
第4回
実例で見るシステムチューニングの実際
布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年9月13日
どのような貸出物品管理システムになったのか
本システムではこれらの課題点を踏まえたうえで、以下のような設計にしました。
・データのコード化
使い勝手の観点から、RIFDタグに対する1回当たりの読み書き時間は基本的に1秒以内を目標とします。これを実現するためにはデータ量を小さくするしかありません。
データ量を小さくするには圧縮やコード化などが考えられます。圧縮も検討しましたが、圧縮効果を出すためにはある程度以上の元データが必要となることから見送りました。
また、多種多様な機器を扱うためにどうしても入力項目が多くなりがちなので、できる限り入力を省略可能にし、選択肢から選べるようにするためにコード化を採用しました。コード化する場合は、元データとコードの対応表(コードマスタ)が必要になります。
この点では手間が増えますが、このコードマスタにすべてのデータが入り、RFIDタグ上にはコードだけになりますので、第三者がRFIDタグ上のデータをのぞき見したとしても内容が分からなくなり、一種のデータ保護にもなります。さらにコードマスタ側だけの修正で多言語対応も可能となります。
・データの暗号化
データのコード化でかなりの部分を保護できますが、コメント文章など、どうしてもコード化できないものは、そのままRFIDタグ上に書き込むことになります。よって、RFIDタグ上のデータ全体の保護のために暗号化することにしました。
RFIDタグに暗号化やアクセス制限機能があれば、それを利用することも考えられます。しかし、RFIDタグの種類(機種)に依存することになりますので、今回はソフトウェア処理としました。
また、CRC(Cyclic Redundancy Check)を付加して改ざん対策とし、偽造に関してはRFIDタグの固有IDを利用することで検出可能にします。
・履歴情報同期
通常、PDAには標準でPCとの同期機能があります。PDAのメモリとPC側のフォルダの内容を一致させる機能です。今回はこの標準機能を利用することにしました。
使い勝手では今回のシステムにとって理想的ではないかもしれませんが、ほかに新規要素が多い開発ですので不確定要素を減らすためにも確実に使える標準機能を選びました。
このようにしてこの貸出物品管理システムは、設計時点でチューニング(最適化)を行いました。このケースでのチューニングポイントは、RFIDシステムの特徴をいかに使い勝手に結び付けるかということと、新規開発要素と確実に使える既存要素をバランスよく採用することだったといえるでしょう。
押さえておくべきRFIDシステムのチューニングポイント
本連載で説明してきたRFIDシステムチューニングポイントについて、まとめてみます。
1. RFIDの性質を知る
システム設計の初期段階で最も大切なことの1つに、システムパフォーマンスの見積もりがあります。ここが正確に見積もりできるかどうかで、実際のシステム開発が成功するかどうかが決まるといっても過言ではありません。
RFIDを使ったシステムという視点で考えますと、RFIDはそれ以前の技術と比べて柔軟性、可用性に富んだ技術です。だからこそ、システム担当者は、RFIDにシステムパフォーマンス向上を期待されるのだと思いますが、期待することと実際にできることにギャップがある状態ではシステムはうまく作れませんし、作ったとしても期待どおりには働きません。
RFIDに着目されたら、まずはRFIDがどのような性質を持っているかを理解するところから始めることをお勧めします。特に、使用状況によってはエラー発生を完全に防ぐことは困難であり、ほんの少しのエラーが大きくパフォーマンスに影響するという認識を持って、システム構成を考えていただければ、未然にトラブルが防げるでしょう。
例えば、100%の読み取り率が要求される場合は、多少パフォーマンスが落ちたとしてもより確実な手法を選んだり、ほかの技術との併用を考えたりすることで実運用時のシステムパフォーマンスをより正確に見積もることができます。
また、RFIDタグも、通常のものから金属に近接していても使える金属対応タイプ、複数のRFIDタグを重ねても読み出せる積層タイプなどがありますので、使い方に応じたRFIDタグを選ぶことが大切です。
2. チューニングを前提に設計する
RFIDは電波を使って見えない位置にあるRFIDタグを読んだり、複数のRFIDタグをまとめて読んだりする能力があります。ほかの技術では実現が難しい特徴ですが、これらはチューニングしないと信頼性が確保できません。ところが、設計時の想定と実運用環境が異なると、いくら設計時には素晴らしいパフォーマンスになっていたとしても、期待を裏切る結果になることでしょう。
このようにRFID技術を利用する場合は、初期目標と最終目標を分けて設定し、チューニングしながら最終目標に近づけていくようにした方が失敗は少ないようです。逆にいえば、チューニングなしでは高い性能を発揮しないと考えた方がよいかもしれません。
設計の中にチューニングを前提として取り込んで、その余地を確保するとともに開発やテストスケジュールの中にもチューニング期間を用意することがポイントといえます。
チューニングを前提とする際の注意点は、チューニング対象を絞り込むことです。特にRFIDはチューニングパラメータが多くなる傾向にあり、さらに実運用では暗黙のパラメータまで関係してきます。
パラメータが多いチューニングは時間がかかり、しかも良い結果が出にくくなります。このような事態を防ぐためにも、システム開発時にはRFID以外の要素には実績のある安定した技術を使った方がチューニングの成果が上がりやすくなります。システム開発におけるバランス感覚が要求される舞台ですので、経験豊富なRFID技術ベンダに相談するのもよいと思います。
3. 使う人のメリットを考える
どんなにパフォーマンスが高いシステムでも、使い勝手が悪ければ全体としてのパフォーマンスが落ちてしまいます。システムの構成要素の中で利用者という要素の重要性を忘れて、良いシステムは作れません。
RFIDの特徴である柔軟性は、人間との相性が良いともいえます。RFIDを狭い意味でのシステムパフォーマンス向上だけでなく、使い勝手という抽象的で評価しにくい部分に対しても有効な技術であることを認識いただければ、おのずと良いシステムができることでしょう。
◆ ◇ ◆
4回にわたってRFIDシステムのチューニングについて説明してきました。新しい技術は従来とは違うことが可能になる半面、どうしても未知の問題に当たってしまいがちです。RFIDもその例に漏れずさまざまな問題が起こり得ます。
しかし、それらの問題を解決した暁には、RFIDならではのシステムができていることでしょう。この連載がRFIDを活用したより良いシステム構築に役立つことを願いつつ、連載を終わりたいと思います。
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実例で見るシステムチューニングの実際 | |
Page1 貸出物品管理システムの要求仕様 RFIDタグに関する課題の洗い出し PDAに関する課題の洗い出し |
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Page2 どのような貸出物品管理システムになったのか 押さえておくべきRFIDシステムのチューニングポイント |
Profile |
布施 圭介(ふせ けいすけ) ソーバル株式会社 ワイヤレス事業部 フィールドエンジニアリンググループ ユビキタスプラットフォーム開発チーム 課長 市販アプリケーション開発に始まり、アルゴリズム研究、IPv6コンテンツ配信実験、技術サポートなど多様なプロジェクトを経験。ハードウェア制御ドライバからアプリケーションに至る幅広い開発経験に基づき、現在はRFIDの周辺ソフトウェア開発チームを担当。 |
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電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
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