
第1回 移行ソリューション、その選択肢を知る
A10ネットワークス株式会社
山村剛久
2012/3/26
それでも残るIPv4サーバへのアクセスを確保、「NAT64」
図3 NAT64のアーキテクチャ(クリックすると拡大します) |
■ネットワーク構成
IPv6(端末)←→IPv6(ISP/アクセス回線)←→IPv4(宛先)
■通信手法
NAT
■概要
この手法は、クライアントがIPv6、アクセスラインがIPv6、宛先がIPv4(パブリック/プライベート)のケースに適用できます。
いずれインターネットの世界がより進んでIPv6のネットワークが一般的になったとしても、ホストしているレガシーなアプリケーションの制約などから、依然としてIPv4のサーバは残るでしょう。この手法を使えば、DNSによる名前解決を行ったあとに、IPv6クライアントからIPv4サーバへ接続することが可能となります。
IPv4アドレスはAレコードとしてDNSサーバに登録されていますが、IPv6クライアントはAレコードのアドレスは理解できません。そのため、NAT64/DNS64対応機器で、AレコードからIPv6端末が理解できるAAAAレコードへ変換するなどの調整を行います。
こうしてIPv6のアドレス解決がされた後は、ユーザーからのパケットをIPv6からIPv4へNATして転送することで、通信可能となります。
ロードバランスとの一石二鳥、「SLB-PT」
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図4 SLB-PTのアーキテクチャ |
■ネットワーク構成
IPv6(端末)←→IPv6(ISP/アクセス回線)←→IPv4(宛先)
IPv4(端末)←→IPv4(ISP/アクセス回線)←→IPv6(宛先)
■通信手法
NAT
■概要
この手法は、IPv4/IPv6いずれのクライアントからも、IPv4/IPv6のいずれのサーバに対しても、NATとロードバランスをさせて通信可能とするものです。NAT変換後の接続先は、NAT64/DNS64の場合にはネットワーク(イントラネットもしくはインターネット)ですが、SLB-PTの場合は直結されたサーバ(群)となります。
この場合、DNS64のようなA/AAAAレコードの変換は不要です。SLB-PTを行うデバイスのバーチャルIP(VIP)のアドレスをA/AAAAレコードとして登録しておけば構いません。
自組織内のIPv4サーバを手っ取り早くIPv6化するには便利な手法です。NATはもとより、ロードバランスも行うので、パフォーマンスや安定性の向上も同時に見込むことができます。
アクセスラインが取り残された場合には「6rd」
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図5 6rdのアーキテクチャ |
■ネットワーク構成
IPv6(端末)←→IPv4(ISP/アクセス回線)←→IPv6(宛先)
■通信手法
トンネル(IPv6 over IPv4)
■概要
この手法はDS-Liteと真逆のネットワーク構成で、宅内がIPv6クライアント、アクセスラインがIPv4、宛先がIPv6のケースです。つまりアクセスラインだけIPv4が残ってしまった場合に有効な手法です。アクセスライン上はIPv6 over IPv4でトンネリングを行い、対向のIPv6ネットワークへ転送します。
宅内にIPv4クライアントも混在している場合には、IPv4アクセスライン経由でそのままIPv4ネットワークとの通信も可能です。
移行ソリューション導入時の注意点
5種類のソリューションについて説明しましたが、ここまで見てきたように、ネットワーク経路上のIPv6化されている場所によって、取り得るアプローチは異なってきます。
また、これらのソリューションにより、IPv4←→IPv6のIPアドレスの相互接続性は担保されます。しかしながら、実際に通信を行ってみると問題が発生する場合があります。これは、IPv4/IPv6のプロトコル仕様やその実装、サーバでホストしているアプリケーションの実装などに依存する問題があるためです。
以下のようなケースでは、通信経路上のデバイスでの対応が必要となる場合が考えられます。
- パケットのペイロードの部分にオリジナルのIPアドレスが埋め込まれているようなアプリケーションの通信で発生する問題(IPv4/IPv6アドレスを変換したとしても、ペイロード内のアドレスがオリジナルのままであれば、通信エラーが発生するなど)
→ALG(Application Layer Gateway)機能により、ペイロードの中のIPv4/IPv6アドレスも同じく変換することが必要です。変換できるアプリケーションの種類などは、ネットワークデバイスにより異なります。
- IPv4/IPv6のパケットの変換やカプセル化(トンネリングなどの手法の場合)などに起因するMTUサイズの問題(途中経路の最大MTUを超えないように調整する手順)
→IPv4/IPv6 Path MTU DiscoveryやMSS clampingなどの機能で、パケットサイズの調整を行います。
- NAT変換(IPv4←→IPv6、IPv4←→IPv4、IPv6←→IPv4)による通信ログ保存の問題(犯罪捜査などへ協力のためのアドレストレーサビリティが必要です)
→ハイパフォーマンスなログ収集ソリューション/デバイスが必要となります。
こういった課題を考慮しながら移行ソリューションを実装していくことが重要です。
さて、どこから手を付けよう?
ここまでご紹介した内容に基づいて、どの手法で、どこからIPv6に対応させようか?と思っていただければ幸いです。
おそらく、この記事を読んでいる皆さんが一番先に検討したいことは、IPv6クライアントとIPv4サーバの相互接続ではないでしょうか。Windows 7やMac OS X LionなどのクライアントOSはネイティブでIPv6に対応しています。ユーザーの手元の端末はすでにIPv6 readyなのです。一方、すでに稼働中のWebサーバやアプリケーションサーバは、ほとんどがIPv4ベースのままなのですから。
次回からは、先にご紹介したNAT64/DNS64やSLB-PTの実装方法を、実際のネットワークデザインや設定も交えてご紹介していきたいと思います。NAT64/DNS64やSLB-PTの手法を活用すれば、IPv6クライアントからIPv4サーバへのアクセスなどが可能となります。この記事が、小さな環境からIPv6化を徐々に進めて、運用ノウハウを蓄積しながら移行を進める助けになれば幸いです。
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