マルチリーダはICカード普及の起爆剤になるか?
岡崎 勝己
2008年4月21日
開発生産性の高さを武器に2008年度で5万台を目指す
開発生産性の高さが高く評価され、【u:ma】-Gの価格は約3万円程度と一般的なリーダ/ライタよりも高めに設定されているものの、ICカードシステムの什器やシステムの開発を手掛ける企業からNTTデータに対して多数の問い合わせが寄せられているという。2008年3月には17社と共同で【u:ma】連携ソリューションの提供を積極的に推進することをNTTデータは表明している。
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清永裕介氏 NTTデータ ビジネスソリューション事業本部 モバイル&ICメディアビジネスユニット ICソリューション企画担当 課長 |
一方で、エンドユーザーからの問い合わせも少なくない。同じくNTTデータでICソリューション企画担当を務める清永裕介課長は「発表以来、エンドユーザーからの直接の問い合わせが相次いでいる。すでに金融業や製造業の顧客を中心に、商談を何件か進めている。これほどの反響があるとは当初は考えていなかった」と説明する。
これもひとえに、ICカードシステムの管理の煩雑さに悩む企業が多いことの表れといえるだろう。なお、すでに【u:ma】-Gの累計出荷台数は1万台を突破したが、そのうち約8割は入退室管理のために用いられているという。
同社では今後、【u:ma】の利用シーンを拡大するため、機能の高度化を積極的に進める計画。NFC(Near Field Communication)への対応はその1つだ。
「NFCが将来的に普及すれば、さまざまな機器間で同規格を用いた自律的な通信が急増すると容易に推測される。そこで、【u:ma】をNFCに対応させ、ICカード以外のさまざまな電子機器と通信できる環境を整えることで、ホームオートメーションなどの用途を開拓することができるのでは」(山本氏)
同社では今後、各社と協力して対応機器やソリューションの拡充を図ることで、従来のセキュリティ以外の用途も積極的に開拓する構え。2008年度における目標出荷台数は5万台だ。
マルチリーダは電子マネーの普及拡大の切り札に?
さて、リーダ/ライタのマルチ化で注目されるのが電子マネー分野だ。ここ数年で新たな電子マネーが相次ぎ開始され、その数はすでに10種類近くを数えるものの、各社の電子マネーに互換性がないのはご存じのとおり。複数の電子マネーを採用したコンビニエンスストアなどで、複数台の専用リーダ/ライタがレジに並んでいる様子を目にした人も少なくあるまい。
だが、マルチリーダ/ライタによって共通端末を実現できれば、この問題も一気に解消を見込むことができる。また、各種の電子マネーの利用環境をそれだけ安価に整備できることから、利用エリアの拡大にも寄与するであろうことは容易に想像がつく。
すでに、SuicaとQUICPayは2007年11月に共通端末の導入などで、WAONとiDは2008年2月に共通端末の開発と加盟店の開拓などでそれぞれ提携することを発表している。その狙いの1つに、流通業者側の負担軽減があることはほぼ間違いないだろう。
こうした動きに呼応し、POS(Point Of Sales)ベンダ側の電子マネーに対応を図る動きも活発化し始めており、Windows環境におけるPOSデバイスやアプリケーションの標準化団体「Open Point of Service技術協議会(OPOS-J)」は3月、流通小売業向けPOSシステムの標準仕様である「Open Point of Service日本版仕様書」(OPOS日本版仕様書)の最新版を公開した。
その中で、各種の電子マネーやポイントカード、クーポン/チケットといったサービスを「電子バリュー」として定義し、標準インターフェイスも定義/公開することで、電子バリューに関連したデバイスやアプリケーションをベンダ各社が容易に開発できる環境を整えた。
この仕様では、電子バリューを扱うデバイスの1つとしてマルチリーダ端末を想定。そこで、複数のサービスを1つの端末に相乗りできるよう、「サブサービス」の概念を定義することで、サービスを統括的かつ機密性を保ったまま制御できるよう対応が図られている。
電子マネーやクーポンの活用がCRM活動の高度化を支援
設立以来、14年間にもわたるOPOS-Jの活動を通じて、いまやOPOSを基盤とするPOSは総出荷台数の8割を占めるほどの圧倒的なシェアを誇る。こうした中、Windows基盤で電子バリューの標準インターフェイスが定義された意味は決して小さくない。
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藤井創一氏 マイクロソフト インダストリービジネス統括本部 製造・流通ソリューション推進本部 第二インダストリーグループ インダストリーマネージャ |
OPOS-Jの幹事会社の1社であるマイクロソフトの藤井創一氏は、「これまでOPOSでは、その必要性にかんがみスマートカードの標準インターフェイスの定義などを会員企業の主導の下に進めてきた」と語る。
「今回の電子バリューもこの流れに沿うもの。OPOS環境下でのインターフェイスが定義されたことで、今後はマルチリーダの開発競争が進み低価格化も進むことだろう。そうなれば、コスト面でもマルチリーダを導入しやすい環境が整うことになる」(藤井氏)。
その一方で、電子バリューは流通各社のマーケティング活動をさらに高度化させる可能性を秘めている。いうまでもなく日本では小さな商圏内にいくつもの店舗が存在し、激しい競争を繰り広げている。そのため、他社との差別化のために電子バリューでカバーしたポイントサービスなどの活用が極めて有効と考えられるからだ。
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香坂聡氏 マイクロソフト エンタープライズマーケティング本部 インダストリーマーケティンググループ 流通担当 |
もっとも、ポイントサービスをいかに活用すべきかについて、いずれの企業にも当てはまる明確な“解”はいまのところ存在しない。
同じくマイクロソフトの香坂聡氏は「電子バリューの利用が広がることで副次的に広がるマーケットもあるだろう。また、ポイントサービスには機能を拡張できる余地がまだまだ残されているはず。CRM活動の高度化を支援するため、用途の見極めにこれからも注力していきたい」と述べる。
もちろん課題もある。特に電子マネー分野では、サービス事業者の狙いの1つに会員の囲い込みがあるため、共通端末化は自社以外の電子マネーも利用できるようになる点で、会員の新規獲得が困難になるという不利益を指摘する声もある。
とはいえ、その利便性の高さから、マルチリーダ/ライタに対するニーズはさらに盛り上がりを見せることは間違いないだろう。製品ラインアップの拡充と価格の低下が今後進む中で、ICカードの利用はさらに加速するのか。
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Page1 リーダ/ライタの“マルチ化”でICカードの利用が加速 カードやデータ形式の違いにリーダ/ライタ側で対応 |
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Profile |
岡崎 勝己(おかざき かつみ) 通信業界向け情報誌の編集記者、IT情報誌などの編集者を経てフリーに。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に、主にIT分野や経済分野でジャーナリストとして活動中。フォーカスするテーマはITと業務改革/イノベーション、人材論など。他方、情報システムうんぬんは抜きに、コンテンツビジネスなど面白ければ何でもやる一面も。 著書に「図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)」などがある。 |
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