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「デジタル化」のその先へ! 長野の中小企業がDXで挑む市場変化という魔物DXにはアナログな部分がとても大事(3/3 ページ)

DXを「デジタル化による業務効率化」ではなく、本当の意味での「変革」として捉え、市場変化に対応すべくチャレンジする長野テクトロン。最初は批判的な声が多かったが、現在は従業員が前のめりに。同社がたどった従業員を巻き込んだプロセスとは?

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 「正直、データを集めれば、情報共有は簡単に進むと思ってました。ですが、同じ製品に関するデータなのに通し番号が付いていなくて、データが関連付けられないんですよね。『こんなにバラバラなのか』『これだと、風通し良くならないよね』と、少しずつですが、問題の認識が合うようになりました」(倉科さん)

 こうした取り組みを継続する中で、次第に、さまざまな立場の人が意見を発するようになってきた。問題の認識が合うことで「これは何とかしなきゃいけない」という認識が一致するようになり、少しずつ、でも確実に、従業員たちの意欲は高まっていった。

 だが「いざ行動」となると、最初の一歩がなかなか踏み出せなかった。

 「情報共有の必要性は共有できましたが、『情報共有できるツールがあれば便利だよね』止まりで。もう一歩踏み込むまでには時間がかかりました」(柳澤さん)

 「それぞれ『こうなったらいいのにな』という思いを抱いてはいました。でも、解決に向けたアクションを起こすとなると『面倒くさいな』という感じでしたね」(倉科さん)

 しかしこの後、従業員はDXに前のめりになっていく。何が、この状況を変化させたのか?

DXに合わせて見直した評価制度

 「すごく大きかったと感じたのは、柳澤さんがDXと併せて進めていた会社の制度改革です。評価制度の見直しによって、従業員たちが仕事で何をすべきか振り返るようになりました」(赤堀さん)

 「いままで、経営理念や行動理念、事業計画みたいなものはあまり作っていなかったんです。ですが今回、外部の支援も受けながらこれらも一緒に作り込みました。後は評価ですね。いままでは先代が1人で評価していましたが、これを組織化して、しっかりと評価できるものを作りたいと思いました」(柳澤さん)

 事業計画ができたことで、各グループや部署の目標に落とし込めるようになった。また、目標が明確になることによって、従業員一人一人が自分の行動を振り返られるようにもなった。制度改革とデジタル化の関連性が分かるようになり、少しずつ従業員の意識が高まっていった。

デジタイゼーション、デジタライゼーション、そしていよいよデジタルトランスフォーメーションへ

 最初は他の部署がどんなデータを持っているのかも分からず、データにも関連性がなくバラバラだった。見積書も、製造部や管理部のリアルタイムではない情報で営業部が作成していた。

 だが、デジタル化が進むことによって、製造部が扱っている不良率や、管理部が扱っている資材データなど、各部署のデータが連携できるようになってきた。各部署が持っているデータをリアルタイムに更新できれば、営業部が作る見積もりも、最新の単価や不良率を加味した内容になる。

 「各部が持っているデータをうまく活用するために連携させる。『こういう形がいいよね』という議論が、いま、始まっています。この段階は、恐らくデジタライゼーションなんですよね。デジタライゼーションができるようになると、次はいよいよデジタルトランスフォーメーションです。次のステージで何が生まれるのか楽しみです」(柳澤さん)

DXをもう一歩前に進めるために

 DXはデジタル化だけではないことは既に述べた通りだが、本当の意味での変革を進めるためには、何が必要なのだろうか?

 「わが社は、経済産業省のDX認定制度を、長野市で1番目に、県内でも3番目に取らせていただきました。これは『うちは、こういう方向へ向かってくんだよ』といった社内外に対する意識付けでもあり、ビジョンの提示だとも思っています。

 社内を変えていくためには、社長の本気度を示す必要もあります。そのためには、このような外部の制度を使っていくことも有用だなと思っています」(柳澤さん)

 また、「DXは大企業が取り組むことで、中小企業には関係ない」「うちは製造業だから、デジタル化なんて必要ない」といった声を聞くことも多い。だが、リソースが少なく、マーケットの影響を受けやすい中小企業だからこそ、本来はDXが必要なのではないか。中小企業がDXを進めるためには、何が必要なのか?

 「これまで、マンパワーが少ない中で、デジタイゼーション、デジタライゼーションに取り組んできました。使った時間に対して、それに見合った効率化ができているのか? と言われたら、現状はまだ見合っていません。どちらかといえば先行投資の形です。

 一方で、デジタル人材は確実に増えています。デジタルに精通した従業員が増えることによって、組織としての底上げが起こって会社がレベルアップできる。そう考えると、DXは社員教育の一つです。

 意識の底上げによって、業務効率だけではなく新たな商品開発などにもつながって、将来的には会社の利益につながるものが出てくる。いまは、それが楽しみの一つです」(柳澤さん)

 「DXというとデジタルのイメージですが、私はアナログな部分がとても大事だと思っています。全員が1つの目的に向かって活動できるように落とし込まないと意味がありません。そこを伝えていくためには、結局、アナログで伝えていくことが最も大切なのかなと思っています。

 そのためには、コミュニケーションと気配りですよね。従業員が『ちゃんと見てくれているな』と感じることで、動きが出てくるんだと思います」(倉科さん)

 客観的な立場でDXを支援してきたITコーディネータの赤堀さんは、同社のこれまでの取り組みをどう見ているのか?

 「時代に合わせて、世の中に出てくる製品って変わってきますよね。私がテクトロンさんと最初に出会ったのは『カスタマイズできるキーボード』でした。当時『そんな面白い会社が長野にあるんだ!』と思ったのを思い出します。

 いまはメンブレンスイッチですが、時代のニーズに合わせて変わってきている。そして、これからも変わっていくのでしょう。DXって、つまりこういうことだと思うんですよ。コアな部分はそのままで、時代に合わせて、いろいろな意見を聞きながら変わっていく。それが成長なんだと思っています」(赤堀さん)

 長野テクトロンの「コアな部分」とは、何なのか?

 「『面白そうだからやってみよう』というところですね。うちの行動理念は『例がないからやってみよう。やらないと何も起こらないから』なんです。失敗してもいいから、どんどん新しいことをやっていきたい。

 そして、一切の制限なく新しいことをやっていきたいですね。従業員のみんなにも、どんどん動いてもらいたいです」(柳澤さん)

 どんなに大変なことでも、「面白そうだからやってみよう」「例がないからやってみよう」という気持ちで取り組めば、楽しみながら一歩前に進んでいけるのかもしれない。

事例をお話しいただける企業や団体を募集しています

自社内でDXやデジタル化を進め、課題解決に取り組んでいる企業や団体の方がいらっしゃいましたら、下記までご連絡ください。

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筆者プロフィール

竹内義晴

しごとのみらい理事長 竹内義晴

「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。

2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。

元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。

著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。


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