総合建設会社「大林組」が、ダム建設工事においてローカル5Gを使ったケーブルクレーンの自律運転に成功したと発表した。その試みの狙いと効果、今後の展望、ローカル5Gネットワークの構成を解説する。
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2025年4月16日、大林組は国土交通省中部地方整備局発注の新丸山ダム建設工事(岐阜県加茂郡八百津町、同県可児郡御嵩町)において、ローカル5Gを使ったケーブルクレーンの自律運転に成功したことを発表した。
大林組は国土交通省と共同で、ダム建設において骨材製造からコンクリート打設までの一連の工程を自動・自律化する「自律型コンクリート打設システム」の確立に向けて開発を進めている。その第一段階として2025年2月、コンクリート運搬に使用するケーブルクレーンのローカル5Gを使った自律運転に成功した。
土木本部生産技術本部ダム技術部 部長 上高克弘氏によると、大林組は建設業界の技術者の高齢化による担い手不足に対応するため、建設機械の自動・自律運転による建設DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。建設DXによって工事品質を保ちながら、省人化を図り、生産性、安全性を向上させるのだ。
新丸山ダムでは2023年2月から建設機械の自動・自律運転の検討を始め、2023年12月にローカル5Gを使った建設機械の自動・自律運転による盛土施工の実証実験を行った。この実証実験でローカル5Gの安定した通信が建設機械の自動・自律運転に適していることを確認した。
2024年10月にはローカル5Gのエリアを堤体全体に拡大し、2025年2月にケーブルクレーンの自律運転システムを構築した。ケーブルクレーンは2つの支点間にかけ渡したワイヤロープ(ケーブル)を軌道としてトロリーが横行する。トロリーに下げられたフックはバケットをつって上下に移動する。
運転速度が速いため、つり荷の横行中やコンクリートの放出時にバケットが縦、横方向に揺動する。従来はそれを制御するため、コンクリート放出地点の合図者がクレーン操作室のオペレーターに無線で合図を送り、オペレーターは揺動を抑えるようにクレーンを操縦していた。合図者やオペレーターなしに、効率的かつ安全なケーブルクレーンの運用を可能にするのがケーブルクレーン自律運転システムの狙いだ。
自律運転システムで使用するローカル5Gネットワークの構成は下図の通りだ。
5GC、DU/CUは現場サーバ室に設置され、3カ所のRU/5Gアンテナが接続されている。特徴は横幅540メートル、奥行き100メートル(堤体上部)、高さ160メートルという大きな立体的空間をカバーしていることだ。
ネットワーク設計を担当した西日本ロボティクスセンター 施工技術部 技術開発課 係長 岡本邦宏氏によると、ケーブルクレーンの自律運転に必要なネットワークの帯域幅は、制御信号やカメラの映像を合わせて上り/下り46Mbpsだが、実際には全てのエリアで上り/下り70Mbpsの帯域幅が安定的に得られている。
トロリーやフックに取り付けられた5Gルーターは3台のRUが作る3つの通信エリアを高速で移動する。ローカル5Gの高速ハンドオーバー機能により、通信エリアをまたがっても安定して通信できている。
ローカル5Gネットワークを使ってトロリーとフックに取り付けた無線端末で揺動を瞬時に検知し、自律運転システムで自動的に揺動を抑制することが可能になった。コンクリート放出地点の合図者とオペレーターの作業が省人化されたのだ。
また、フックに搭載したカメラで撮影した4K映像がリアルタイムに現場の総合管理室に伝送され、自律運転システムの安全な運行を監視できるようになっている。
今後は高解像度の映像を低遅延で確認できることを生かし、AI(人工知能)を使った運転制御やコンクリート量の計算など、ローカル5Gの多様なプロセスへの活用に取り組むそうだ。
新丸山ダム事例の特徴は、ローカル5Gの立体的な空間カバー力と高速ハンドオーバーを生かして、移動体の通信に適用していることだ。工場内のモバイルロボットやAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)の運用、あるいはプラントにおけるドローンを使った監視業務など、移動体を対象としたローカル5G活用のモデルと言える。
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスは[email protected]。
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