前例のないアジャイル事例を達成したらCOBOLプロジェクトを任された:Go AbekawaのGo Global!〜牛尾さん from 日本 to 米国(前)(3/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回は世界で活躍する日本出身のエンジニア、牛尾 剛氏にお話を伺う。プログラミングをやりたくて大企業に入社するも、営業的な仕事ばかり。そこで同氏が取った「ギーク的な行動」とは。
「NECがやっていれば、他の会社もやりやすいんじゃないか」
阿部川 途中でどんな変化があったのですか。
牛尾さん 5年目くらいに、吉田さんっていうすごいイケてる人が僕をSEにしてくれたんです。ガチガチの営業からSEになって、プログラミングの仕事にアサインされたんです。
ちょうどそのころ、「オブジェクト指向」が話題になり始めていて、僕は東京までその教育を受けに行ったんです。そこで、XP(eXtreme Programming)を知って。今で言うアジャイル開発なんですけど、それで結構衝撃を受けて記事とか本とか読みあさりました。
僕、ADHDやし、細かいの苦手なんですよね。だから、ウオーターフォールでやるなんて「あんなん僕、絶対無理やな」と思っていた。ところが、そのXPってやつやったら僕でもできるかもしれんと思って。勉強すれば勉強するほど、「どう考えてもこっち(アジャイル)の方が僕には合ってんねん。むしろどう考えたらウオーターフォールでうまくいくと思うの?」ってなっていったんです。
阿部川 アジャイルの講演などをするようになったのはその頃からですか。
牛尾さん そうですね、社内でコミュニティー作ったり、社外で発表したり。当時の自分の使命感として、プログラマーの地位を向上させたかったんですよ。僕はプログラマーになりたかったのに「かっけー」っていうプログラマーが安い月給でひどい扱いを受けていると感じていて。そういうのがすごく嫌やったんです。
阿部川 パワーを持っている一次請けが、プログラマーを管理するといった構図ですね。
牛尾さん 大手企業って一般的にはマネジメントだけでプログラミングしないじゃないですか。そういうのがすごい嫌やったんです。ただ、大手企業は何かしないと人々の注目を集められないのは確かやから、僕も仕事の半分は社内政治のような仕事をしていました。
でもみんなアジャイルに反対するんですよ、「大手ではできないよね、大規模ではできないよね」とか言って。だから、偶の音も出ないような事例を作ってやろうと思いました。NECもやっているっていう看板があれば、他の会社もやりやすいじゃないですか。
阿部川 そればそうですね。「NECさんがやっているなら」となりますね。
牛尾さん それでうまくいった事例が『日経コンピュータ』にばーんと載ってね。当時の、龍野さんっていう部長がすごくサポートしてくれて、良い職場環境でした。
阿部川 でも、転職するんですよね。
牛尾さん そうですね、何で転職したんやったかな……。周りはサポーティブやけど、それでもやっぱり大きなとこでアジャイルを続けるのは大変やったんですよね。『日経コンピュータ』に載るような事例もできて、社長賞ももらって、そんなんやったら次もアジャイルをプロモートしてくれるかなと思ったら、実はそうではなく、みたいな。
「牛尾はプロジェクトマネジャーとして成長しなあかんので、良いプロジェクトを与えてやろう」ってなったんみたいです。「なら『COBOL』のプロジェクトだ、名古屋で3年ね」みたいなこと言われて。きっと周りはすごい親切でやってくれているんでしょう。でも、僕としては、アジャイルでオブジェクト指向ちゃんとできて「こんな人、他のどこにいてるんすか」って感じじゃないですか。そいつをわざわざそのプロジェクトにアサインするってどうなんだろう、みたいに思って。
このお話を聞いたときに笑ってしまいました。当時の大企業ではありがちな話ですね。扱う技術が何かよりも「もっと困難で、もっと規模が大きいプロジェクトを経験すれば、より成長する」という発想ですよね。それ自体が駄目なわけではないのですが、アジャイルでバリバリやろうと思っているときにそれを言われたかと思うと、心中お察しします。
自分は人の3倍やってようやく一人前――からっとした表情で、悲壮感なく、それでいて冷静に「自分の性能」を説明する牛尾氏。受験勉強で出会った書籍で「メソッド」に出会い、道が開けた。だからといってその後、全てが思うようには進んだわけではなかったようだが、本人の話から感じられるのは「自分が好きなことを諦めなければ、なるようになる」といった前向きさだ。後編はMicrosoft入社後の話を聞く。
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