「APMツール、導入すべきか見送るべきか」 企業が考えるべき2つの問いビジネスにおける8つのメリットも紹介

TechTargetは「アプリケーションパフォーマンス監視のメリット」に関する記事を公開した。アプリケーションパフォーマンスの監視は開発チームだけでなく、ビジネスにおいてもさまざまなメリットをもたらす。

» 2025年06月06日 08時00分 公開
[Zachary FlowerTechTarget]

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 TechTargetは2025年3月20日(米国時間)、「アプリケーションパフォーマンス監視(APM)のメリット」に関する記事を公開した。

画像 「アプリケーションパフォーマンス監視の8つのメリット」(TechTarget)

 APMは、開発したアプリケーションがユーザーやビジネスのニーズを満たしていることを保証する上で、重要な手段だ。「アプリケーションをAPMなしで運用するのはスピードメーターなしで車を運転するようなものだ。運転はできるものの、いつ問題が起こるか分からない」。この例えはやや単純だが、APMの基本原則――すなわち「APMが生成するデータこそが重要だ」という点を端的に示している。

 APMツールは、アプリケーションのインフラストラクチャのあらゆる側面に関するメトリクス(指標)を収集する。これによって、運用チームは、パフォーマンス問題を事前に察知でき、問題が発生しても迅速かつ容易に原因を特定可能だ。

 しかし、APMが提供する価値は単にアプリケーションの健全性を監視するだけではない。アプリケーションのパフォーマンスは常に改善の余地がある。APMを利用することで、本番環境でのパフォーマンスはもちろん、他の環境におけるアプリケーションのパフォーマンスに関する洞察を得られる。これによって開発チームは複数のアプリケーション環境間での差異を特定しやすくなり、本番環境の安定性に影響を与えることなくパフォーマンス問題を特定することも可能になる。

 このようにAPMのメリットを戦略に組み込むことによって、企業はITに起因するビジネスリスクを低減し、テクノロジー投資に対するROI(投資収益率)を高めることができる。本稿では、APMによってビジネスにもたらされる具体的なメリットと、APM導入時の検討事項などについて解説する。

APMがビジネスにもたらすメリット

 APMによってビジネスにもたらされる主なメリットは以下の8つだ。

1.復旧時間の短縮
2.“欠陥”の迅速な特定
3.ソフトウェアエンジニアリングの生産性向上
4.アプリケーションの安定性と稼働時間の向上
5.ビジネスへの影響の最小化
6.コスト削減とITリソースの効率的な活用
7.エンドユーザーエクスペリエンス(体験)の向上
8.顧客満足度の向上

1.復旧時間の短縮

 開発ワークフローにAPMを導入すると、アプリケーションの障害やその他の重大なインシデントからの復旧時間を短縮できる。

 アプリケーションの信頼性を示す指標として「平均修復時間」(MTTR)がある。これは新しいソフトウェアリリースや大規模なインフラ変更によって引き起こされるアプリケーションのダウンタイムリスクを表すものだ。MTTRが短いほど、長時間にわたるサービス停止のリスクは低くなる。APMがあれば問題を素早く検知できるため、このMTTRの短縮に役立つ。関連性の高い指標として「平均検出時間」(MTTD)があるが、この短縮にもAPMは有用だ。つまり、APMはアプリケーションの不具合を迅速に特定し、速やかに修正できるようにすることで、MTTDおよびMTTRの数値改善を促進する。

 APMを適切に活用すれば、従来よりも早い段階で問題を特定できるため、そもそも復旧作業が不要となる可能性も高まる。重要なパフォーマンス指標を継続的に測定、監視することで、問題の発生を事前に把握し、予防的に対処できるようになる。

画像 APMによって企業が得られるビジネス上のメリット

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2.“欠陥”の迅速な特定

 アプリケーションの問題の全てがサービス停止(ダウンタイム)を引き起こすわけではない。多くの問題は、その機能を停止させることなくパフォーマンスを低下させるため特定が難しい。APMをアプリケーションのインフラに統合していれば、開発チームは「手探りで問題を探す」ような非効率的な手法から解放され、パフォーマンス問題の根本原因を的確に特定できるようになる。

 “欠陥の診断”が容易になれば、開発チームは新機能の開発に取り組む時間が増える。結果として、安定した高パフォーマンスのアプリケーションを構築できるようになる。こうした態勢は、開発の革新性を高めると同時に、アプリケーションの価値も向上させられる。顧客が競合のアプリケーションへ離れてしまうのを防ぎ、収益拡大にも効果があるだろう。

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3.ソフトウェアエンジニアリングの生産性向上

 APMの主な用途は、本番環境におけるアプリケーションの健全性を監視することだが、開発環境にAPMを導入することで得られるメリットもある。

 開発環境やステージング環境(本番環境と同等のテスト環境)のトラフィックは本番環境ほど多くないため、通常のユニットテストや結合テストで初期段階の問題を見逃しがちだ。APMであれば、そうした問題も特定できるため、アプリケーションを本番環境で稼働させる前に欠陥を未然に防ぐことができる。結果として手戻り作業の削減にもつながる。

 例外処理からシステムパフォーマンスに至るまで、開発チームやテストチームが利用できる詳細情報が多いほど、社内ユーザーや顧客に公開する前にアプリケーションを細かく調整できる。

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4.アプリケーションの安定性と稼働時間の向上

 復旧時間の短縮、欠陥の迅速な特定、開発チームの生産性向上という一連の結果として、アプリケーション全体の安定性は向上する。これは、APMによって重大なパフォーマンス問題を解決できるからというだけではなく、アプリケーションの稼働時間に影響を与えるような軽微な問題も、一つずつ解決できるようになるからだ。

 ただし、いくら軽微な問題だとしても場当たり的にパッチを当ててしのぐだけでは意味がない。そもそもAPMは、そういった軽微な問題を未然に防ぐための手段だ。APMによって開発チームは、週に1回(あるいは月に1回)発生するようなパフォーマンス問題を事前に察知し、アプリケーションを常に円滑に稼働させることが可能となる。

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5.ビジネスへの影響の最小化

 アプリケーションのパフォーマンス障害が発生した場合、影響を受けるのは開発チームだけではない。業務オペレーション全体が中断されることもある。企業の業績に直接影響するのは当然として、ビジネスの利害関係者(ステークホルダー)からの信頼と顧客満足度の低下、さらには顧客離れにもつながる。アプリケーションパフォーマンスの問題は、必ず代償が伴う。APMで全ての問題を回避、解決できるわけではないが、障害の発生頻度と影響範囲を最小限に抑えることで、長期的にはビジネスに大きな利益をもたらす。

 最終的に、ユーザーやステークホルダーが求めているのは、MTTDやMTTR、応答時間、稼働率といったパフォーマンス指標ではない。彼らにとって重要なのは、「そのアプリケーションが自分たちのニーズをどれだけ満たしてくれるか」である。パフォーマンスの問題が起き、社内外のユーザーに信頼できないアプリケーションを提供してしまえば、それはビジネスの失敗につながる。APMは、こうした事態を未然に防ぐことができる。

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6.コスト削減とITリソースの効率的な活用

 設計が不十分なアプリケーションは、想定以上のコストが発生する可能性がある。

 APMを利用することで開発の生産性が上がり、アプリケーションの安定性も高められる。結果として開発コストも削減できる。アプリケーションのパフォーマンスに関する可視性が高まることで、アプリケーションのインフラを最適化し、必要最小限のITリソースでアプリケーションを稼働させることも可能だ。例えば、CPUやメモリの使用量を削減したり、コード設計を効率化してシステムのアップグレードを回避したりすることでITリソースを最適化できる。

 リソースの自動スケーリング機能や、ユーザーグループ単位で段階的にアプリケーション更新を展開する「リングデプロイメント」(アプリケーションのアップデートを異なるユーザーグループに順次展開する手法)とAPMを組み合わせることで、開発チームは、常に最適なリソース配分を維持できるようになる。

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7.エンドユーザー体験の向上

 APMはアプリケーションパフォーマンスの技術的側面に重点を置くのが一般的だが、何が重要かを最終的に判断するのはエンドユーザーだ。バックグラウンド処理の処理時間を0.1秒短縮できたとしても、アプリケーションの起動に1分かかるようでは、ユーザーにとっては価値のある改善とは言えない。

 ユーザーのことを考えずにパフォーマンスを最適化する開発方針は間違いにつながる恐れがある。幸いにも、APMはエンドユーザー体験を定量的に測定、監視する機能を備えている。ユーザーインタフェース(UI)からデータベース、さらにはその先まで幅広く追跡可能だ。こうした洞察は、ユーザー体験を妨げる技術的な問題や、アプリケーションのスケーラビリティに影響を与える要因を特定し、ユーザー体験(UX)の向上にも役立つ。

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8.顧客満足度の向上

 APMツールを導入することで得られる全ての利点は「顧客満足度の向上」という目標につながっている。APMによって、アプリケーションの安定性や稼働時間の改善、パフォーマンス問題の迅速な解決、新機能の効率的なリリースなどが実現すれば、その結果として、ユーザーの満足度は確実に高まる。

 これは、外部顧客に向けたアプリケーションだけでなく、社内ユーザーを対象とした業務用アプリケーションにも当てはまる。信頼性とパフォーマンスに優れたアプリケーションは、利用者に対してより良い体験を提供し、それは組織全体の成果につながるだろう。

APMがもたらすその他の技術メリット

 APMソフトウェアには多くの機能が備わっている。目的はアプリケーションアーキテクチャに対する洞察を提供することだが、アプリケーションが「どこで」「いつ」「なぜ」そのようなパフォーマンスを示すのかを把握するための機能やツールが含まれているのが一般的だ。

 自動アラート、マルチ環境でのトラッキング、バージョン管理システムとの統合、さらには近年急速に導入が進んでいるAI(人工知能)機能などがある。これらは、パフォーマンス指標に対してコンテキスト(文脈)と明確さを付加し、分析と意思決定を支援する。

 APMによって得られるその他のメリットは以下の2つだ。

パフォーマンスに関するトラブルシューティング時のリスク低減

 エンジニアリングの観点から見て、最もストレスの大きい作業は、本番環境において発生する原因不明の問題を調査することだ。誤った対応をすれば、サービス停止を引き起こし、ユーザーからの信頼を一気に失う可能性がある。APMは、こうしたリスクを軽減する。

 APMが収集した指標を確認することで、開発チームは問題が発生した状況を詳細に把握できるため、本番環境で問題を再現する必要がない。指標の情報を基に、開発チームはテスト環境で同様の事象を再現し、安全かつ確実に原因を特定できる。

SLA準拠状態の効率的なトラッキング

 SLA(Service Level Agreement)に準拠することは、重要だが難しい。そのため、市場にはSLA準拠状況を確認するための手法や専用ツールは幾つかある。実は、APMもこうしたSLA準拠の確認に役立つ。APMツールを使うことで、通常のパフォーマンス指標や各種レポートに加え、SLA準拠状況を正確に示すレポートを生成可能だ。

 このようにAPMツールを活用すれば、アプリケーションパフォーマンスに関するデータ収集を企業標準のプロセスに統一でき、ツールの乱立も防ぐことができる。その結果、SLA準拠データに対する信頼性が高まり、コンプライアンス報告の精度と効率性を向上させられる。

APMツールを導入すべきかどうか

 全ての企業や開発プロジェクトにAPMツールが必要なわけではない。APMツールが提供する機能の数が過剰だったり、自社の課題とかみ合わなかったりする場合もある。APMツールの導入が自社(もしくは自プロジェクト)にとって有益かどうかを判断する際には、次の2つの問いを立ててみるといいだろう。

「APMツールが提供する機能は自社に必要か?」

 APMツールの基本機能は、「監視」と「分析」に分類できる。監視機能は比較的シンプルで、幅広い用途に利用できる。一方で、多くのAPMツールが提供する高度な分析機能については、全てのケースで有効とは限らない。

 結論から言えば、APMツールを導入するかどうか、どんなAPMツールを導入すべきかは、アプリケーションのインフラストラクチャの規模と複雑さに依存する。小規模なプロジェクトや単純なアプリケーションでは、APMツールの高度な機能が必要ない場合もある。逆に、大規模で複雑なアプリケーションでは、APMツールの高度な分析機能が不可欠となる。

 APMツールに求められるものは開発するアプリケーションの性質で変わってくる。高トラフィックなアプリケーションの場合、ユーザー体験を重視した監視と分析の機能が必要だ。一方で、構造の複雑なアプリケーションにおいては、根本原因分析機能を持ったAPMツールが適している。

「APMツールは自社にとって費用対効果は高いか?」

 ソフトウェアエンジニアリングの観点から言えば、最も価値のある資産は「データ」だ。アプリケーションに不具合が生じたとき、そのデータの価値はさらに高まる。データを分析することで不具合を解消できるからだ。

 APMツールがなくてもアプリケーションは運用できるが、バグやその他の問題を調査することは格段に難しくなる。APMツールは必ずしも安価ではないが、問題に対応する開発者の人件費も安くはない。開発チームがパフォーマンス問題の調査に追われることなく、アプリケーションの構築と保守に集中できるようなツールを提供すれば、組織全体にとって大きな利益となるはずだ。

 APMツールのROIを評価する場合は、ツールを導入した後のアプリケーション開発や関連するITインフラにかかるコストを長期的に削減できるかどうかが重要な指標になる。しかし、より重要なROI指標は「アプリケーションの利用率が向上したかどうか」だ。APMによって安定性が向上し、レイテンシやレスポンスタイムが短縮されれば、従業員や顧客がそのアプリケーションを使用する時間が増える傾向にある。このような利用率の増加は、企業の財務的成果に直結する可能性がある。

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