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ジェボンズのパラドックス(Jevons Paradox)とは?AI・機械学習の用語辞典

「効率化によって、かえって消費が増えてしまう」という逆説的な現象のこと。もともとは、産業革命期に見られた蒸気機関の効率化と、それに伴う石炭消費の増加をめぐって提起されたが、現代でも電力やAIの計算資源を語る際に引き合いに出されることがある。

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用語解説

 ジェボンズのパラドックスJevons paradox)とは、「ある資源(例:石炭、電力、計算資源、人材など)の使用効率が高まると、かえってその資源の総消費量が増えてしまう」という逆説的な現象である。これは、19世紀のイギリスの経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェボンズ(William Stanley Jevons)氏が、1865年に著した『石炭問題(The Coal Question)』の中で提示した。

 この逆説が注目されたのは、19世紀に蒸気機関の燃費が大きく向上したことがきっかけである。石炭を燃料とする蒸気機関の運用コストは、確かに大幅に引き下げられた。一見すると、これにより石炭の消費量も減少するように思われた。しかし現実には、効率化によって蒸気機関の利用は工場や鉱山、輸送など多くの分野へと広がり、結果として石炭の総消費量はかえって増加することとなった(図1)。これが、ジェボンズのパラドックスである。

図1 「ジェボンズのパラドックス」のイメージ
図1 「ジェボンズのパラドックス」のイメージ

 同様の現象は、現代でもしばしば見られる。例えば、省エネ家電の普及によって電力の総消費量も減るように思われがちだが、実際には、冷暖房機器の稼働時間が延びたり、使用する家電の種類そのものが増えたりすることで、家庭全体の電力消費がかえって増加する可能性もある。

 もちろん、AI分野でもジェボンズのパラドックスは懸念材料として注目されている。例えば、2025年1月に登場した「DeepSeek-R1」は、従来よりも低コストで運用可能なLLM(大規模言語モデル)として話題を呼んだ。電力や計算資源の使用量を抑えられると期待されたが、こうした効率的なモデルの普及が進むことで、かえってLLMの活用が広がり、全体としての電力消費や計算資源の需要が増大する可能性が高まっている。これはまさに、ジェボンズのパラドックスに他ならない。実際、現在ではデータセンターの建設やGPUへの投資も一段と加速している印象を受ける。

 本来、技術革新はリソースの消費低減を目的とすることが多いが、ジェボンズのパラドックスが示すように、「効率化」は必ずしも「消費の抑制」を意味しないことに注意が必要である。「効率の向上」と「消費の増加」は両立し得るという視点を持ち続けることが重要だ。

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