AI動向をまとめた456ページのレポート「2025 AI Index Report」公開 スタンフォード大研究所:AI性能が向上、投資も拡大 一方で規制も増加
スタンフォード大学のHuman-Centered Artificial Intelligence(人間中心AI研究所)は、AI動向をまとめた456ページのレポート「2025 AI Index Report」を発表した。
Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence(Stanford HAI:スタンフォード大学人間中心AI研究所)は2025年4月7日(米国時間)、AI(人工知能)動向をまとめた年次調査レポート「2025 AI Index Report」を発表した。
AI Index Reportの作成、公開は、Stanford HAIの独立した取り組みだ。学術界と産業界の専門家から成るAI Index Steering Committee(AIインデックス運営委員会)が主導している。
AI Index Reportは、幅広い観点からAIの動向を測定、評価するものだ。政策立案者、研究者、一般市民がAIの急速な進化を理解し、十分な情報に基づいた意思決定を推進し、人間中心の価値観に基づくAI開発を確実にするために必要なデータを提供する。同レポートは全体で456ページあり、以下の章立てで構成されている。
- 第1章 研究開発
- 第2章 技術性能
- 第3章 責任あるAI
- 第4章 経済
- 第5章 科学と医学
- 第6章 政策とガバナンス
- 第7章 教育
- 第8章 世論
2025 AI Index Reportのハイライト
1. AIの性能が継続的に向上
2023年に研究者は、高度なAIシステムの限界をテストするため、新しいベンチマーク「MMMU」「GPQA」「SWE-bench」を導入した。2024年にこれらのスコアはそれぞれ18.8ポイント、48.9ポイント、67.3ポイント上昇した。AIシステムは高画質映像の生成でも大きな進歩を遂げ、一部の設定では、エージェント型AIモデルが人間を上回った。
2. AIは日常生活にますます浸透
AIは研究室から日常生活へと急速に移行している。2024年8月時点で、米国食品医薬品局(FDA)は950のAI対応医療機器を承認しており、これは2015年の6、2023年の221から急増している。また自動運転車も、もはや実験的なものではなくなっている。米国のWaymoは現在、週に15万回以上の自動運転サービスを提供している。
3. 企業がAIに注力し、投資や導入を前例のないレベルに拡大
2024年に米国の民間AI投資額は1091億ドルに達した。これは中国の93億ドルの約12倍、英国の45億ドルの24倍に相当する。特に生成AI投資は活発で、世界で339億ドルの民間投資を集めた。企業のAI導入も加速しており、2024年にAIを使用すると答えた企業は78%に達した(2024年比23ポイント増)。
4. 米国が最先端AIモデル開発で依然リード、中国も性能ギャップを縮める
2024年に米国の研究機関は40の注目すべきAIモデルを生み出し、中国の15、欧州の3を大きく引き離した。だが、性能面では中国が米国との差を急速に詰めている。「MMLU」「HumanEval」といった主要なベンチマークにおける性能差は、2023年には2桁台だったが、2024年にはほぼ同等レベルまで縮小した。
また、AI関連の学術論文発表数や特許件数においては、中国が引き続き世界をリードしている。同時に、モデル開発はますますグローバル化しており、中東、中南米、東南アジアといった地域からも注目すべき高性能モデルが登場している。
5. 責任あるAI(Responsible AI)のエコシステムは不均等に進化
AIに関連するインシデントは急増しているが、標準化された責任あるAI(Responsible AI)評価は、業界の主要なモデル開発企業の間でめったに行われない。だが、事実性や安全性を評価するための新しいベンチマーク(「HELM Safety」「AIR-Bench」「FACTS」など)が登場し、有望なツールとして期待されている。
企業の間では、責任あるAIリスクの認識と、有意義な対策の実施には依然としてギャップが見られる。一方、2024年にはAIガバナンスに関する国際協力が活発化し、OECD(経済協力開発機構)、欧州連合(EU)、国連、アフリカ連合などの国際機関が、透明性、信頼性、その他の責任あるAIの中核原則に焦点を当てた枠組みを発表している。
6. AI楽観論が世界的に高まっているが、地域差が依然として大きい
中国(83%)、インドネシア(80%)、タイ(77%)といった国々では大多数の人々が、「AI製品やサービスのメリットはデメリットよりも大きい」と考えている。これに対し、カナダ(40%)、米国(39%)、オランダ(36%)などでは、そう考える人の割合ははるかに低い。だが、2022年以降、この割合が上昇した国が幾つもある。ドイツ(10ポイント増)、フランス(10ポイント増)、カナダ(8ポイント増)、英国(8ポイント増)、米国(4ポイント増)などだ。
7. AIが効率化し、手ごろなコストとなり、アクセスがより容易に
性能が向上した小規模モデルの登場に伴い、「GPT-3.5」と同等レベルの性能を持つシステムの推論コストは、2022年11月から2024年10月までの間に280分の1以下にまで低下した。
ハードウェアレベルでは、コストは年間で約30%低下し、電力効率は年間で約40%向上している。さらに、オープンウェイトモデルがクローズドモデルとの性能差を急速に縮めており、一部のベンチマークでは、その差が年間で8%から1.7%にまで縮小した。これらの複合的な要因により、高度なAI技術にアクセスするハードルは急速に下がっている。
8. 政府がAIへの取り組みを規制と投資の両面で強化
2024年に米国の連邦政府機関は59件のAI関連規制を導入した。これは2023年の2倍以上で、規制に関与する機関の数も倍増した。世界的にも、75カ国におけるAIに関する法律上の言及が、2024年比21.3%増となり、2016年比では9倍に達している。
規制と並行して、各国政府は大規模な投資も発表している。カナダは24億ドルの投資を表明し、中国は475億ドルの半導体産業向け基金を立ち上げ、フランスは1090億ユーロの投資を確約し、インドは12.5億ドルを約束、サウジアラビアは1000億ドル規模の「Project Transcendence」に乗り出した。
9. AIおよびコンピュータサイエンス教育が拡大、ただしアクセスと準備態勢には地域格差
世界の3分の2の国が、K-12(幼稚園から高校まで)教育課程でコンピュータサイエンス(CS)教育を提供しているか、提供を計画している(2019年の2倍)。特にアフリカと中南米で、CS教育の導入率が最も大幅に上昇している。
だが、多くのアフリカ諸国では、電力などの基本的なインフラの格差により、教育へのアクセスが依然として制限されている。米国では、CS分野の教師の81%が、AIは基礎的なCS教育の一部として教えられるべきだと考えているが、そのための準備が十分にできていると感じている教師は、半数に満たない。
10. 産業界のAI競争が激化、最先端モデルの性能差は縮小
2024年に発表された注目すべきAIモデルのほぼ90%は、産業界から生まれたものであり、この割合は2023年の60%から大幅に上昇している。学術界は、引用数の多い基礎研究論文の主要な供給源となっている。
モデルの規模は急速に拡大し続けており、トレーニングに必要な計算量は約5カ月ごとに、データセットの規模は約8カ月ごとに、電力使用量は毎年、倍増している。だが、最先端モデル間の性能差は縮小している。最高性能のモデルと10位のモデルのスコア差は、1年間で11.9%から5.4%に縮小し、現在では最上位の2モデル間の差は0.7%となっている。AI開発の最先端分野における競争はますます激化し、混戦の様相を呈している。
11. AIの科学への貢献に科学賞の栄誉
科学研究におけるAIの重要性が高まっており、2024年の主要な科学賞の選考結果はこれを反映している。2024年の2つのノーベル賞は、人工ニューラルネットワークによる機械学習(物理学賞)と、タンパク質の立体構造予測への応用(化学賞)につながった研究を評価したものだった。2024年のチューリング賞は、強化学習分野への画期的な貢献に対して与えられた。
12. リーズニングは依然として課題
記号論理的な手法を用いて仮説を生成し、検証する学習ベースのシステムは、国際数学オリンピックの問題解決のようなタスクでは、人間を超えるレベルには達していないものの、良好な性能を示している。
だが、大規模言語モデル(LLM)は、複雑なリーズニングを必要とする「PlanBench」のようなベンチマークでは、依然としてスコアが低い。正解が証明可能な場合でも、算術演算や計画立案など、論理的に厳密さが求められるタスクを確実に解くことに苦労している。この限界は、特に高い精度と信頼性が要求される重要な応用分野におけるLLMの有効性を制限する要因となっている。
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