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「大丈夫」と言ってあげられることが、私の誇りGo AbekawaのGo Global!〜Mr.Ben編(後)(2/2 ページ)

グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。前回に引き続き、今回もセキュリティエンジニアのBen(ベン)氏にお話を伺う。セキュリティの専門家として世界の安全を守っている同氏が伝えたい「全部を知る必要はない」という言葉の意味とは。

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「大丈夫」と言えることがやりがいでもあり、誇りでもある

ベン氏 ただ、そう思えるまでには6年ほどかかりました。それまではインシデントが起きると「ああ、また来た。大変だな」とストレスがたまっていました。インシデントに対して強気でいるためにはやはり経験が必要だと思います。ですが、大きなインシデントはそう起きるものではないので、経験を積むためには時間が必要です。今はたとえこれまで見たことのないようなインシデントが起きてもチームで立ち向かえば何とかなると思えます。

阿部川 先ほどの例のように14日の間、1つの事象に取り組むとなると顧客も継続的な痛みに耐える必要がある。それを何年にも渡って取り組み続けるのは、精神的にも肉体的にも大変ですね。ただそれこそが、現在の仕事の魅力でもあるわけですよね、つまり「弱きを助け、悪をくじく」といった感じで。

ベン氏 そうですね。それともう一つ、私がこの仕事で魅力的だと思うのは、なんと言えばいいか……、一緒に仕事をしている仲間や上司に対して「大丈夫だよ」と言ってあげられることです。私のチームも上司も、常に精神的に高い緊張を強いられる毎日です。マネジメント層は、情報漏えいやそれに伴う制裁金などが心配でしょうし、現場のプログラマーにしてみれば、全く分からない技術的な脆弱(ぜいじゃく)性がどこかで起こっていて、それが自分の身に襲い掛かっていると思えば、居ても立ってもいられないでしょう。

 このような人間的な、心理的な恐れといったようなものを少しでも和らげられること、「大丈夫、全て分かっているし、対応できている。前にもやったことがあるから安心して」と言えることが、私の誇りです。「大丈夫、明日の朝になれば全部解決している」と。


編集中村
編集 中村

ベン氏は小さなころ「皆がうらやむような仕事をしたい」と思っていたそうですが、その夢はかなったのではないでしょうか。緊張感が続く中、ベン氏へのプレッシャーも多いはずなのに、それを「誇り」といえるのは率直に言って「かっこいい!」と思いました。


阿部川 それはきっと技術的な知識はもちろんですが、顧客とのコミュニケーションの仕方など、ベンさんのこれまでの経験が1つに融合したからできることのように思えます。内容が分かっていても、寄り添って安心させられるようにうまく伝えられなければ意味がありません。

ベン氏 おっしゃる通りです。見方を変えると「顧客が聞きたいことだけを話すのは最良ではない」とも言えますね。あくまでも起こっていることは正直に正確に伝える。「状況は悪いです。ただ、このように対処します」と話さなければなりません。事実は事実ですから。それを理解した上で、じゃ、どうやって乗り越えようかと話せなければなりません。

分からなくてもいい。しかし、学びは続けよ

阿部川 誠実であれ、ということですね。これからどのような仕事をしていきたいと思っていますか。

ベン氏 今の状況に大変満足していますから、日本でこのまま仕事を続けると思います。日本が好きですし、日本でのライフスタイルも好きです。日本国内をもっと見て歩きたいと思っています。

 将来でいえばシニアリーダーシップに関わる仕事がしたいですね。私は人をサポートするのが好きで、セキュリティ分野の人たちが学んだり、成長したりすることを助ける仕事がしたいと思っています。いつかはその方向性の仕事がしたいと思います。

阿部川 素晴らしいです。これから成長しようとする日本のエンジニアに何かメッセージはありますか。

ベン氏 何もかも全てをやろうとして、圧倒されないことだと思います。例えば今話題になっているテクノロジーにしても自動運転や5Gなど本当にたくさんありますが、それらを全て理解できなくてもいいのです。全部を理解している人はいません。

 学びたいものがあれば、それを選び、すぐ始めればいいんです。何もかも知ることはできません。私だってインシデントで使われる全ての技術を知っているわけではありませんから。ただし、学び続けなければなりません。私のような立場で仕事をしていたとしても学び続けることは必要です。まあ、これは私が毎日私自身に戒めていることですが(笑)。

画像
「何もかもを知る必要はありませんが、学び続けなければなりません」(写真は沖縄の波照間島でサイクリング中のベン氏)

阿部川 自分が分からないことは他の知っている人に頼めばいい。仕事はチームで行うものですからね。

ベン氏 その通りです。必要はことが出てきたらその都度、学べばいい。こう言うと誰かが私に対して「それはインシデントのエキスパートではない」と言うかもしれません。それはそれで結構です。しかし、現実的に対応するとすれば「学び続けること」が何より大切なのです。

インタビューを終えて 〜Go’s thinking aloud〜

 セキュリティは常に新しくなる、変化の激しい分野だ。

 ISO(国際標準化機構)やJIS(日本産業規格)が情報セキュリティを定義しているが、その更新は頻繁だ。「サイバーセキュリティ基本法」は2014年に制定されたばかり。IPA(情報処理推進機構)が発表する「情報セキュリティ10大脅威 2022」には、デマ、詐欺、攻撃、窃取、漏えいと物騒な単語が並ぶ。

 つまるところセキュリティは、広い分野のキャリアを重ねないと対処できず、どうしてもシニアクラスの人材でないと対応できないのが従来だった。その意味で今回はとても若いエンジニアから「セキュリティの今」を聞けたのはとても貴重な体験だった。

 最新のテクノロジーを理解した上でセキュリティを網羅することはほぼ不可能に近い。しかしだからこそ、特定の分野を集中的に学ぶことは有益といえる。そこを基点として周辺領域に応用ができるからだ。そのためには、好きな分野をとことん探して突き詰めることが全体を知る近道となる。

 「はやり廃り」よりも「好き嫌い」。「できるかできないか」は分からないが「やるかやらないか」なら簡単だ。キャリアに迷ったとき一番大切なことはこの「勘」だと言えば、あまりに単純に過ぎるだろうか。

阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)

アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、インタビュアー、作家、翻訳家

コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳を行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。

編集部から

「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。

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