連載:アニメーションで見るパケット君が住む町(8)
インターネット世界の地図
綱野衛二
Roads to Node
2010/2/23
ステーションとルート君を助けるRIP君の仕事
さて、市外への運輸はステーションへ届くんでしたよね。ステーションは都市と都市をつないでいます。
ルート君「ステーションに届いたら、『次にどこのステーションに届けるか』を僕が決定するんだ」
でした。これは第5回で説明したとおりです。
ここでステーションについて、もう少し詳しく説明しましょう。ステーションは「市区と市区をつなぐ」ビルです。市区と市区の境界線上にあり、両方の市区にまたがっています。そして両方の市区につながる出入り口を持っています。出入り口は道路の場合もありますし、線路の場合もあります。
そしてステーションは、とある出入り口から受け取った荷物を、別の出入り口から送り出します。このとき「どの出入り口から送り出すか」を決定するのが、ステーションにいるルート君の仕事になります。
図8-5 ステーションとルート君の仕事 |
このステーションにいるルート君がいなければ、荷物をその先、どこに送っていいかが分からなくなってしまいます。インターネット世界の交通網は複雑で、道筋がいっぱいあります。ですから、「ほかの市区あての荷物は、必ずステーション(にいるルート君)へ送り、次のあて先を決定してもらわなければならない」というルールがあります。これは例外のない絶対のルールです。
では、ステーションにいるルート君が持っている地図を見せてもらいましょう。……さっきのビルにいるルート君の地図とは違ってずいぶん複雑ですね。
ルート君「それはそうさ。ビルにいる僕は『市内か市外か』だけ判別すればいいけど、こっちの僕は『どの都市あてに荷物を届けるには、どの出入り口から送ればいいか』を知らなきゃいけないからね。情報量が違うんだよ」
なるほど。情報量は格段に違いますが、仕事自体はビルにいるルート君と同じですね。つまり、
- あて先ビル所在地から、地図を調べ、次に送るステーションと出入り口を決定する
です。
そういえば、ルート君はどうやって「地図」を入手するんでしょう? もちろん、すぐ隣の市区の道筋は知っていて当然ですが、遠く離れた市区の存在をどうやって知るんでしょうか?
RIP君「いきなり初登場だ。RIP(リップ)君と呼んでくれ。それは僕の役割だ」
ほんとにいきなりですね。どういうことですか?
RIP君「僕の役割は『ルート君が持っている地図をほかのステーションのルート君へ届ける』というもの。つまり、『地図を交換』するんだな。これによりルート君は互いに知っている地図情報を交換して、ほかの市区の道筋を知るんだ」
図8-6 地図とRIP君 |
なるほど。地図を見せ合って、お互いに知らない場所を教え合うんですね。
ルート君「そう。定期的に情報交換することによって、『常に最新の地図』を手に入れているんだ。そうしないと……」
もし地図が間違っていたり、古いものだったりしたら、間違った方向に指示を出してしまって荷物が届かなくなってしまいますね。
ネットワークをつなぐのが「ルータ(Router)」の役割です。
まず、最初に説明したとおり、ネットワークは複数のネットワークがつながって構成されています。これは網の目のようになっており、目的地に行くにはそのための経路を設定しなければいけません。ルータの役割は、この「ルーティングを行い、ほかのネットワークへ行くための経路を決定する」ことにより「ネットワークをつなぐ」ことです。
ルータは複数のインターフェイスを持つ「ネットワークを接続する機器」です。ネットワークの境界線上に配置され、つながっているネットワークからパケットを受け取り、次のルータを決定します。
ルータを使用せずに、ほかのネットワークへパケットを送ることはできません。ほかのネットワークへパケットを送りたければ、必ずルータを通る必要があります。たとえケーブルがつながっていたとしても、データを送ることはできません。
ルータはルーティングという処理を行いますが、このルーティングの動作自体は基本的に、先ほどパソコンを例に取って説明したとおりです。ただし、ルータは複数のインターフェイスを持ち、多くのネットワークへの経路を持ちます。よって、ルータのルーティングテーブルは、基本2つだけのパソコンのルーティングテーブルとは異なり、多くの経路を保持しています。
ルーティングテーブルは、ルーティングを行うための中核的な存在です。ルーティングテーブルが間違っているとルーティングが正しく行われず、あて先へ届かないことになります。よって「常に正しい経路を載せている」ことが大切です。
ルーティングテーブルを常に正しくしておくためには、定期的に正しい経路情報を入手しなければいけません。経路情報を入手する方法は、3種類あります。
- ルータが接続されているネットワークへの経路を入手する
- ネットワーク管理者が手動で入力する
- ルータ同士が経路の情報を交換する
(1)により、ルータは、自分が接続しているネットワークの経路情報を直接入手します。これは特に設定しなくても、自動的に入手できます。
(2)はネットワーク管理者が知っている経路の情報を手動で入力します。ただしこの方法では、ネットワークが追加されたり削除されたりすると、その都度新たな情報を入力する必要があるため、大きなネットワークでは現実的ではありません。
(3)は「ルーティングプロトコル(Routing Protocol)」と呼ばれるプロトコルを使用し、ルータ同士が自動的に経路情報を交換する方法です。ある規模以上のネットワークならば、この方法を使用しています。
ルーティングプロトコルにはいくつか種類があり、ネットワークの環境や規模によって使い分けます。代表的なルーティングプロトコルとしては、RIP(Routing Information Protocol)やOSPF(Open Shortest Path First)があります。
図8-7 RIP |
8-4 おさらい
さて、今回の話をまとめてみましょう。
今回の話の前提は、「インターネット世界で共通、かつ重複しないビル所在地により荷物の送信元と届け先が決定されている」ことです。これは前回説明したとおりですね。
今回のポイントは、
ルート君「1つ目。僕が地図を見て行き先を指定することにより、都市から都市へ荷物が運ばれる」
ルート君が地図を見て行き先を指示しないと、「どういう道筋で荷物を運んでいいか分からない」のです。なのでルート君は「地図を見て」「次のステーションを指定」します。
ルート君「2つ目。ステーションがないと、荷物は別の都市へ届かない」
ステーションが都市をつなぐ役割を果たしています。ステーションがないと、別の都市へ運ぶことはできないルールになっています。荷物を別の都市に送るならば、一度ステーションに送って、ステーションにいるルート君に行き先を指定してもらわないといけないんですね。
ルート君「3つ目。地図はいつも正しい状態にしないとダメ」
地図が間違っていたら荷物は正しく届きませんね。
このように、インターネット世界ではルート君の働きにより「都市間の荷物を届ける」作業を行っているわけです。
今回はルーティングの話を紹介しました。経路選択こそがinternetworking、すなわちネットワーク間相互接続の要です。経路選択により初めて、ネットワークとネットワークがつながり、より大きなネットワークを作り出すことが可能になります。
今回のポイントは次のとおりです。
- ネットワーク内のアドレスは重複しない(IPアドレス)
- 複数のネットワークを接続するには経路選択(ルーティング)が必要
- 経路選択とは、次の中継先を決める作業である
- 経路選択はルーティングテーブルに基づいて行う
- ルーティングテーブルは常に最新の状態でなければならない
- 経路選択を行うルータがなければ、ネットワーク間の接続はできない
経路選択を行い、ネットワークを接続する機器がルータです。いうならば、ネットワークとは、ルータによってつながっているネットワーク群なのです。
皆さんの自宅にあるブロードバンドルータは、皆さんの家庭内LANというネットワークとプロバイダのネットワークをつないでいます。これにより、自宅のパソコンからプロバイダ、そしてインターネットに接続できるようになっているのです。
さて、次回は。
ICMP君「『荷物を運ぶ』ことも大事だけど、大事なことはほかにもあるよ?」
突然現れた君はだあれ? 大事なことっていったい何でしょうか? 次回をお楽しみに。
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8 インターネット世界の地図 | |
地図を使ってあて先まで届ける 8-1 インターネット世界の住所と地図 |
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8-2 前回のおさらい「ビル所在地から考える荷物の動き」 | |
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8-3 ステーションとルート君を助けるRIP君の仕事 8-4 「ビル所在地」のおさらい |
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