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クラウドが普及する現在だからこそ、「オンプレミス」のメリット・デメリットと活用シーンを理解しようビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第32回は「オンプレミス」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。

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1 オンプレミスとは

 オンプレミスは、サーバやIT機器、業務システムを自社で所有、管理することです。

 オンプレミスでは、自社の建物内や契約したデータセンターなどに機器を設置し、自社の責任で運用します。例えば、社内にサーバルームを設けて、業務システムやファイルを社内ネットワークで管理しているようなケースです。近年、クラウドの普及が進む一方で、オンプレミスもなお多くの企業で重要な役割を担い続けています。

2 オンプレミスとクラウドの比較

 オンプレミスとクラウドは、企業がITシステムを利用、管理する際の代表的な2つの方式です。


図1 オンプレミスとクラウドの比較

2.1 オンプレミス

 オンプレミス方式では、自社がサーバなどのITインフラを所有し、管理、運用の責任を担います。

 最大の特徴は「全てを自社の裁量で制御できる点」にあります。システム構成の柔軟性が高く、セキュリティポリシーや業務要件に応じた細かい設定が可能です。一方で、インフラ構築や保守には多くの専門知識と労力が求められ、システムの運用にかかる負荷が大きくなります。また、設備の増強や老朽化対策など、継続的な投資と管理も必要です。

2.2 クラウド

 クラウド方式では、インターネットを通じてクラウド事業者が提供するサーバやストレージ、アプリケーションなどを利用します。

 ハードウェアの所有や保守は不要で、必要な機能を必要な分だけ契約し、迅速に利用開始できる点に大きな利点があります。新サービスのスモールスタートなどに適しており、導入のスピードや拡張性に優れています。

 また、クラウドはグローバル展開やテレワーク、災害対策など、物理的な制約を超える柔軟なシステム構成を実現します。一方で、データの所在が外部になるため、法令やガバナンス上の要件により利用が制限されるケースもあります。また、通信障害やベンダーロックインといったクラウド特有のリスクにも考慮が必要です。


図2 比較表

3 オンプレミスのメリットとデメリット

3.1 主なメリット

  • 柔軟なシステム構成が可能

 自社で機器を管理するため、業務の細かな要件や特殊なニーズに合わせてシステム構成を自由に調整できます。外部に依存せず、自社裁量での運用が可能です。

  • セキュリティ面での高い要求や法令順守に対応

 重要な情報や機密データを自社内に置き、外部に流出させるリスクを減らせます。金融機関や医療機関、官公庁など、特に厳しいセキュリティ基準や法令要件がある組織でも、安全かつ適切に運用できる環境を自社で構築可能です。

3.2 主なデメリット

  • 初期導入費用が高額

 サーバやネットワーク機器の購入、設置、設定には大きな初期投資が必要です。また、導入までの期間も長くなる傾向があります。

  • 運用負荷が大きい

 ハードウェア、ソフトウェア共に、システム全体を運用し続ける必要があることから、運用の負担やリスク管理の負荷が大きくなります。また、自社での運用、保守や障害対応には、高度なITスキルを持つスタッフの確保が不可欠です。

  • システムの拡張が容易ではない

 業務量の急激な増加に対応する場合、ハードウェアの追加やシステム改修が必要で、時間とコストがかかります。

  • アップデートが自社の責任となる

 セキュリティパッチの適用など、ソフトウェアの更新を自社で計画し実施する必要があるため、セキュリティや運用面での負担が大きくなります。

4 オンプレミスを採用するシステム例

 オンプレミスが適しているかどうかは、技術的な特性だけでなく、「どのような業務を支えているか」という観点でも判断されます。

 例えば、業務停止が企業活動全体に直結する基幹業務システム(人事給与システムや販売管理システムなど)は、外部要因の影響を受けにくいオンプレミスで安定稼働を重視するケースがあります。

 また、リアルタイム性が求められる製造現場の制御システムや、生体認証、監視などのローカルで高速処理が必要なシステムも、クラウドに向かない例として挙げられます。これらは、ネットワーク遅延が業務品質に直接影響するため、社内に設置されたインフラによる制御が有効となります。

 このように、オンプレミスは単に「情報を守るため」だけでなく、処理の即応性や安定性を確保する必要があるシステムにおいても採用されています。

5 今後の展望

 クラウドの普及が進む現在においても、オンプレミスは特定の業務領域において引き続き重要な選択肢とされています。

 上述の通り、情報の機密性や法規制、既存システムとの整合性など、クラウドでは対応が難しい要件を満たす必要がある場合には、オンプレミスが適しています。一方で、業務のスピードや柔軟性、コストの観点など、クラウドの方が効果的な場面も数多く存在します。

 そのため、多くの企業では「クラウドかオンプレミスか」ではなく、「どちらをどのように組み合わせて使うか」が検討されています。このような構成は「ハイブリッドクラウド」と呼ばれ、業務ごとに最適な形でIT基盤を選択する考え方が一般的となっています。今後もクラウド活用が進む一方で、セキュリティや制御性、法令順守が求められる分野を中心に、オンプレミスが選ばれる業務領域は一定数存在し続けると考えられます。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

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