メニエール症状群にかかるのは、心身ともに疲れ切っていても、休まずに「何とかしなくちゃ」と頑張るMさんのような人が多いようです。
疲れやストレスを意識しながらも、感情を押し殺して仕事に打ち込んでしまう人がいますね。「これくらいは『普通』」「大丈夫」と自分にいい聞かせながら……。そういう状態が長期化すると、自分の感情を認識できなくなってしまうことがあります。
これは「失感情症」と呼ばれます。厳しい環境に適応していくための状態だといえます。忙しい職場では、クールで感情の波がない方が楽なのかもしれません。しかし、感情は消えてなくなるわけではありません。自然な感情をグウッと抑えつけていることに気付いていないだけなのです。
体が、不満や不安などの感情を認識する代わりに、心身症という形で表現するのではないかと考えられます。心身症という体の病気は、「ストレスに対処してほしい!」という体からのメッセージともいえます。
失感情症にならないためには、どうしたらよいでしょうか。
毎日、ほんの5分でいいので、自分が感じていることに向き合う時間をつくりましょう。具体的なやり方は次のようなものです。
自分の感情に向き合うときは、「なぜ?」「どうしたらいいのか?」という問い掛けはしないことが重要です。そんな「感じ」がいま、自分にあるんだということが分かれば十分です。解決策より、まずは自分のいまの感情を大切にすることです。
「自分が感じている心の声を聞いてしまったら、自分が困りそうだ」と考える人もいるでしょう。
例えば、すでに仕事で手いっぱいなのに、さらに新しい仕事を上司から依頼されたとき。心の声は「もう無理!」と叫んでいる、でも上司も無理を承知で依頼してきている。やるしかないかな……。
そのとき、“嫌だ”と感じている自分を分かっていて引き受けるのと、嫌な感じにふたをして引き受けるのでは、同じ引き受けるという行動でも感じ方に違いが生じます。そして引き受けるに当たっては、その仕事が終わった後で、自分に小さなごほうびをあげることにしてみましょう。
さて、事例のMさんは、医師から「いまの症状は、ストレスと関連しているかもしれない」という説明を聞きました。そこで考えているうちに、「自分が頑張らないと誰も助けてくれない」という思いがあることに気が付きました。「自分が、自分が」と頑張っているうちに「1人で抱え込みすぎていた」ようです。
上司にめまいのことを報告し、同時に家庭の事情を説明することで、仕事の分担を少し変更してもらうことができました。
実家のことは自分の体調も考え、無理をしないことに決めました。実家に帰らず、電話で母親の話を聞くだけにする週末をつくることにし、代わりに介護保険の利用手続きを調べて、両親が利用できるサービスを検討することにしました。
カウンセリングをしていて感じるのは、心身症になる人は「つい頑張ってしまう人」、ある意味「強い人」なのだということです。
そんな強い人にこそ、「自分を大切にすることが、周りにとってもよいことなのだ」と知っていただきたいと願っています。自分を大切にすることは、自分を甘やかすこととは違うと思うのです。
ピースマインド 石川賀奈美
臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」
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