ソフトウェア開発に力を入れる先進企業がOSSの専門チーム「OSPO」を設立するきっかけとは:始めよう! 企業としてのオープンソース活動(3)(3/3 ページ)
オープンソースに関する専門チーム、「Open Source Program Office(OSPO)」を設立する国内企業が増えてきました。こうした企業は何をきっかけに、何を目指してOSPOを作るのでしょうか? 企業が組織としてオープンソース活動にどう取り組むべきかを探る連載の第3回として、OSPOの設立に至るきっかけを詳細に解説します。
OSPOの役割は広がっていく
新たな取り組みではよくあることですが、OSPOの形成も、それを必要だと考える人の強い思いがないと始まりません。そして、その人の組織内の立ち位置によって、ボトムアップで始まるケースとトップダウンで始まるケースの両方があります。OSPOの必要性を考える人には下の3種類がありますが、その人が何を一番気にしているかによって、どのようなOSPOになるかが変わってきます。
- OSSを使って開発を楽にしたいと思うエンジニア
- OSSがビジネスのゲームチェンジャーだと考える経営者
- OSSが開発の仕方を変えると気付いたマネジャー
しかし、OSPOの場合、OSSの普及に適合するように会社が変わっていかないといけないという強い思いを持っている人は、少数に限られることが多いようです。
それは、OSSがこれまでの事業活動の仕組みからかけ離れたものであり、一見すると事業活動と相反するものに見えるため、理解が難しいからです。人によってOSSについての理解が異なり、OSPOを作ることを難しくしていると言えます。
例えば、OSSはその名の通りソフトウェアのソースコードが一般に開示されていますが、事業活動では通常、ソースコードは重要な会社の資産であり、開示先は限定するものです。このため、OSSの利用はごく限られた範囲にとどめるべき、と考えるのが素直な反応とも言えます。
一方で、OSSに強い思いを持っている人は、ソースコードが一般に開示され、自由な改変、頒布が許されていることこそが、OSSのさまざまなメリットの源泉であることを理解しています。そして、こうしたメリットが生み出されるメカニズムの活用を考えています。
前者の考えと後者の考えには大きなギャップがあります。少数派の考えに基づいたOSPOを提案しても、なかなかうまくいきません。
そこで、OSPOはOSSの理解が社内に広がるよう活動をしながら、その理解の進行状況に応じてOSPO自身の役割・活動を変化させていくことになります。
多くの場合、最初は、OSSを利用し始めてすぐに課題となる、ライセンス順守のための取り組みから始まります。次に、バグ報告や修正提案をコミュニティーに提供するための社内ルールの変更に取り掛かります。さらには、自社開発のソフトウェアの維持と同様に、必要なOSSが安心して利用できる状態を維持し続けるべく、コミュニティーへの貢献のための活動が加わります。最終的には、R&D活動の一部をコミュニティー内で行うべきかどうかがOSPOで検討されるようになります。
このように、OSPOの役割は、OSSについて正しい理解を段階的に社内に広め、その段階に応じて取り組みを変化させて社内で実施されるように推進することです。つまり、OSPOはOSSに適合するように会社が変化するステップを推進する役割を担うと言えます。
社内の各部門が、それぞれの役割の中でOSSの正しい理解に基づいた対応が行われるように変化し、OSSを特別扱いする必要がなくなった段階で、実はOSPOはその役割を終えるのかもしれません。
OSPOに求められること
OSPOのきっかけを見ていくと、OSPOに求められることが、会社の状況によってさまざまであることが分かります。
OSPOに求められることを挙げてみると、次のようになります。
- OSSリスク対策
- ライセンスリスク
- 品質リスク
- セキュリティリスク
- OSS/オープンソースコミュニティーと企業活動とのより良い関係の構築
- ビジネスモデルの変化への対応
- 技術イノベーションの活用や参加
- 人材の育成や獲得
- 企業イメージ向上(時代に合ったビジネス活動、結果的に社会貢献)
- 製品・サービスの普及、ブランド向上、潜在的な市場拡大(OSSというブランドの活用)
- 上記の基礎となるOSS/オープンソースコミュニティーへの理解を社内に広める
- 会社とOSSの関係を正しく把握
- OSS教育
- ライセンス解説
- オープンソースコミュニティーイベントの紹介
これらは全て、OSS/オープンソースコミュニティーによって生じるさまざまな変化に、企業を適応させることを目的としています。
まとめ
OSPOは、OSSに関するリスクへの対策から始まることが多いと思います。その後、OSSやオープンソースコミュニティーに対する理解が深まるにつれて、有効活用のための活動にシフトしていくのが一般的な形ではないでしょうか。
OSSリスク対策の段階では、OSSを外部調達ソフトウェアの一種として捉えていると思います。OSSではない外部調達ソフトウェア、すなわち、他の会社から購入するソフトと同じ扱い方でOSSを扱おうとして、それができないことを知り、その対策を行うことがOSPOの最初のタスクになります。
企業とは異なる論理や行動原理で動いているOSSやオープンソースコミュニティーを、企業に合うように変更することは不可能です。企業側がOSSやオープンソースコミュニティーに合わせる動きをするしかありません。
OSSやオープンソースコミュニティーに合わせようと活動していくと、OSSやオープンソースコミュニティーに対する理解が深まっていきます。そして、OSSが世界の共有資産であり、企業が実はオープンソースコミュニティーの一員であることに気付く段階が訪れます。さらに、オープンソースコミュニティーの一員として積極的に活動することが、企業にとって有益であると考えるようになります。
このような変化を促進することが、初期のOSPOの役割であると言えます。さらに、この変化につれて、「組織外部のオープンソースコミュニティーとの橋渡しを行い、組織内部ではオープンソース関連活動の中心的役割を果たす」というOSPOの役割が社内に周知され、定着していきます。
OSSやオープンソースコミュニティーについて十分な理解を持った状態で、OSPOをスタートさせる企業も存在します。一方で多くの企業では、上記のような段階を経てOSPOが変化(成熟)していっているのだと思います。
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