
第6回
RFIDの本質的価値:
「コンテクスト・アウェアネス」の実現へ
河西 謙治
株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長
2006年11月25日
アウェアネス・エクセレンスの先鞭(せんべん)をつける
アウェアネス・エクセレンスは、概念の説明だけでは理解しにくい部分もあると思われる。そこで、この概念の実用化への取り組みの1つとして、若干古い事例になるが、NTTデータがTRONSHOW2005に出展した「Express Shoppingシステム」を例にしてみたい。
本システムは、RFIDと携帯電話によるコンテクスト・アウェアネス・ショッピングのデモンストレーションで、スーパーマーケットなどに来店した消費者が携帯電話上で買い物の内容と金額を確認したり、リアルタイムで特売品情報やクーポンを受け取ったりするシステムを提案している。
消費者側は有益な情報をリアルタイムで受け取れたり、携帯で支払いを済ませられたり、快適なショッピングをエンジョイできる。一方で店舗側は、来店者が購買中にRFIDで認識されたそれぞれの人の購買状況(何を買っているか)というコンテクストを認識、分析し、これをレコメンドという形でフィードバックすることにより、ワン・トゥ・ワンマーケティングを実現する。
本デモシステムは「ショッピング内容の確認とクーポンの送付」と「携帯電話による支払い」の2つの機能を持っている。
●ショッピング内容の確認とクーポンの送付
- 来店者が購入したい商品をショッピッングカートに入れると、カートに内蔵されたRFIDリーダが商品に貼付されたICタグを読み取り、携帯画面上のショッピングリストに品名と価格が表示される
- ショッピングカートの内容(来店者が購入しようとしている商品種類)によってお勧め品情報(例えば、パスタを購入した人にはパスタソースやワインなどの買い周り商品を勧める)や、その商品の電子クーポンがリアルタイムで店舗から来店者の携帯電話に送られる
●携帯電話による支払い
- 利用者は携帯電話画面上のショッピングリストの内容と合計金額を確認し、支払いボタンを押して電子マネーやクレジット決済する
このシステムを実現しているのが、NTTデータで研究開発を行っているCAM(Context Awareness Management)という、コンテクスト・アウェア・アプリケーションを構築するためのプラットフォームである。RFIDやセンサーネットワーク技術を活用して環境や状況といったユーザーを取り巻くコンテクストに気付く(アウェアする)ことを可能にするためには、情報システムのインプットとアウトプットが固定ではなく、状況や要求によってさまざまに変化するに耐えられるようなシステム、とりわけミドルウェアが必要となる、とNTTデータでは考え、CAMの研究開発を行っている。
【参考リンク】 ユビキタスビジネス市場への取り組みの中核となる「ユビキタス・サービス・プラットフォーム」と「ユビキタス・ソリューション」の確立について コンテクスト・アウェアネス・マネジメント |
CAMは、サービスロジックを記述するCaletとコンテクストの記述に関するYACANから構成されるサービスロジック層、Caletを駆動するためのコンテナ層、リソースの提供・管理、通信制御を行うプラットフォーム層、ユーザーが利用するユーザエージェント(UA)、DBサーバ/JMSサーバから成り立っており、ネット上に点在する環境情報(人・モノ・サービスの状態:Context)の変化を、システムが検知、認識(Awareness)し、オープンなネットワーク上で、アプリケーションやセンサー、ネットワークロボットなどをダイナミックに連携して、新しいユビキタスサービスを容易に開発・運用できるコンテクスト・アウェアネス・プラットフォームである。
下図は、前述のスーパーマーケットでの適用とは別のデモシステムで、家庭に設置された熱や煙のセンサーが異常を感知すると、その情報をCAMにあげ、CAMがそのコンテクストを管理して、当該家庭にいるネットワークロボットAや隣家にいるネットワークロボットBにアクションをおこさせる、というものである。前述の事例と同様に、把握した情報を解析し、その状況に応じたアクションを実行するところまでを一連のサービスとしているところがポイントである。
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ただし、実用化については、個品レベルで商品にタグを添付する必要性、レコメンドやアクションのためのアプリケーション開発、ハードウェアのコスト、顧客(利用者)のプライバシーへの配慮といった諸課題があり、まだまだ直近の実現という時間軸の中にはないが、RFIDがオペレーショナル・エクセレンスとビジビリティ・エクセレンスの先の効果の発揮として期待される用途であることは間違いないと考える。
RFID2.0へ向けた取り組みが普及を後押しする
6回の連載を通じて、RFID2.0という概念を使ってRFIDの可能性を見てきた。RFIDやセンサーを使って、これまで知り得なかった状況や状態の情報を取得できるようになりつつあり、これにより、オペレーショナル・エクセレンスとビジビリティ・エクセレンスが小さい範囲からではあるが、徐々に実現され始めてきている。一方で、その投資対効果はまだ限定的であり、RFIDが当初期待されていたような爆発的な普及に至らない状況にある。
これを打破するのが、これまでに紹介してきたRFID 2.0へ向けた取り組みである。RFIDやセンサーは強引ないい方をすれば、データ収集のためのデバイスにすぎない。今後、これらで収集、蓄積された情報を、既存システムやデータベースと連携して分析、解析し、どのように業務などに効果的にフィードバックしていくか、そして、EPCglobalやユビキタスIDセンターの標準を使って外部組織間のeコラボレーションをどのように実現していくか、が大きな鍵になっていくはずである。
この実現にはRFIDやセンサーの技術だけではなく、広範囲な情報技術や業務知識が求められる。また、RFIDは一般的な情報システムと異なり使用する現場ごとに実装の最適化を行わなければならず、この点でも提供側には多様な経験やノウハウが求められるという難しさを持っている。NTTデータとしても、このような課題の克服に対して、今後も引き続き本分野における継続的な貢献を果たしていきたいと考えている。
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Index | |
RFIDの本質的価値:「コンテクスト・アウェアネス」の実現へ | |
Page1 ユビキタスコンピューティングとRFIDの関係 |
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Page2 RFIDの本質とは? アウェアネス・エクセレンスへ |
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Page3 アウェアネス・エクセレンスの先鞭(せんべん)をつける RFID2.0へ向けた取り組みが普及を後押しする |
Profile |
河西 謙治(かわにし けんじ) 株式会社NTTデータ ビジネスイノベーション本部 ビジネス推進部 課長 戦略コンサルティング、新規ビジネス企画、全社事業戦略策定を経て2003年度よりRFIDビジネスに従事。NTTデータのRFID組織の立ち上げおよびサービス体系を策定。 現在は同分野におけるリレーションシップビルダーとして対外的情報発信を担当。 |
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電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
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