OpenStackが国内の一般企業で利用が広がりつつある理由:もう、ネット企業ばかりではない(2/2 ページ)
公表されているケースはまだ少数だが、日本国内の一般企業がOpenStackを利用する例が、水面下で増えていることが分かってきた。その理由には、ネット企業に近いものと、既存の社内業務システムに関する課題解決に関するものの、双方が見られる。
今、国内の一般企業がOpenStackを使う理由とは
では、NTTグループのようなスーパーユーザーですら、OpenStackを全面的に採用しているわけではないのに、一般企業でこの技術は広がっていくのか。実は、既に国内でOpenStackを使う一般企業は水面下で増えており、用途も多様であることが分かってきた。
第一の用途はデジタルサービス開発。米ウォルマートや米ペイパルは、社外向けデジタルサービスのためのソフトウェア開発基盤として、OpenStackを運用している。独BMWも、同社の情報システム部門が運用しているOpenStackの主なユーザーは、デジタルサービスを開発している人たちだという。こうした用途は分かりやすいものの、国内の一般企業では、まだそうしたニーズが少ないと考えている人々が多い。だが、イメージとは裏腹に、一部の国内企業ではデジタルサービス関連の開発活動が活発化しており、そのための基盤としてOpenStackを導入している。
第二の用途は、第一の用途とも関連するが、開発ではなく社外向けサービス自体の運用基盤だ。「ネット企業」「オンラインサービス企業」と呼ばれるようなところでなくとも、消費者向け、あるいはパートナー向けのサービスが事業を直接あるいは間接に支えるため、重要になってきている企業がある。こうした活動の基盤としてOpenStackを導入している例がある。
第三の用途は社内業務システム。キリンでは、子会社のキリンビバレッジなどにおける国内で運用中の全業務システム、計約2000サーバを対象に、OpenStackを適用する取り組みを進行中だ。同社では75%のコスト削減を実現しているが、その理由はシステム構築の標準化と自動化にある。
また、アイシン軽金属では、従来型の仮想化環境とOpenStackベースのIaaS(Infrastructure as a Service)との間で社内業務システムのデータをリアルタイムで同期。フェイルオーバーにより、計画停止および計画外停止に対応しようとしている。
複雑さをどれだけ隠蔽できるかがカギ
物理サーバ、従来型の仮想化環境に加えてクラウドサービスが広がることで、一般企業にとってのITプラットフォームの選択肢は増えている。その中で、OpenStackは今後どう一般企業に使われていくか。
一つはNTTコミュニケーションズなどのOpenStackを採用したクラウドサービスを、用途に応じて(OpenStackということをほとんど意識せずに)利用するケース。もう一つはクラウドサービスに任せにくい用途で、OpenStackならではの容易な、コスト効率の高い拡張が可能なプラットフォームを必要とするケースだ。
また、当然といえば当然だが、OpenStackの導入自体を目的としている例は見られない。何らかの特定アプリケーションの稼働や、課題の解決のための土台として使われている。このため、OpenStackプラスアルファの仕組みが導入されている。
いずれにしても、OpenStackの一般企業における普及は、この技術の複雑さを隠蔽(いんぺい)し、ユーザー企業が利用に徹することができるような環境の整備に大きく依存する。そして、あまり知られていないが、実際には既に、オンプレミスに導入したOpenStack環境の運用代行や、商用データセンターにおける各企業専用OpenStack環境のホスティングサービスなどが提供されている。
OpenStackという技術の「消費スタイル」の多様化が、その利用を支えていくことになる。
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