MRI画像のAI解析などで利用できる「脳画像ビッグデータ」を公開 国際電気通信基礎技術研究所ら研究グループ:「疾患を対象とした大規模なオープンデータは限られている」
ATR脳情報通信総合研究所の研究グループは「複数疾患の脳画像ビッグデータ」を一般公開した。多くの施設で統一のプロトコルで撮像した複数精神疾患のfMRIデータと旅行被験者データを合わせてデータベース化したもので、オンラインプラットフォームでダウンロードの申請ができる。
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と東京大学、日本医療研究開発機構(AMED)は2021年8月30日、複数疾患の脳画像ビッグデータを一般公開したと発表した。多くの施設で統一のプロトコルで撮像した複数精神疾患のfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging:機能的磁気共鳴画像)データと、旅行被験者データを合わせてデータベース化したもので、オンラインプラットフォームでダウンロードの申請ができる。
ビッグデータ公開に携わったのは、ATR脳情報通信総合研究所の田中沙織氏(認知機構研究所 数理知能研究室 室長)と、東京大学大学院医学系研究科/東京大学国際高等研究所の笠井清登氏(ニューロインテリジェンス国際研究機構<IRCN> 教授)らの研究グループ。
MRI画像をAIで解析するためのデータとして利用
研究グループによると「AI(人工知能)技術の発展には、オープンデータが重要な役割を果たしており、再現性の高い結果を得るにはビッグデータが不可欠だ。しかし、ビッグデータを自施設のみで収集するには限界があり、オープンデータの必要性が認識されている」と指摘する。
医療分野においても同様の課題があり、脳のfMRI画像の解析でAIを利用する例が増えているが、疾患を対象とした大規模なオープンデータは限られているという。
そこで田中氏らの研究グループは「自閉スペクトラム症」「うつ」「双極性障害」「統合失調症」「強迫症」「慢性疼痛」「脳卒中」といった複数疾患を持つ患者のMRIデータを、多施設・複数疾患データベースとして整備した。これらのデータは、安静時fMRIデータや構造MRIデータ、デモグラフィックデータ(性別、年齢、利き手、臨床評価尺度)で構成される。
データセットは、被験者同意のレベルや利用者の目的に合わせて次の4つを用意した。
安静時機能結合データ
安静時fMRIデータを前処理した後、脳を140の領域に分割し、「各領域のMRI信号(BOLD信号)の時系列データ」と「その他の領域のBOLD信号」との相関係数を被験者ごとにまとめたデータ。合計1625例分のデータを公開している。
安静時機能MRIデータと構造MRIデータ
前処理をしていない脳画像データ。MRIデータのノイズの除去手法や脳の分割方法などの解析手法は進化を続けているため、前処理の方法が古くなると精度の高い解析が困難になる可能性がある。そのため、さまざまな解析手法で有効な解析をするために「手付かずのデータ」として利用できる。個人情報と連結する符号を削除し、脳画像から顔の部分を削除することで、参加者個人を特定できないようにしている。
安静時機能MRIデータと構造MRIデータ
安静時機能MRIデータと構造MRIデータのデータセットのうち、非制限公開の同意を得られた1410人分のデータ。
旅行被験者の安静時の機能MRIデータと構造MRIデータ
9人の被験者が国内の12施設で撮影した、合計143個の安静時fMRIデータと構造MRIデータ。一般に、同じMRIデータであっても、計測した施設によってデータの性質が異なる施設間差が生じるため、同一の複数の被験者(旅行被験者)が実際に多くの施設で撮像することで施設間差を知る方法がある。
安静時機能結合データと安静時機能MRIデータ、構造MRIデータは「制限公開」としており、「独立して研究を行う研究者のみが書面にて使用申請を行い、ATR脳情報通信総合研究所にて申請書の内容を査読し承認するプロセスを経て、使用できる」という。
安静時機能MRIデータと構造MRIデータ、旅行被験者の安静時の機能MRIデータ、構造MRIデータは「非制限公開」となっており、使用方法について同意し、使用希望者の情報(所属、名前)を登録した上で、使用できる。
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