IBM、企業のAIエージェント構築、展開をサポートするハイブリッドテクノロジー群を発表:AIエージェントの構築スピード、精度、スケーラビリティが向上
IBMは、企業がAI活用の課題に対処し、自社独自のデータを用いてAIエージェントを構築、展開できるようにする新しいハイブリッドテクノロジー群を発表した。
IBMは2025年5月6日(米国時間)に年次イベント「Think」において、企業がAI活用の課題に対処し、自社独自のデータを用いてAIエージェントを構築、展開できるようにする新しいハイブリッドテクノロジー群を発表した。
「watsonx Orchestrate」でAIエージェント構築の迅速化と高度化を実現
AIエージェントの導入が進んでいるが、多くの企業が多様な環境、アプリケーション、データ間でのエージェントの統合に苦労している。IBMは、「watsonx Orchestrate」でエンタープライズ対応エージェント機能の包括的なスイートを提供することで、企業におけるAIエージェントの実用化を支援する計画だ。
watsonx Orchestrateは、ワークフローを自動化するためのAIアシスタントやエージェントの作成、展開、管理を支援するエンタープライズ対応ソリューション。主要なワークフローにおける生成AIの効果を加速し、生産性を向上させるAI製品ポートフォリオである「IBM watsonx」を構成するポートフォリオの一つだ。包括的なエージェント機能スイートの提供計画の概要は以下の通り。
- 全てのユーザー向けのノーコードからプロコードまで、あらゆるフレームワーク上に構築されたエージェントの統合、カスタマイズ、展開を容易にするツールにより、5分以内に独自のエージェントを構築できるようにする。このエージェントビルダー機能は、2025年6月に提供を開始する予定
- 人事、営業、調達といった領域特化型の事前構築済みエージェントを、Web調査や計算など、より簡易なアクションを実行するユーティリティーエージェントとともに提供する。人事エージェントは提供を開始しており、営業および調達向けのエージェントは、2025年6月に提供開始する予定
- Adobe、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Oracle、Salesforce(Agentforce)、ServiceNow、Workdayなどのプロバイダーが提供する80以上の主要なエンタープライズアプリケーションとの統合を実現する
- ワークフローの計画やベンダー間の適切なAIツールへのタスクのルーティングなど、複雑なプロジェクトに必要なマルチエージェント、マルチツールの調整を処理するエージェントオーケストレーションを可能にする
- エージェントのライフサイクル全体にわたるパフォーマンス監視、ガードレール、モデルの最適化、ガバナンスのためのエージェントオブザーバビリティ機能を2025年6月に提供開始予定
またIBMは、watsonx Orchestrateに新しい「Agent Catalog」(2025年6月に提供開始予定)を導入し、IBMやBox、MasterCard、Oracle、Salesforce、ServiceNow、Symplistic.ai、11xなどのパートナーエコシステムが提供する150以上のエージェントや事前構築済みツールへのアクセスを簡素化する。
エージェントベースの自動化を実現する「webMethods Hybrid Integration」
IBMは、「多くの企業は、オンプレミス環境とマルチクラウド環境に分散したAPI、アプリケーション、システムを寄せ集め状態で使用しており、その多くは連携するように構築されていない」との認識を示し、柔軟性に欠けるワークフローに代えてインテリジェントなエージェント主導の自動化ソリューションを利用可能にする「webMethods Hybrid Integration」を、2025年6月に提供開始する計画を発表した。
webMethods Hybrid Integrationは、全ての統合ニーズに単一のプラットフォームで対応できるハイブリッドでエンタープライズグレードのiPaaS(Integration Platform as a Service)を提供し、企業がシームレスに統合されたアプリケーションやサービスを構築して競争力を維持できるよう支援する。AI時代に対応した統合を実現するwebMethods Hybrid Integrationにより、ユーザーはハイブリッドクラウド環境でのアプリケーション、API、B2B(Business to Business)パートナー、イベント、ゲートウェイ、ファイル転送などに散在する統合を管理できるようになる。
新しい「watsonx.data」で非構造化データを生成AIに活用
IBMは、IBM watsonxを構成するポートフォリオの一つである「watsonx.data」を進化させることで、企業が非構造化データを活用し、より正確で効果的なAIを推進できるようにする計画も発表した。契約書や表計算シート、プレゼンテーションに埋もれている非構造化データは、企業で最も価値があるにもかかわらず、十分に活用されていないリソースの一つだ。
新しいwatsonx.dataは、オープンなデータレイクハウスとデータリネージュトラッキングやガバナンスといったデータファブリック機能を統合し、企業が異なる部門間、フォーマット間、クラウド間でデータを統合、管理、アクティブ化できるよう支援する。2025年6月に提供を開始する予定だ。
watsonx.dataを使用することで、企業は自社のAIアプリケーションやAIエージェントを非構造化データに接続できる。IBMの社内テストでは、従来のRAG(検索拡張生成)よりもAIの精度が40%向上することが示されている。
またIBMは、フォーマットやパイプラインを横断してデータをオーケストレーションするための単一インタフェースツールである「watsonx.data integration」と、AI技術を用いて非構造化データから深い洞察を抽出する「watsonx.data intelligence」も発表した。いずれも2025年6月に提供開始予定だ。これらはスタンドアロン製品として提供されるが、一部の機能はwatsonx.dataを通じても利用できる。
これらの製品を補完するために、IBMは2025年3月、生成AIの非構造化データの利用に優れたDataStaxを買収する意向を発表している。
大規模なAI活用のためのインフラ「LinuxONE 5」
IBMは、データ、アプリケーション、信頼できるAI向けの安全でパフォーマンスの高いLinuxプラットフォームである「IBM LinuxONE 5」を発表した。LinuxONE 5は、1日当たり最大4500億件のAI推論処理を実行できる。以下のイノベーションを提供する。
- IBMのTelum IIオンチップAIプロセッサやIBM Spyreアクセラレータ(PCIeカードを介して2025年第4四半期に提供予定)など、IBMの最先端のAIアクセラレータにより、トランザクションワークロードのような高負荷の生成AIアプリケーションを実現する
- 企業のデータ保護に役立つ機密コンテナと、IBMの先駆的な耐量子暗号テクノロジーとの新たな統合により、量子対応のサイバーセキュリティ攻撃に対処するための高度なセキュリティ機能を提供する
- IBMは社内テストにより、クラウドネイティブのコンテナ化されたワークロードを比較対象のx86ソリューションから、同じソフトウェア製品を実行するLinuxONE 5に移行することで、コストと消費電力を大幅に削減し、5年間でTCO(総所有コスト)を最大44%削減できると推計している
またIBMは、AMD、CoreWeave、Intel、NVIDIAとのGPU、アクセラレータ、ストレージに関する協業を拡大し、計算負荷の高いワークロードとAIで強化されたデータ向けの新しいソリューションを提供するとしている。
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