AIエージェントは企業のIT運用をどう変えるか:Gartner Insights Pickup(406)
Gartnerの最新の予測によると、企業における2025年の生成AI支出は、前年比76.4%増の6440億ドルに達する見通しだ。だが、当初から生成AIは生産性向上をもたらすと期待されてきたが、その実現は一筋縄ではいかないとの認識も広がっている。
Gartnerの最新の予測によると、企業における2025年の生成AI支出は、前年比76.4%増の6440億ドルに達する見通しだ。だが、当初から生成AIは生産性向上をもたらすと期待されてきたが、その実現は一筋縄ではいかないとの認識も広がっている。
生成AIがビジネスワークフローにより深く組み込まれるにつれて、企業は、生成AIの真のインパクトを決定するさまざまな要因を理解し始めているからだ。その中には「タスクの複雑さ」「従業員の経験」「業務自体の戦略的価値」などに加え、「AIの役割はタスクの最適化に過ぎないのか」、あるいは「ビジネス価値の促進へと進化するのか」などが含まれる。
こうした中でAIエージェントが台頭している。「ChatGPT」や「Copilot」のような現在のAIアシスタントは、主にプロンプトに応答するが、AIエージェントは人間の介入なしに自律的に行動するように設計されている。大規模言語モデル(LLM)や機械学習(ML)アルゴリズムを用いてデジタル環境または物理環境で認知、意思決定、行動し、目標を達成する。
Gartnerは、AIエージェントが2028年までに、IT運用ツール全体の60%に実装されると予測している。上に述べたAIエージェントとAIアシスタントとの決定的な違いは、AIエージェントが単なるツールではなく、企業の真のコラボレーターとしていかに機能するかをイメージするためのヒントになる。
インフラとオペレーション(I&O)のリーダーは、この変化がもたらす潜在的なビジネス機会を逃してはならない。ただし、AIエージェントの実装に当たっては「この技術がどこに適合するか」「どのようなリスクをもたらすか」「どうすればIT運用全体にわたって責任ある導入ができるか」を慎重に検討する必要がある。
IT運用の変革
AIエージェントは、IT運用の現状を根底から変えそうだ。タスクの実行支援から、人間の介入なしでの複雑なインシデント処理の実行へと、より高度な業務に対応できるようになっており、運用担当者はより価値の高い活動に集中できるからだ。
例えば、LLMベースのエージェントは、プロンプトが与えられると、いわゆる「思考の連鎖」(CoT:Chain-of-Thought)型のリーズニングによって計画を立て、現在のデータと過去の経験に基づいて、試行錯誤のプロセスを通じて意思決定ができる。
またAIエージェントは、MLアルゴリズムを利用して早期に異常を検知し、ITチームが新たなサイバーセキュリティ脅威に対し、より迅速に対応できるよう支援する。
複雑なIT環境では、コンテキスト(文脈)と目的を理解するAIエージェントの能力が真価を発揮する。AIエージェントはこの能力により、複数の機能のオーケストレーションを実現し、適応性、モジュール性、スケーラビリティに優れたコンポーザブルなIT運用を可能にする。
さらに、AIエージェントはAPI経由で外部のツールやデータソースと連携し、自らの機能を強化し、ナレッジ(知識)ベースを拡張し、システム間のコラボレーションを促進する。
I&Oリーダーは、AIエージェントのパイロット導入を開始してその能力を調査し、限界を見極め、既存のITシステムやインフラとの連携の仕方を評価すべきだ。これらの理解が、AIエージェントの全社的な展開の鍵を握る。
意思決定の改善
AIエージェントは、IT運用における情報の流れをよりよく理解するのに役立つ可能性がある。そうなれば、将来の意思決定の透明性向上につながる。
AIエージェントは、高レベルの目標をより小さな実行可能なステップに分解できる。それらのステップ間の依存関係を分析して正しい実行順序を特定し、潜在的な衝突があれば警告することが可能だ。これにより、人間の介入なしにタスクを構造化し、さらにはプロジェクト計画全体も作成できる。
AIエージェントのフレームワークを戦略的意思決定に利用できる可能性があるIT運用業務の一例として、プロアクティブなリソース配分が挙げられる。AIエージェントは、将来のワークロードに対する予算制約をシミュレートし、フィードバックループを含むシナリオを実行して、最適なバランスを見つける手助けをする。
AIエージェントは、多様なデータソース(インシデント記録、ログ、スクラムなど)を継続的にモニタリングできるため、修正作業に優先順位を付けて、技術的負債の管理を支援することもできる。
I&Oリーダーはまず、明確なマイルストーンとポリシーが設定されたロードマップを策定し、AIエージェント導入のビジネス効果と意思決定を結び付けるべきだ。
ベンダーエコシステムへの甚大な影響
AIエージェントはIT運用ベンダーに大きな影響を及ぼすだろう。これらのベンダーに製品やサービスの設計、提供方法の見直しを迫るからだ。
多くのツールがいまだにユーザーインタフェースやサイロ化されたデータに縛られている領域では、これは歓迎すべき変化だ。これらのツールを統合しようとする取り組みもなされてきたが、さまざまなAPIの組み合わせにより、メンテナンスが困難で、進化が遅く、変更に手間がかかるシステムができてしまうことが多い。AIOps(AI IT operations)でも、うたい文句通りの効果を発揮するに至っておらず、エンタープライズ環境ではスケーラビリティ、複雑さへの対応、速度の面で、限界が露呈する場合が多い。
I&Oリーダーはサプライヤーに、製品やサービスのAIエージェント版の開発を促すべきだ。それらは複数のレベルで機能をエクスポーズ(公開)し、新たなAIエージェントプラットフォームによるオーケストレーションの対象となるものでなければならない。
主要ベンダーのAIエージェント戦略を評価し、それらが自社のAIロードマップと戦略的に整合するかどうかを判断することも重要だ。また、進化するAIエージェントエコシステムを注視し、今後数年間でベンダーの存在意義がどのように変化するかを評価するとよい。
スキル開発とガバナンス構築
IT運用をサポートするAIエージェントを設計するには、ますますインテリジェントで自律的となっているシステムを統合、管理するためのスキルの開発とツールの導入が必要になる。
そのためには、生成AIとAIエージェントの両方の能力に関する知識を深めなければならない。幸い、テクノロジープロバイダーが提供するローコードツールや製品は進化が進んでおり、習得が必要なスキルの深さをある程度低減するように設計されている。
IT運用チームは、AIエージェントの能力を開発するための知識を身に付けるだけでなく、AIエージェントが環境に適応しながら自律的に行動できることに起因する潜在的なリスクに、あらゆる実装が対処できるようにしなければならない。
企業がAIエージェントからビジネス価値を引き出すためには、AIに関する技術的リテラシーの向上に投資するとともに、IT運用チームが、AIエージェントアプリケーションを開発する可能性のある部署と協力し、必要なガバナンスおよびコントロールを設計、実装する必要もある。
出典:How AI agents will transform enterprise IT operations(Gartner)
※この記事は、2025年4月に執筆されたものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.