このようにして作成したスタックは、必要に応じて、メソッドや特殊メソッドをオーバーライドして、その動作を自分のクラスに適したものに変更できる。以下では幾つか例を見てみよう。
例えば、__init__メソッドのオーバーライドについて考えてみよう。
list関数は「反復可能オブジェクトを0個または1個だけ引数に取る」のが仕様だ。
mylist = list([1, 2, 3]) # 1、2、3を要素とするリストを生成
print(mylist)
mylist = list(1, 2, 3) # エラー(引数は0個か1個だけ)
現在のMyStack3クラスでは__init__メソッドを定義していないので、そのインスタンスを生成する際には基底クラスの__init__メソッドが呼び出され(て、そこにMyStack関数呼び出しに渡した引数が渡され)る。
mystack = MyStack3([1, 2, 3]) # 1、2、3を要素とするスタックを生成
print(mystack)
mystack = MyStack(1, 2, 3) # エラー(引数は0個か1個だけ)
だが、前々回に作成したスタックでは、そのインスタンス生成時に次のような振る舞いをしていた。
「スタックはリスト(の一種)」であることや、tuple関数やset関数などでも反復可能オブジェクトを受け取り、そこから要素を反復的に取り出すのが一般的であるため、現在の振る舞いの方が「よりPythonのオブジェクトらしい」といえるが、ここでは上記の振る舞いとなるように__init__メソッドをオーバーライドしてみよう。
といっても書かなければならないコードはシンプルだ。
class MyStack3(list):
def __init__(self, *args):
# print(args) # 可変長位置引数を確認したければコメントアウト
super().__init__(args)
def push(self, item):
self.append(item)
__init__メソッドには可変長引数を受け取るパラメーターを持たせる。このパラメーターには0個以上の引数が「タプル」にまとめられて渡される。以下の表は「MyStack3(……)」呼び出しの引数によってこのパラメーターがどうなるかをまとめたものだ。
MyStack3()呼び出し | パラメーターargsの値 |
---|---|
MyStack3() | ():空のタプル |
MyStack3(1) | (1,):要素が1つのタプル |
MyStack3([1, 2, 3]) | ([1, 2, 3],):要素が1つのタプル |
MyStack3(1, 2, 3) | (1, 2, 3):要素が3つのタプル |
MyStack3関数呼び出しの形式とargs |
パラメーターargsはタプル、すなわち反復可能オブジェクトなので、実はこれをそのまま基底クラスの__init__メソッドに渡せば、その要素を使ってリストが作成される。「MyStack3([1, 2, 3])」という呼び出しならタプルには要素が1つだけなので、「[1, 2, 3]」というリストがそのままスタックの要素となるし、「MyStack3(1, 2, 3)」ならタプルの要素は3つあるので、1、2、3を個々の要素とするスタックが作られるようになるわけだ。
実際に試してみよう。
mystack = MyStack3()
print(mystack)
mystack = MyStack3(1)
print(mystack)
mystack = MyStack3([1, 2, 3])
print(mystack)
mystack = MyStack3(1, 2, 3)
print(mystack)
mystack = MyStack3(1, 2, [3, 4])
print(mystack)
このコードを実行すると次のようになる。
実行結果からは前々回に作成したスタックと同様な振る舞いになっていることが分かる。
先ほど、dir関数で3つのスタッククラスにどんな属性(メソッド)があるかを調べたときに、MyStack3クラスにはlistクラスから継承したcopyメソッドがあったことに気が付いただろうか。listクラスのcopyメソッドは「リストの新しいコピー」を戻り値とする。つまり、MyStack3クラスのインスタンスに対してcopyメソッドを呼び出しても、その戻り値はリストになってしまうのだ。実際に試してみよう。
mystack2 = mystack.copy()
print(type(mystack2))
実行結果を以下に示す。
上の画像に示した通り、コピーしたものの型が「<class 'list'>」になっている。スタックをコピーしたらスタックが返されるのが期待している動作ではないだろう。そこでMyStack3クラスのインスタンスが返されるようにしてみよう。
これも実際のコードは簡単だ。
class MyStack3(list):
def __init__(self, *args):
# print(args)
super().__init__(args)
def push(self, item):
self.append(item)
def copy(self):
tmp = list.copy(self)
return MyStack3(*tmp)
ここでは、listクラスが持つcopyインスタンスメソッドを「list.copy(self)」のような形で呼び出して、まずはスタックに格納されたデータのコピーを取り出している。これはリストなので、それをMyStack3関数に渡すことで、新しいMyStack3クラスのインスタンスを呼び出している。ただし、__init__メソッドを「単一のリスト(反復可能オブジェクト)を渡したら、それが単一の要素としてスタックの初期値となる」ようにオーバーライドしているので、ここでは「*」を使ってリストの要素が展開されたものが__init__メソッドに渡されるようにしている点に注意しよう(こうした面倒くさい処理が出てくるのも通常のPythonのオブジェクトとは異なる振る舞いをするようにしているからだろう)。
もう一つ注意したいのは「list.copy(self)」という書き方だ。これは上でも述べたように「listクラスのcopyインスタンスメソッドを呼び出し」て、その引数に自分自身(self)を渡すという意味だ。なぜ「self.copy()」のように書かないかというと、現在オーバーライドしているコード自体が「self.copy」インスタンスメソッドだからだ。つまり、「self.copy()」とすると、オーバーライドしているcopyメソッドの内部でそのメソッド自身をさらに呼び出すコードになってしまう(いわゆる無限ループになる)。ここでしたいことは、「基底クラスであるlistクラスが持つcopyインスタンスメソッドを呼び出して、その結果を利用する」ことなので、このような記述をしている。
同時に、インスタンスメソッドは「インスタンス名.インスタンスメソッド名(引数)」のような形式だけではなく、「クラス名.インスタンスメソッド名(処理対象のインスタンス, 引数)」のような形式でも呼び出せることは覚えておこう(このような書き方をすることはそれほど多くはないが、インスタンスメソッドの第1パラメーターが「self」となっていることを考えると、何となくそういうものだと感じられるはずだ)。
では、このコードの動作を確認してみよう。
mystack = MyStack3(1, 2, [3, 4])
print(mystack)
mystack2 = mystack.copy()
print(type(mystack2))
print('mystack:', mystack)
print('mystack2:', mystack2)
print('mystack == mystack2:', mystack == mystack2)
print('mystack is mystack2:', mystack is mystack2)
実行結果を以下に示す。
2行目の出力結果を見ると、copyメソッドの戻り値の型がMyStack3になったことが分かる。また、両者は同じ要素を持ち、==演算子で等価性を比較するとその結果はTrueに、is演算子でオブジェクトの同一性を比較するとその結果がFalseになることから、両者が同じ要素を持つ別のオブジェクトであることも分かる(これはcopyメソッドに求められる動作である)。
このように、クラスを継承しても、基底クラスの全てが自分が作成しているクラスで適切な振る舞いをするとは限らない。必要に応じて、自分でその動作や振る舞いをカスタマイズする必要がある。とはいえ、ひな型となるメソッドは得られるので、多くの場合はそれほど難しいコードにはならないだろう。興味のある方はその他のメソッドも自分でオーバーライドしながら挙動を確認してみよう。
今回は以前に作成したスタックを、リストを継承することでもう一度作成してみた。その過程で「is-a」「has-a」の関係などについて見た後で、メソッドをオーバーライドすることで、基底クラスの動作を変更する方法についても見た。次回は、クラスのメンバと継承について見ていく予定だ。
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