ITを無視していては、経営が破綻します――業績傾き掛けのオレンジ:コンサルは見た! 情シスの逆襲(2)(1/4 ページ)
時代に取り残されつつある老舗高級スーパーマーケットチェーンを引き継いだ47歳の新社長は、観光客誘致、キャッシュレス決済導入、と施策を次々に繰り出した。次に着手するのは……ITだ!
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
前回までのあらすじ
老舗高級スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」は、羽生情シス部長発案の「AI在庫管理システム」の開発が進んでいる。そして、オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」の担当者 小塚は、窮地に陥っていた……。
時代遅れのオレンジ
白金や麻布など、都内の高級住宅街を中心に十数店舗を展開する「ラ・マルシェ」は、高級品路線で創業から50年間、業績を伸ばし続けてきた高級スーパーマーケットだ。
ライバル達が商品の安さにしのぎを削るなか、マルシェの売り場は約半分が他では手に入れにくい高級品で占められていた。食肉売り場では国産和牛や地鶏を豊富に取りそろえ、乳製品売り場はフランスやオランダから輸入した高級チーズを目立つところに置いていた。
アルコールや調味料も、国内外の一流メーカーから質の良いものを仕入れた。それらはもちろん他のスーパーの商品よりも何割か高価ではあったが、店舗周辺の高級住宅街に住むセレブたちからすれば、決して手の出ない値段ではなかった。
丁寧で質の良い生活を送りたい――友達が集まったら、インスタ映えする珍しい花を飾りたい。寝る前にはおいしいシェリー酒を飲みたい。そんな日常の中に少しの彩りを求めるセレブ妻たちの支持を受けて、ラ・マルシェは、流通業界を何度となく襲った不況の波にも耐えてきた。
その結果、ラ・マルシェは一つのブランドとなり、国内外の観光客も数多く訪れる。皆、観光地の土産物屋よりも、ラ・マルシェでしか手に入らないお菓子や文具を喜んで買っていったし、茶色地に「La Marche」とマンダリンオレンジの文字を印刷したシンプルな紙袋は、それ自体が洗練された都会を象徴するアイテムにもなった。
しかし、マルシェの経営は、見た目ほど楽ではなかった。
質も高いが原価も高い商品をデパートよりは安く販売するとなれば、当然に利幅は薄くなる。店舗の内装は高級感を維持するために質を落とせない。また、セレブを相手にする店員たちへの教育は、たとえパートタイマーといえども手を抜けないし、外国人対応ができるバイリンガルな店員を雇えば、人件費もかさむ。制服やオレンジのエプロンも決して安いものではなかった。
それでも十数年ほど前までは、客単価の高い顧客たちに支えられて業績が安定していた。しかし2000年代以降のECサイトの普及が売り上げに与えた影響は顕著だった。
これまでラ・マルシェでしかお目にかかれなかった商品をより安く豊富に手に入れられるECサイトは、確実に店舗から客を遠ざけた。ラ・マルシェの売り上げは毎年数%ずつ下落し、今では最盛期の半分ほどにまで落ち込んでいた。
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