AIが社会にもたらす影響やAIの未来を研究する非営利団体のEpoch AIは、AI開発が2030年まで現在のペースで進化し続けるとする予測レポートを発表した。2030年までに複数分野の科学研究、技術開発を加速させるとみている。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
AI(人工知能)開発が社会にもたらす影響を研究する非営利団体、Epoch AIは2025年9月17日(米国時間)、AIが現在のペースで進化を続けた場合、世界にどのような影響を与えるのか予測したレポートを公開した。同レポートは、Epoch AIがGoogle DeepMindから委託を受け作成したものだ。
Epoch AIは「前例のない規模のインフラ投資を必要とするにもかかわらず、AIの進化は2030年まで継続する可能性が高い。これにより、科学分野を始め、さまざまな領域で革新的な能力がもたらされるだろう」と述べ、「AIの進化は過去10年間にわたって驚くべき速さで進んでおり、AIの進化が減速するという議論は説得力に欠けるものだ」と述べている。
Epoch AIは、AIの進化ペースが減速する説と主な要因を整理し、次のように論じている。
最近のAIモデルはベンチマークテストや収益面の両方で大幅な改善を見せている。このような事態は起こり得るものの、現時点でそれを裏付ける明確な証拠はない。
人間が生成した公開テキストは少なくとも2027年までは十分に確保されている。推論モデルの発明以降、合成データも大量に生成可能となっており、有用性も確立されている。
データ供給の限界を完全に否定することは困難だが、克服可能な課題と考えられる。
AIが現在のペースで進化を続けた場合、フロンティアAIモデルのトレーニングは2030年までにGW級の電力を必要とすることになる。電力供給を拡大させる方法としては、太陽光発電や蓄電池、オフグリッド型のガス発電といった方法が存在する。
フロンティアAIモデルの学習処理は既に複数のデータセンターに地理的に分散されつつあることから、これが課題緩和に寄与すると考えられる。
電力供給がボトルネックになる可能性は2028年以前には考えにくく、それ以降であっても解決可能な問題だ。
これは起こり得るシナリオの一つだが、現時点でその兆候はほとんど見られない。現在のトレンドに沿ってAIが進化する場合、2030年にはフロンティアAIモデルのインフラに必要な1000億ドルと同等の収益を生み出すと考えられる。
AI関連の収益が数千億ドルに拡大するのは極端に聞こえるかもしれないが、もしAIが業務タスクのほとんどで生産性を向上させることができれば、その経済的価値は数兆ドルに達成する可能性すらある。
アルゴリズムの効率化は、これまでのAI開発においても並行して進められてきている。仮に、アルゴリズムの効率化を加速させたとしても、より多くの計算リソースを活用する方向に導く可能性が高い。
企業は製品の実行やモデルの推論に計算リソースを分配させることができる。だが現状ではAIの学習と推論に同等の計算リソースを消費させており、両者はともにスケールアップさせるべき理由が存在する。
AI学習のスケーリングはより優れたAIモデルを生み出し、より価値の高い推論をより低コストで実行可能にする。推論に計算リソースを優先して分配させるということは起こり得るが、それによりAI学習のスケーリングを遅らせる可能性は低いと考えられる。
Epoch AIは、これまでのAIの進化のペースが2030年まで続くと仮定した場合、世界にどのような影響を与えるのか、ソフトウェアエンジニアリング、数学、分子生物学、気象予測の4つの分野に焦点を当て、次のように予測している。
AIは既にソフトウェア開発に変革をもたらしており、2030年までにAIは自律的に不具合修正や機能実装を行い、明確に定義された難解な科学プログラミング問題も解決できるレベルに達するとみられる。
AIは数学者の研究活動において有用であることが報告されており、AIは近い将来、研究アシスタントとして数学者の証明や直感的なアイデアの具体化を支援するようになる。
一方、AIが人間からの指示や手助けなしに、数学の分野で新しい発見や証明を行うようになる時期に関しては、著名な数学者たちの間でも見解が分かれており、2030年以降まで時間がかかる可能性がある。
AIは今後数年以内に公開ベンチマーク「PoseBusters」のタスクをクリアし、新薬開発に不可欠なタンパク質-リガンド結合の相互作用予測において、極めて高い精度を達成する可能性が高い。一方で、より複雑な任意のタンパク質同士の相互作用予測においては解決まで長い時間がかかり、達成される時期は不確実だ。
間もなく、生物学の研究開発(R&D)を支援するAIデスクリサーチアシスタントが登場し、研究者は膨大なデータや文献から必要な情報を効率的に抽出できるようになる。AIは生物学の実験手順に関するQA(質問応答)タスクベンチマーク「ProtocolQA」も2030年までにクリアする見込みだ。
AIを活用した気象予測は、従来の手法と比べて数時間から数週間先までの予測精度を向上させることが可能だ。データ量を増やすことでさらなる精度向上が期待できる。
今後の課題としては、既存の予測精度のさらなる向上、発生頻度の低い事象の予測精度向上、予測結果を社会全体で活用し、具体的な利益につなげることが挙げられる。
Epoch AIは「多くの科学分野において、ソフトウェアエンジニア向けのコーディングアシスタントと同等の機能を持つAIアシスタントが実現する。一方、その効果が最大限に発揮されるまでには2030年以降も時間がかかる可能性がある」とした一方で、「2030年までに、AIは経済全体で不可欠な技術となり、人々がコンピュータやモバイルデバイスとやりとりするあらゆる場面に浸透する可能性が高い。もしこれらの予測が現実のものとなるのであれば、今後5年間、意思決定者はAIを最優先事項とすることが極めて重要だ」と結論付けている。
多くの企業がAI活用を経営戦略に据える今、AI技術を自社のビジネスにどう生かせるのか、収益向上にどうつなげられるのかを企業は見極め、IT投資に組み込んでいくことが、競争優位性を確保する上で重要だといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.