サイト間VPN接続を構築する場合のネットワークトポロジーについて考える。構成するネットワークトポロジーには以下の2つのタイプが存在する(図4)。
VPNゲートウェイは、VPNハブを経由してほかのVPN ゲートウェイに接続する。GW-AとGW-Cの間で通信する場合は、VPNトンネルA-BとB-Cの2本のコネクションを利用する。 GW-AはVPNハブとの1つのコネクションのみ生成。
すべてのVPNゲートウェイは、ほかのVPNゲートウェイと直接VPNコネクションで接続される。GW-Aは、ほかの3つのサイトとコネクションを確立する。
図4 2つのネットワークトポロジーのタイプ
最も典型的なVPNネットワークのトポロジーである。VPN接続する各サイト間を個々に相互接続するネットワーク構成(図4左側)で、1つのVPNゲートウェイはほかのサイトのVPNゲートウェイと直接接続される。以下に、フルメッシュ型トポロジーの特徴を示す。
では、3つのサイトをフルメッシュ型のトポロジーで構成するVPN環境を考えてみよう(図5)。
この例では、VPNで相互接続のために3つのVPNトンネルが生成される。ここでは、VPNゲートウェイA上に定義されるVPN接続用のルールを以下に示す。
上記と同様なルールをVPNゲートウェイB、Cにも定義する必要がある。この例から容易に想像できるように、フルメッシュ型トポロジーでは接続するサイト数の増加に比例して定義するVPN関連ルールも増加し、VPNゲートウェイ上のルール全体が複雑になる。
VPN接続するサイトが中央のVPNゲートウェイ(VPNハブという)を経由して相互に接続されるネットワーク構成である(図4右側)。一般的に、本社のVPNゲートウェイをVPNハブとして各支店のVPNゲートウェイを接続する。以下に、ハブ・アンド・スポーク型トポロジーの特徴を示す。
3つのサイトをハブ・アンド・スポーク型トポロジーで構成するVPN環境を考えてみよう。以下の例では、サイトBがVPNハブとして動作し、サイトAとサイトCがそれぞれサイトBに接続する。このトポロジーにおいてサイトAからサイトCに通信する場合の動作を説明する。
ハブ・アンド・スポーク型トポロジーのVPNハブとして利用できるVPNゲートウェイには以下のような要件が存在する。
前述したように、VPNハブでは一方のVPNトンネルからのパケットを復号し、VPNポリシーに従って別のVPNトンネルに送信するために暗号化するような特別な処理が実行できる必要がある。また、オーバーラップするVPNドメインを管理するSAに対してアクセス制御ルールを正しく解釈できる機能が必要となる。
以下の例では、支店サイトのVPNドメインのネットワークアドレスが、VPNハブの背後のVPNドメインのネットワークアドレスのサブネットとなるように割り当てられている。ハブ・アンド・スポーク型トポロジーでは、IPsecのSAに関する仕様上、SAにおいて複数のVPNドメインを扱えないこととVPN ルールを複雑にしないためにも、前述のようにVPNドメインのネットワークアドレスを割り当てることが推奨される(図6)。
サイトAにおけるVPN接続用のルール定義を以下に示す。
サイトCにおけるVPN接続用のルール定義を以下に示す。
サイトB(VPNハブ)におけるVPN接続用のルール定義を以下に示す。
ハブ・アンド・スポーク型のVPNハブとなるシステムには、すべてのサイト間のVPNトラフィックに対して暗号化/復号処理を実現するための高い処理能力が要求される。また、VPNハブが停止した場合にすべてのサイト間のVPN通信の停止を回避するために、VPNゲートウェイのクラスタ化などの高可用性を実現する必要がある。
今回は、2つのタイプのVPNネットワークトポロジーについて説明してきたが、どちらの構成を選択すべきかの指標としては構築するVPNネットワークの規模に基づいて検討する必要がある。少数のサイト間を接続する場合であれば、定義されるVPNポリシー数もそれほど多くならないため、フルメッシュ型でも十分である。大規模なVPNネットワークを構成する場合には、VPNポリシーの単純さや新規サイト追加時のメンテナンス性を考慮して、ハブ・アンド・スポーク型の構成を検討すべきである。
後編では、ブロードバンド環境の普及でますます利用シーンが増加するリモートアクセスVPNで実現するIPsec機能の現状と問題点について説明する。
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