「技術が変わると、人が変わってくる」 デジタル化で建設業界を盛り上げる巴山建設の挑戦:自分も怖かったし、現場も不安だった(3/3 ページ)
人手不足や高齢化が問題となっている建設業界。何もしなければ深刻になることは目に見えている。そこでデジタル化となるのだが……。ICTには「全く興味がなかった」という担当者は、3年後に「技術が変わると、人も変わる。それが仕事の楽しさ」であることを知る。その変化のプロセスを追った。
デジタル化が進んでも、熟練した技術はあった方がいい
ここまで、土木・建設現場におけるデジタル化についてみてきたが、幾つかの疑問が浮かぶ。
1つは「オペレーターの訓練」だ。そもそもICT施工は初めてでもできるものなのか、オペレーターの訓練が必要なのではないか?
また、腕に自信がある熟練した技術者にとっては、自分の仕事や技術に対する誇りが「奪われる」感覚もありそうだ。それらに対する反感は起こらないのだろうか。
「オペレーターの訓練について、当初は必要でした。しかし、現在は重機の免許さえ持っていれば、初めて乗っても大丈夫なようにマニュアルを作成したり、現場で説明会を開いたり、3次元図面の作成からICT建機での施工、出来形管理などの内製化を進めています。
技術者からの声として、『自分の仕事がなくなるんじゃないか』『あまりうまくなくてもいいのではないか』といった声は実際にあります。その場合は『ICT施工は経験が少ない人でもできるようにするものだよ。でも実際の現場では、ICT建機ではできないこともあるし、不測の事態や急きょ施工の手順が変更になる場合もある。その時に生きるのは、これまで培ってきた技術や経験だよ』とフォローするようにしています」
ICT施工は、扱うのが大型の重機だけに「専門的で高度な技術が必要なのではないか?」という印象がある。だが、2022年から取り組み始めて、約3年という短期間で、実際の工事現場でICT施工ができるようになったのは意外だった。
「『まず、やってみること』だと思うんですよ。公共工事の場合、やり方は要領書に書いてあります。それを『どう活用するか?』という話なんです。だから、まずは恐れずに、とにかくやってみる……ということが大事なのかな? と思いますね。やってみると、そんなに難しいものでもありません。思ったよりもできるものです。『とにかくやってみる』に尽きますね」
「男性の3K職場」から「女性も活躍できる職場」へ
建設業はいままで、どちらかといえば男性が働く危険な職場というイメージだった。だが、ICTを導入することによって、性別や年齢にかかわらず働きやすくなる。ひょっとしたら、人手不足の問題解決にもつながるかもしれない。
「いま、建設業は業界全体が人手不足で、高齢化が進んでいます。わが社はその中で、女性の活躍と若手の育成、現場の人たちの負担低減のためにICT導入を進めています。実際、現場の人たちの残業時間が減って働きやすくなりました。
最近では将来を見据えて、『女性も活躍できる』メッセージとして、女性の働きやすい環境を整えていく『ともやま小町』という取り組みをしています。女性専用休憩室の設置やヘルメット、日焼け止めなどの支給、女性従業員による建設現場視察などを行っています。
また、若い世代の皆さんに、いまの建設現場を知ってもらおうと、地域の中学校の職場体験を受け入れています。建設業を盛り上げたいんですよね」
地道な取り組みによって、会社説明会への参加も増えているそうだ。
技術が変わると、人も、業界も変わってくる
最後に、会社や業界に対する今後の展望について聞いた。
「これまでデジタル化に取り組んできて、『技術が変わると、人が変わってくる。人が変わると、業界も変わってくる』というイメージがあって。
例えば、新たなことが1つ形になると、現場の技術者たちが『なるほど、こういう形なのね』って分かる。すると、今度は現場から『それなら、次はこういうことができない?』みたいな新たなアイデアが出てきたり、『じゃあ、ここはまだ課題だね』といった議論が始まったりする。
課題を解決するために、アイデアを出し合う。技術を提供する。要は、デジタル化に前向きになってくれたんですよね。こういったことが、当社の技術者やゼネコンさん含めて、いろいろなところで起こっていて。
これは本当に最近なのですが、そういう流れや変化が起こり始めていることに、自分自身も楽しくなってきました。これからも、気の合う人たちを巻き込んでいって、いい流れで、建設業界全体のDXにつながっていくことを、いま、目指しているところです」
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筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。
2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。
元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。
著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。
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