第4回 RFIDのハイブリッド化がもたらすブレイクスルー


河西 謙治
株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長
2006年9月2日

 事例2:生産・物流効率化実証実験(RFID+リライタブルシート)

 RFID付きリライタブルシートとは、RFIDとリライタブルシートとを組み合わせた新しいメディアである。RFIDに入力されているデジタル情報をリライタブルシート上に表示することができるため、デジタル情報とシート上の表示内容とを二重に確認することができる。これにより、作業の人為的ミスを防止するとともに、RFIDシステムが万が一故障したときのリスクを回避できる。

 リライタブルシートは、表示内容の書き換えに黒色ロイコ印字方式を採用し、1000回以上の繰り返し印字・消去が可能である。この結果、帳票類を削減し、紙ゴミの排出を抑制できるため、システム自体のランニングコストの削減に加えて、環境負荷の削減にも効果をもたらすものである。また、文字情報だけでなく、2次元バーコードなどの印刷も可能なので、RFIDのバックアップ的な使用も可能である。

 RFID付きリライタブルシートの特徴は、大きく以下の3点にある。

1.自動認識

  • 一括読み取りが可能である(タグが重なっている場合は不可)
  • データの記録、書き換え、消去が可能である
  • 透過性がある(箱の中などの見通しがきかない位置でも読み取り可能)

2.書き換え

  • シートのリサイクル利用によるコスト軽減
  • 環境負荷の減少(紙資源の節約)
  • 表示を常に最新の情報にアップデート可能

3.可視化

  • 人が見て作業指示内容などを判読できる(RFIDだけでは印刷部分を読み取って行う作業には対応できない)
  • 情報のバックアップが2次元バーコードの目に見える手段により可能

 この実験では、基幹系システムと連携するシステムを構築し、繰り返し印字・消去が可能なリライタブルシートとRFIDを組み合わせることで情報をリアルタイムに記録・管理できるとともに、RFIDに入力されている情報を目視で確認できることによる生産・物流などの情報の可視化、簡便で正確なオペレーションによる生産・物流の効率化およびリサイクルによるコスト低減効果を検証している。

生産・物流効率化実証実験(画像をクリックすると拡大します)

 実験期間は2006年6月から8月で、菱樹化工(三菱樹脂の生産子会社/プラスチック成型加工)の本社工場で行われた。NTTデータはシステム構築を担当し、RFID付きリライタブルシートは、リコーの製品「RECO-View ICタグシート」を使っている。

RFID付きリライタブルシート

 実験の具体的な内容は以下のとおりである。

  • 各生産工程において生産された仕掛品にRFID付きリライタブルシートの現品管理票を使用する
  • 各工程間の仕掛品の数量や出荷日時をRFIDに記録するとともに、管理票上にも印字する
  • 各工程でリライタブルシートに書き換えられた現品管理票の内容を生産現場の作業者が読むことにより、モノの所在と数量のリアルタイムな把握、正確なオペレーション、リサイクル利用による経済性などRFID付きリライタブルシートの有効性を検証する
  • 現品管理票は、製品出荷後、再度工程の初めに戻して、再利用する

 本稿執筆時点では実験中であり、効果と仮題の検証は終わっていない。そのため、あくまでも現時点における推論となるが、期待される効果と今後の課題は以下のような点が挙がってくるだろう。

効果

  • 現場作業者の作業ミスの削減
  • 仕掛在庫削減(作りすぎの防止)
  • 製品トレーサビリティの実現
  • 生産材の貸出管理、棚卸し管理、利用履歴管理の効率化

課題

  • イレギュラー処理に対するシステム対応
  • 現場作業者の負担増
  • 作業習熟までの時間短縮

 また、当面の最も親和性の高い適用先として、製造業の現品管理、生産指示書、金型管理票や物流業の荷物ラベルが想定されるが、さらに広範囲な産業(業種)での適用検討を行っている。

 事例から見るRFID+Xへの期待と今後

 冒頭にも書いたとおり、RFIDはまだ発展途上のデバイスであり、例えば1個当たりの単純なコスト比較や認識率では、現状ではバーコードには太刀打ちできない。従って、このような観点での比較のロジックに入り込むのではなく、「RFIDだからこそできること」が求められている業務やサービスを突き詰めていくことこそが、RFIDが着実に普及していく重要なファクターであると考える。

 第3回で「(物流分野は)RFID適用をリードしていく業界になるのが確実視されている」と書いた。確かにRFIDを使えば遠隔からの一括読み取りという利便性の向上が見込まれる。しかしながら現時点では、単純なモノの入出庫状況や在庫数の把握だけでは、費用対効果という観点から、RFIDがバーコードに対して劇的に勝るということにはなり得ない。

 そこで、RFIDにしかできない付加価値として「物流の品質を向上させる」という使い方が期待されるのである。

 事例1の生酒がそうであったように、輸送過程においても一定の温度を維持しないと品質が劣化してしまう生鮮食品、高級食材、医薬品といった物品がある。今日までは販売者も消費者も、それら物品を入手する時点において、輸送過程において商品がちゃんと温度管理されたかどうかを容易に把握する方法はなかったが、これを可能にするのがRFID+Xである。

 RFIDと温度センサーにより物流過程における品質(温度維持)が保証できることにより、これまで蔵元周辺でしか味わえなかった生酒が、遠隔地にも販路を広げられたのである。さらに、併せて商品情報も提供することにより、売り上げも向上するという付加価値を提供し得たのである。

 また、事例2のリライタブルシートとの組み合わせでも、バーコードでは不可能な情報の追記や書き換え、可視化をRFID+Xで実現している。これにより、生産現場における生産管理と現場作業の双方において自動化や効率化といった複数の付加価値の提供を実現しようとしている。

 まさに、このような「RFIDだからこそできること」の実用化こそが、RFIDの真のキラーアプリを生み出すことであると考えている。RFIDとしての付加価値をより明確にし、複合的な効果を提供することによりRFID1.5からRFID2.0へと橋渡すのが、RFID+Xである。RFID+Xの使い方は、今後もさまざまなアイデアにより適用分野を拡大し、付加価値を高め、普及を加速させていくと期待する。

2/2
 

Index
RFIDのハイブリッド化がもたらすブレイクスルー
  Page1
事例1:「生酒」流通実証実験(RFID+温度センサー)
温度センサーとのハイブリッドは実用化レベル
Page2
事例2:生産・物流効率化実証実験(RFID+リライタブルシート)
事例から見るRFID+Xへの期待と今後


Profile
河西 謙治(かわにし けんじ)

株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長

戦略コンサルティング、新規ビジネス企画、全社事業戦略策定を経て2003年度よりRFIDビジネスに従事。NTTデータのRFID組織の立ち上げおよびサービス体系を策定。

現在は同分野におけるリレーションシップビルダーとして対外的情報発信を担当。

RFID2.0時代に備えるRFID入門 連載インデックス


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