従来のサイバーセキュリティ対策は、防御的で受動的な戦略に重点を置いてきた。こうした対策は依然として重要だが、それらだけでは足りない場合が多い。持続可能なサイバー抑止プログラムを確立するには、よくある誤解を解消することが不可欠だ。
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従来のサイバーセキュリティ対策は、過去数十年間に確立された枠組みや規範に組み込まれた防御的で受動的な戦略に重点を置いてきた。こうした従来の対策は依然として重要だが、それらだけでは足りない場合が多い。攻撃者が行動を起こす前に未然に対処する仕組みがなく、脆弱(ぜいじゃく)性や脅威の発生後の対応に終始するからだ。
サイバー抑止は、従来のサイバーセキュリティ対策を補完する強力な方法だが、見過ごされがちだ。効果が見込めるにもかかわらず、正式な抑止プログラムを導入しているサイバーセキュリティリーダーはほとんどいない。サイバー抑止は、しばしば誤解される「ハックバック」(サイバー攻撃に対して、阻止や被害回復を目的に反撃すること)とは異なり、合法的手段を用いて攻撃を思いとどまらせることを目指している。
最高情報セキュリティ責任者(CISO)にとっては、「サイバー抑止とは何か」を明確に説明し、一般的な誤解を解くことで、サイバーセキュリティ戦略を再定義する重要な機会だ。抑止の価値を上級経営幹部やステークホルダーに効果的に伝えれば、企業はより多くのリスクを軽減できる。
持続可能な抑止プログラムを確立するには、導入を妨げるよくある誤解を解消することが不可欠だ。
企業はこれらの誤解を解消することで、潜在的な脅威をプロアクティブに防ぐ強固なサイバー抑止プログラムを構築する道を開くことができる。
Gartnerは2027年までに、サイバー抑止戦術を取り入れた大企業の75%以上が、抑止策の導入を拡大すると予測している。現在は、一部の企業が場当たり的に抑止戦術を講じている。だが、正式なプログラムを実施している企業はほとんどない。これはサイバーセキュリティリーダーにとって、サイバー抑止戦略を策定、改善する好機だ。これにより、攻撃者の行動を変え、脅威環境を再形成することになる。
例えば、効果的なサイバー抑止プログラムでは、悪意あるドメインが攻撃に使用される前に自動停止された割合を追跡し、報告できる。企業がこの指標を最大限に利用すれば、攻撃者は、攻撃前に必要なインフラが最小限で済む攻撃ベクトルに移行する。そのために脅威環境はさらに変化すると予想される。
こうしたトレンドを取り入れて効果的なサイバー抑止プログラムを構築するには、法務や財務、業務、IT、マーケティングなど、さまざまな部門のステークホルダーを巻き込み、企業全体でサイバー抑止の考え方を統一する必要がある。
企業は抑止を、既存のサイバーセキュリティの取り組み(脅威防御、検知、対応、復旧のような)を補完する戦略として位置付けることで、脅威にプロアクティブに対処する総合的なセキュリティアプローチを進められる。
サイバー抑止の実現に欠かせないツールとして、Gartnerの「PARCフレームワーク」がある。このフレームワークは、攻撃者の4つの主な動機、つまり「利益」(Profit)と「匿名性」(Anonymity)それぞれの最大化、「影響」(Repercussions)と「コスト」(Costs)それぞれの最小化に対応している。CISOは、これらの動機に沿って抑止戦略を立てることで、サイバー攻撃を阻止する体系的なアプローチを策定できる。
さらに、脅威アクターを特定し、その動機を理解し、的を絞った抑止戦術を実行するための堅牢(けんろう)なプロセスを構築することが重要だ。このプロセスはステークホルダーが建設的な議論を行い、革新的なサイバーセキュリティ戦略を模索できるよう、定期的な評価、改善を行うダイナミックなものであるべきだ。
これらの戦術を継続的に洗練させることで、企業は進化する脅威に先手を打ち、全体的なセキュリティ体制を強化し、ひいてはより強靭(きょうじん)なサイバーセキュリティ環境を実現できる。
出典:The Untapped Power of Cyber Deterrence in Risk Management(Gartner)
※この記事は、2025年3月に執筆されたものです。
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