企業の業務上のノウハウや独自の工夫が含まれており、それが他企業に流出するとユーザー企業は損害をかぶる可能性がある。これらは営業機密であり、ベンダーが勝手に流用することは、許されない。
普段開発をする際には、著作権は気にしても営業機密までは注意が及ばないこともあり、思わぬ損害賠償請求を受ける可能性もある。そこで今回は、ベンダーの開発者に対して、あるいはユーザー企業の担当者に対する注意喚起として、本件を今回取り上げることとした。
秘密保持義務違反を訴えられた裁判
まずは概要をご覧いただきたい。
東京地方裁判所 平成18年12月13日判決より
ある繊維関連事業の協同組合(以下 協同組合)がトーションレース(目の粗いレースの一種)の編み機を制御するソフトウェアの開発をソフトウェア開発会社(以下 ベンダー)に委託した。
協同組合とベンダーの間に結ばれた開発委託契約には秘密保持条項があり、業務上知り得た営業機密の漏えいをしてはならないことが定められていた。
ソフトウェアは完成し協同組合に納品されたが、その後ベンダーの開発者の一人が退職した上で、別のレース製造業者(以下 訴外企業)からの依頼に基づき、同じようなトーションレース編み機の制御ソフトウェアを開発して納品した。2つのソフトウェアの機能がほぼ同じであったことから協同組合はこれを営業機密の漏えいと判断し、開発者による訴外企業へ向けプログラムの開発と納品は信義則上の秘密保持義務違反であるとして、損害賠償などを開発者に求める訴えを提起した。
出典 裁判所ホームページ 事件番号 平成17年(ワ)12938
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