「Windows 11」の登場予告で、WindowsとWindows Server周辺は大混乱?:山市良のうぃんどうず日記(212)
2021年6月後半、「Windows 11」の突然の発表により、WindowsとWindows Serverのこれからについて、Internet Explorerの今後について、誤解や混乱が生じているようです。ちょっと整理してみましょう。なお、本稿には開発中のビルドに関する情報が含まれます。正式リリース時は状況が変わっている可能性があることにご注意ください。つまり、“話半分”で聞いてください。
SACは失敗だった? それとも(Microsoftにとって)良い経験?
「Windows 10」は、2015年7月に“Windowsの最後のバージョン”(Windows 10 is the last version of Windows)として登場し、当初は1年に3回のリリースサイクルでスタートしましたが、その後、1年に2回の「半期チャネル(Semi-Annual Channel、SAC)」に移行し、現在まで続いています。
2017年後半からはWindows ServerもSACのサービスモデルで提供を開始し、Windows 10の機能更新プログラムのリリースと同時に、同じOSビルドで構築されたWindows Serverの「Server Core」と「Nano Server」(Nano Serverはコンテナイメージとしてのみ提供)をリリースしてきました。
2021年6月に発表された「Windows 11」は、2021年後半にリリースされる予定で、リリースサイクルは年1回になる予定です(画面1)。
Windows 10のSACは、「リリースサイクルが短過ぎる」という声が大きかったのでしょう。多くの企業は、年がら年中、Windowsの機能更新プログラムと品質更新プログラムに振り回されてきたのではないでしょうか。「特定用途向け」というMicrosoftの意図した使われ方ではなく、汎用(はんよう)クライアントPCのOSとして長期10年サポートの「Windows 10 Enterprise LTSC(Long-Term Servicing Channel、長期サービスチャネル《旧称:LTSB、Long Term Service Branch》)」を導入しているところもあるでしょう(注:次期LTSCバージョンはサポート期間が5年に短縮されます)。
Windows 11のAnnual Channel(年次チャネル)の採用は、良く言えばWindows 10のSACの実績に基づいた改善であり、悪く言えばSACの失敗、SACからの撤退でしょう。
Windows 10はバージョン2004(May 2020 Update)以降、つまり2020年5月以降、OSのコア部分は進化することなく、小規模なアップデートのみが行われ、それが次のWindows 10 バージョン21H2まで続くことが決まっています。
SACというサービスモデルはWindows 10が最後になり、復活は考えにくいことです。Windows ServerのSACも廃止されるのではないかと筆者は予想しています。なぜなら、2021年5月に登場するとみられていた「Windows Server, version 21H1」(Windows 10 バージョン21H1と同じOSビルドのバージョン)をMicrosoftはリリースしておらず、そのことについて沈黙を続けていたからです。
しかし、2021年7月末に以下のWebページを更新し、Windows Server 2022以降、LTSCのみの提供となり、SACは廃止されることが明らかにされました(既にリリースされているWindows Server, version 20H2は、現在のSACのポリシーに従ってサポート期限までサポートされます)。
- Windows Server release information[英語](Microsoft Docs)
Windows 11のサーバ版がWindows Server 2022になるの?
Windows Server 2022は、「Windows Server 2019」の後継となる長期サービスチャネル(LTSC)のWindows Serverです。2021年6月にはプレビュービルドの評価版が一般公開されました。
リリース時期が同じ2021年後半であり、Windows Serverの最新バージョンであることから、「Windows 11のサーバ版がWindows Server 2022」と考えている人が多いようです。筆者はそうであると断言することはできません。そうなるかもしれませんし、そうならないかもしれないからです。
Microsoftは2021年6月初め、Windows Server 2022のプレビュービルドの180日評価版を一般公開しました。この評価版のOSビルドは「10.0.20348.x」です。Windows Server Insiderプログラム向けのプレビュービルドは「10.0.20344.x」を最後に保留中となっています。
これに対して、2021年6月末にWindows InsiderのDevチャネル向けに提供されたWindows 11の早期プレビュービルドのOSビルドは「10.0.22000.x」です。あまりにもOSビルドが懸け離れていますし、Windows Server 2022プレビュービルド評価版の外観は、圧倒的にWindows 10寄りです(画面2)。
Windows Server 2022が最終的にWindows 11と同じOSビルドベースになるのか、それともWindows 10ベースになるのか、それともそのどちらでもないのか、現時点では何とも言えません。
- Windows Server 2022 Preview[英語](Microsoft Evaluation Center)
- Windows Server preview builds on hold temporarily
IE 11はWindows 10やWindows Serverの次のバージョンから削除される?
2021年5月ごろ、「Internet Explorer(IE)11」がWindows 10の次のバージョンから削除されるという趣旨のニュースを目にした人は多いと思います。その元になった情報源は、Windows InsiderのDevチャネル向けのプレビュービルドをアナウンスする以下の公式ブログ記事です。
- Announcing Windows 10 Insider Preview Build 21387[英語](Microsoft Windows Blogs)
The Internet Explorer 11 desktop application is now retired as of this Insider Preview build.
正確には、削除されるのではなく、デスクトップアプリとしてのIE 11(iexplore.exe)が無効化され起動できなくなる(代わりに「Microsoft Edge」が起動する)のですが、それは置いておいて、このときDevチャネルでWindows 10の将来のバージョンとして開発が進められていたものが、現在のWindows 11の開発に続いています。つまり、Windows 11の話なのです(画面3)。
Microsoftは2021年7月中旬、Windows Insiderプログラムの一部のユーザーに対し、Windows 10の次の機能更新プログラムとなる「Windows 10 バージョン21H2」のプレビュービルドを提供しました。このWindows 10 バージョン21H2は、OSビルド「10.0.19044.x」になることは決まっており、Windows 10 バージョン2004以降に対する3回目の小規模なアップデート(有効化パッケージによる新機能のアクティブ化)になる予定です。リリースは、Windows 11やWindows Server 2022と同様に2021年後半が予定されています。Windows 10 Enterprise LTSC 2022のリリースも同時期に予定されていますが、これはWindows 10 バージョン21H2ベースになるものと思われます。
現状、Windows 10 バージョン21H2のプレビュービルドは、Windows 10 バージョン21H1とバージョン情報以外に違いはなさそうですが(新機能は未実装だそうです)、少なくともIE 11は存在し、利用可能です(画面4)。そして、Windows Server 2022のプレビュービルド評価版でもIE 11は利用可能です(画面5、画面6)。
Microsoftは2021年5月、IE 11の今後のサポートについて発表しました。Windows 10 バージョン20H2以降のWindows 10 SACについては「2022年6月15日」にサポートを終了し、デスクトップアプリが無効化されることを明らかにしています。
Windows 10のそれ以前のSACバージョンが対象外なのは、その時点で既にサポート期限を迎えているからです。そして、Windows 10 Enterprise LTSCとWindows Server LTSCは無効化の対象外とされています。Windows 11では、2022年6月15日に行われることが、2021年後半のリリース時から実装されているということになるのでしょう。
- Internet ExplorerはMicrosoft Edgeへ - Windows 10のInternet Explorer 11デスクトップアプリは2022年6月15日にサポート終了(Microsoft Windows Blogs)
WindowsとWindows Serverに、3つのOSビルド、3つのバージョン21H2の可能性も
まだプレビュービルド段階であるために確実なことは言えませんが、2021年後半には、Windows 11(現時点のOSビルド10.0.22000.x)、Windows 10 バージョン21H2/Windows 10 Enterprise LTSC 2022(OSビルド10.0.19044.xでおそらく決まり)、Windows Server 2022(現時点のOSビルド10.0.20348.x)という、3つの異なるOSビルドが同時にメインストリームとして登場する可能性があります。もしかしたら、これらのOS全てがバージョン「21H2」と呼ばれることになるかもしれません。
Microsoftは自社製品の多くに、製品名に含まれるバージョン(「Office 2019」など)とは別に、「YYMM」(YYは暦年下2桁、MMは2桁の月)形式のバージョン番号(「Microsoft Excel バージョン2106」など)を採用しています。Windows 10とWindows Server(SAC)は、2020年後半以降、YYMMを置き換える形で、「YYH1/YYH2」形式(バージョン20H1、21H1など)を採用しました。製品名とは別に与えられるバージョン番号が今後もリリース時期に基づくのなら、異なる3つのOSビルドにバージョン「21H2」が与えられてもおかしくはありません。
現在、Windows 11、Windows 10 バージョン21H2、Windows Server 2022は全て開発が進行中であり、機能だけでなく、サポートポリシーも変更される可能性があります。2022年後半の正式リリースまでには全てが明らかになるとは思いますが、Windows 10のサービスモデルが数年で変更され(CB《Current Branch》やCBB《Current Branch for Business》を覚えていますか?)、その後も変更が続いた(「SAC-T」《Semi-Annual Channel(Targeted)、半期チャネル(対象指定)》というものもありました)ことを最後に指摘しておきましょう。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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