日本のプロ野球もデータで楽しむ時代に NPBがホークアイとGoogle Cloudで構築したシステムの仕組みは?:野球ゲームへの展開も視野に(1/2 ページ)
日本のプロ野球で、ホークアイのデータを活用した基盤システムの運用が始まっている。プロ野球の新たな楽しみ方を開拓していくという。これはどのような仕組みなのだろうか。
大谷翔平選手の大リーグでの活躍を追っている人たちは、ホームラン打球の軌跡を実写映像にオーバーレイしたビデオや、飛距離、打球速度、打球角度などのデータに基づく解説を日常的に目にしている。ピッチングに関しても、球種ミックス、速度、回転数、縦/横変化などが、選手自身の過去や他の選手とどう違うのかを知ることで納得したり、さらに興味がわいたりする。
日本のプロ野球でも、同様な楽しみ方を広げるデータ基盤の運用が始まっている。全12球団の球場で行われる全公式試合の詳細なプレーデータを集約し、CGコンテンツを自動生成するシステムが2025年3月に完成した。
開発・運用主体はNPBエンタープライズ(以下、NPBE)。日本野球機構(以下、NPB)とプロ野球12球団の出資で設立された事業会社だ。開発はソニーなどが行い、グーグル・クラウド・ジャパンが協力した。
新システムにより、全球団は自他を問わず、全出場選手のパフォーマンスを詳細に分析できるようになった(データを一般に公開する計画は現時点ではない)。一方でNPBEが掲げる最大のテーマはファンエンゲージメントの向上だ。
データ/コンテンツ基盤が完成し、APIを通じてどこからでもアクセスできるようになった。これを踏まえ、NPBEはデータを楽しめるコンテンツの充実に力を入れていく。球場のビジョン、テレビや動画配信サービス、球団SNSなどでのCGコンテンツの利用を推進する。さらに次の段階としては、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)/メタバースへの活用に取り組んでいく。野球ゲームのメーカーからの問い合わせもあるという。
「ファンの皆さんに新しいプロ野球の楽しみ方を提供していきたい。また、データを活用したエンターテインメントの市場が大きくなり、さらにビジネスチャンスが生まれていくことも期待している」とNPBエンタープライズ 執行役員デジタル事業部長の丹羽大介氏は話す。
システムの具体的な仕組み データはプレー単位で生成される
このシステムは、大リーグも採用しているソニー(正確にはソニーの子会社であるHawk-Eye Innovations)の「ホークアイ」をベースとしている。
ホークアイは、高精度なトラッキングで選手のパフォーマンスをきめ細かく測定できる。日本のプロ野球ではヤクルトスワローズが最初に採用。他の球団が後に続き、2024年には最後の球団が導入を終えた。
ホークアイでは、球場を囲むように設置した複数の高性能ビデオカメラがボールやプレーヤーの動きを捉え、その映像をデータ化する。ボールやプレーヤーの位置情報から、投手については投球のスピード、回転数/回転軸など、打者については打球速度、打球角度など、さらにはプレーヤーの骨格の動きを割り出し、可視化や分析につなげる。
今回のシステムでは、8台のビデオカメラがさまざまな角度から、毎秒100フレームまたは300フレームといった速度でプレーを撮影、この映像を球場内のサーバにリアルタイムでストリームする。
サーバではこれらの映像を同期解析してプレー単位のデータを生成し、即座にGoogle Cloudへ送る。一連の処理はニアリアルタイムに行われる。
では、サーバでは具体的にどのようなデータが生成されるのか。
ピッチングについては、一投球ごとにデータが作られる。データの主役はボールの軌跡情報。リリースからホームプレートに至るまでのx/y/z軸でのボール位置を1フレームごとに割り出し、タイムスタンプとともにリスト化したものだ。
これにリリースポイント、回転数/回転軸などのサマリー情報を付加している。
各データには投球ID、投球開始日時、ゲームID、投手ID、打者IDなどの情報が自動的に割り振られる。こうしたインデックス情報を後の分析で生かすことができる。
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