ピア・ツー・ピア通信の活用でエッジ分散コンピューティングの基盤になりたい、Dittoの描く野望とは
Dittoはスマートフォンなどが備えるピア・ツー・ピア通信機能を自動的に活用し、インターネット接続がない環境でも情報共有を実現する。アプリ開発者もユーザーも、通信周りを意識する必要はない。
エッジコンピューティング基盤のDittoが日本での本格的な事業展開を始めた。2025年5月下旬にはIIJと国内販売契約を締結、災害現場や店舗、IoTなど、多様な用途での普及を目指すという。
Dittoは、開発者が通信について考えることなく、エッジコンピューティングアプリを開発できるSDKだ。既に、米ファストフードチェーンの「Chick-fil-A」や、ルフトハンザ航空、デルタ航空、日本航空、全日空などの航空会社に採用されているという。
エッジ用アプリケーションでは、求められる機能やコストなどの理由から、インターネットへの直接接続を組み込まないこともある。ネット接続が使える場合でも、万一通信が切れた場合の再送などの処理をアプリケーションに組み込まなければならない面倒がある。DittoのSDKでは、PCや携帯電話、IoT/組み込み端末間の通信を抽象化するため、開発者はアプリの機能に専念できる。
具体的には、例えばイベント来場者専用のスマートフォンチャットアプリを作ったとする。ユーザーは当然、携帯通信やWi-Fiアクセスポイント経由でインターネットに接続して使う。だが、混雑していたり基地局から遠かったりすると、通信がうまくいかないケースがある。そうした場合、DittoではBluetooth LEやpeer-to-peer Wi-Fiなど、各端末が利用可能なピア・ツー・ピア通信技術で最適なものを自動的に選択し、切り替えて適用する。さらに、通信環境が不安定であっても、情報の同期を自動的に確保する。
Dittoを開発したDittoLive社の共同創業者でCEO(最高執行責任者)のアダム・フィッシュ氏は、メインフレームの世界がインターネットで相互接続されたコンピューターによる分散コンピューティングに進化したのと同じようなことを、クラウドとエッジの間で起こしたいと話した。
「クラウドは、分散コンピューティングへの流れを巻き戻してしまったきらいもある。とはいえ支配的なコンピューティングスタイルであり、今後も消えることはない。一方で、スマートフォンなどのエッジデバイスの演算能力が向上し、高性能なサーバでしか実行できなかったソフトウェアを動かせるようになってきた。将来はエッジで完結するコンピューティングスタイルも広がる。Dittoは、この世界の実現に向けた課題を解決し、エッジコンピューティングの中核技術となりたい」
そこでDittoが着目したのがピア・ツー・ピア通信技術を使ったメッシュネットワーキング。インターネット接続のあるなしにかかわらず、エッジ端末間で情報を共有できるようにする。
具体的には、例えば同じアプリを使うスマートフォンの間で、情報をバケツリレーのように送っていく。その際、次の送り先との間で使える通信プロトコルで最適なものをDittoが自動選択するようになっている。送信先と通信できない場合は、別の端末に送信する。こうして最終的には全端末で情報を同期する。なお、サーバ機能を使えば、インターネット経由で既存システムや別拠点との接続もできる。
ここでポイントとなるのが、Dittoでは各端末で小さなデータベースが動くことだ。情報の同期はこのデータベース間で行われる。端末同士の接続が切れても、再接続した時点で差分が自動的に送信される。送信側の端末との接続が完全に途絶した場合、受信端末は別の端末から差分を受け取ることができる。各端末は、ネットワーク接続が全くない場合でも情報の編集が可能。こうした際もデータベースがデータの競合を解消し、一貫性を保つことができる。
こうした仕組みで、障害に強いアプリ運用を実現できるという。
Dittoが現時点で公式にサポートしているプロトコルは、Bluetooth LE、peer-to-peer Wi-Fi、Apple Wireless Direct Link、LAN、WebSocketsだ。ニーズ次第で、IoT系のプロトコルにも対応していくという。
Dittoの主なユースケースとは
では、Dittoはどんな場面で特に役立つのだろうか。
前出のChick-fil-AではPOSシステムで活用している。クラウドPOSでは、インターネット接続が途切れると店舗オペレーションが続けられない。そこで障害に備えて店舗にサーバを設置することもある。Dittoを使うことで、インターネット障害の発生時にも業務を継続できるようにしているという。ハードウェア投資が不要な点も評価されたという。
デルタ航空では、フライトアテンダント用のチャットアプリを開発した。離陸前、飛行中、着陸後のどの場面でも、リアルタイムで情報共有や連携ができるようになっている。
Dittoを国内で販売するIIJは、工場、船舶、鉄道、工事現場などをユースケースとして挙げる。例えば高層ビルの建設現場では、上の階にいくと携帯の電波が届きにくくなる。ピア・ツー・ピア通信によって、こうした課題を低コストで解決できる。
日本ならではの最も分かりやすいユースケースは災害対応だと、IIJの三木庸彰氏は話す。
避難所に集まった住民がピア・ツー・ピア接続で情報を共有できる。また、自治体の職員や消防、警察の隊員が各避難所を訪れてチャットグループに参加し、状況を効率的に把握する、といったこともできるだろうという。
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