連載:アニメーションで見るパケット君が住む町(7)
インターネット世界の住所の書き方
綱野衛二
Roads to Node
2009/12/8
7-3 ビル所在地から考える荷物の動き
さて、ビル所在地の書き方は分かりました。ではビル所在地を使って、荷物の動きをもう一度考えてみましょう。まず、前にも説明したかもしれませんが……。
ルート君「市外あての荷物は『必ず』ステーションを通過すること!!」
です。これに例外はないそうですよ。
ということは、まず、ビルから荷物を送る時点で「市外あて」「市内あて」の区別が必要ですね。手順を書いてみましょう。
?パケット君が配送票に届け先のビル所在地を書く
?ルート君が、届け先が「市内」か「市外」かチェックする
ここで「市内あて」なら……。
イーサ配送君「市内あてなら自分の出番です。ビル所在地のビル名をARP君に聞いて届けます」
なるほど。
?市内あてなら、ARP君が届け先のビル所在地のビル名を調べる
?イーサ配送君が届け先のビルに届ける
となるわけですね。
では、市外あてだった場合のことを考えてみましょう。この場合、ステーションに送らないといけませんね? いずれにせよまずステーションに運ぶため、イーサ配送君に市内運輸を頼むことになります。イーサ配送君はあて先をビル名で決めます。つまり「ステーションのビル名」が必要になるわけですが……。
ARP君「ビル名ならお任せッス。ステーションのビル所在地が分かれば、ビル名を調べるッス」
では、ステーションのビル所在地はどうすれば分かるんでしょうか?
パケット君「それはもう『最初から知っている』としかいいようがないなぁ。ビルを建てるときに教えてもらうんだよ。もし変更があってもちゃんと教えてもらえるしね」
ふむふむ。ということは、市外へ届ける場合は、
?最初から知っているステーションのビル所在地から、ARP君がステーションのビル名を調べる
?イーサ配送君がステーションへ届ける
こうなりますね。
ルート君「そういうことです。その後は、ステーションにいる僕の出番ですよ」
図7-7 ステーションまでの荷物の動き |
それについては次回の話ですね。取りあえず、ビルからステーションまではこのように荷物が動きます。
では、機器からデータが送信されるまでの動きを確認しましょう。パケット君たちの動きに合わせて説明しましょう。
?あて先IPアドレスが決定され、IPヘッダに記述される
?あて先が同じ(サブ)ネットワークか、そうでないか判断する
ここで使用するのが、先ほど説明したサブネットマスクです。
(a)自分のIPアドレスとサブネットマスクから、自分が所属しているネットワークを計算する
(b)あて先のIPアドレスと「自分の」サブネットマスクから計算されるネットワークと(a)が同じかどうか調べる
ポイントは、(b)では、「あて先のサブネットマスク」ではなく「自分のサブネットマスク」を使う点です。送信元はあて先のサブネットマスクを知りませんし、知る必要もありません。「自分のサブネットマスク」を使って、「自分と同じネットワークかどうか」を調べます。
あて先が自分と同じネットワークならば、サブネットマスクも同じはずです。なので、自分のサブネットマスクとあて先のIPアドレスから計算すればよいことになります。あて先のネットワークを求めているわけではありません。
?同一ネットワークならば、あて先IPアドレスに対応するMACアドレスをARPで取得する
?イーサネットで配送する
この部分は以前説明したとおりです。
?ネットワークの境界にあり、出入り口となるルータのIPアドレスに対応するMACアドレスをARPで取得する
?イーサネットで「あて先IPアドレス:あて先」「あて先MACアドレス:ルータ」で配送する
この「自分と違うネットワークの場合に送信先になるルータは、「デフォルトゲートウェイ(Default Gateway)」と呼ばれます。このデフォルトゲートウェイのIPアドレスは、事前に管理者により通知されています。
もし、デフォルトゲートウェイのIPアドレスが管理者より通知されていなければ、その機器からはネットワーク外へ送信できません。よって、この時点で送信中止になり、ユーザーに送信できなかった旨を通知します。
図7-8 デフォルトゲートウェイにパケットが届くまで |
ただし、特定のあて先へはデフォルトゲートウェイとは異なるルータを使う、という設定も可能です。
7-4 「ビル所在地」のおさらい
今回のお話、「ビル所在地」についてまとめてみましょう。
まず、ビル所在地は「市の名前」「区の名前(ない場合もある)」「ビルの番地」から成り立っていることがポイントです。このビル所在地により、ビルが「どの市区にあるか」ということが分かります。
市の名前はインターネット世界政府が、区と番地は市の役所が決定します。また、市を小さな市である区に分割することにより、管理が楽になります。
そして、次回の話にもつながりますが、
ルート君「市外あての荷物は『必ず』ステーションを通過すること!!」
さっきと同じせりふですね。つまり、届け先が市内か市外か判別し、市内ならば直接届け先に、市外ならばステーションに送ること。これが今回の話のポイントになります。しっかり覚えておいてください。
今回はIPアドレスについてお話ししました。IPアドレスについては、まだまだたくさんお話しすべき内容があるのですが、今回は基本となる部分について説明しました。ここまでの内容がしっかりと理解できていれば、次のルーティングの話もすんなり理解できると思います。
ポイントは、
- IPアドレスは32ビット固定長である
- IPアドレスは「ネットワーク番号」「サブネット番号」「機器の番号」で構成される
- サブネットとネットワークは同じように扱う
- IPアドレスのどこまでがネットワーク番号かを示すため、サブネットマスクを併記する
- 異なるネットワークへの通信にはルータが必要である
- ネットワークの出入り口となるルータはデフォルトゲートウェイと呼ばれ、通常、ネットワーク外へデータはそこへ配送する
あと、
- 機器の番号のビットがすべて0のアドレスは「ネットワークアドレス」と呼ばれ、そのネットワーク自体を示すアドレスである
ことも忘れないでください。
さて、次回は。
ルート君「インターネット世界の運輸の最重要人物、僕の登場です」
パケット君「……出番取られた……」
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7 インターネット世界の住所の書き方 | |
7-1 パケット君が使う住所 | |
7-2 市内を「区」に分割しよう | |
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7-3 ビル所在地から考える荷物の動き 7-4 「ビル所在地」のおさらい |
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