成長するパブリッククラウド市場は寡占状態なのか、そうではないのか:AWSとMicrosoftが12.8%のシェアで同率首位
IDCは2020年の世界パブリッククラウドサービスの市場規模や競合状況について発表した。同社は同サービスを4つのセグメントに分けている。中でも最も規模の大きな「SaaSを用いたアプリケーション市場」は寡占状態に至っていないとした。
IDCは2021年5月13日(米国時間)、2020年の世界パブリッククラウドサービス市場動向を発表した。2020年通年の世界パブリッククラウドサービスの売上高は3124億ドルとなり、2019年比で24.1%伸びた。
今回の市場調査データに含まれるパブリッククラウドサービスは4種類ある。IaaS(Infrastructure as a Service)とSISaaS(System Infrastructure Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)と4種類の中で最も規模の大きなSaaS(Software as a Service)だ。
市場全体では寡占化が進む
2020年も大手パブリッククラウドサービスプロバイダーが引き続き勢力を拡大し、上位5社(Amazon Web Services《AWS》、Microsoft、Salesforce.com、Google、Oracle)の合計売上高は、市場平均を上回る前年比32%増となった。5社の合計市場シェアは38%に達した。
MicrosoftはSaaSとSISaaSの増収が寄与し、AWSと首位を分け合った。両社は2020年のパブリッククラウドサービス市場全体でいずれも12.8%のシェアを獲得した。
「パブリッククラウドの共有インフラやデータ、アプリケーションリソースへのアクセスは、組織や個人にとって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るった2020年のさまざまな混乱を乗り切る上で重要な役割を果たした。企業にとって今後、拡大するクラウドサービスポートフォリオのガバナンスを確保する力が、ビジネスプロセスやITプロセスの自動化を進めるとともに、デジタル回復力を高めるための基盤になる」と、IDCのワールドワイドリサーチ担当グループバイスプレジデント、リック・ビラーズ氏は述べている。
IaaSとPaaSの成長率が高い
セグメント別に見ると、2020年も引き続きIaaSとPaaSの成長率が高かった。
このことは、企業の間で次の3つへの依存が高まっていることを示している。
- クラウドインフラ上に構築したクラウド基盤
- サービスとして提供されるソフトウェア定義型データやコンピュート、ガバナンスソリューション
- 社内エンタープライズITアプリケーションのためのクラウドネイティブなアプリケーションデプロイプラットフォーム
今後も基盤クラウドサービス(特に、IaaSとPaaS)が、クラウド市場全体を上回るペースで成長を続けるとIDCは予想している。ITプラットフォームに関する意思決定において、回復力や柔軟性、アジリティが重視されているからだ。
IDCのアナリストは、パブリッククラウドサービス市場の動向について次のようにコメントしている。
「クラウドサービスプロバイダーは、インフラとプラットフォームサービスポートフォリオを急ピッチで拡充している。コンフィデンシャルコンピューティングやパフォーマンス集約型コンピューティング、ハイブリッドデプロイシナリオに対応するためだ。また、こうした基盤クラウドサービスを顧客の設備や通信ネットワークに拡張することで、これまでより幅広いユースケースが可能になる」(IDCのクラウド、エッジインフラサービス担当バイスプレジデントのデーブ・マッカーシー氏)
「PaaSとIaaS、SISaaSの急成長(これらは市場全体の売上高の5割以上を占めた)は、モダンアプリケーションの開発と提供を加速し、自動化を実現するソリューションの需要を反映している。企業がDevOpsアプローチを導入し、価値ストリームに沿った業務運営を図る中、PaaSやIaaS、SISaaSソリューションの導入が拡大するとともに、これらのソリューションのサービスは幅が広がり、価値も向上している。エッジやIoTユースケースのイノベーションも、PaaSやIaaS、SISaaS市場の急成長に貢献している」(IDCのPaaS担当リサーチディレクターのララ・グレーデン氏)
「SaaSアプリケーションは、パブリッククラウドサービスの中で最も大きく、成熟したセグメントだ。2020年の売上高は1480億ドル以上だ。どの業種の企業も、レガシービジネスアプリケーションから新しいSaaSアプリケーションへのリプレースを急いでいる。SaaSアプリケーションはデータドリブンで直感的な操作が可能な分散型クラウドアーキテクチャに最適だからだ」(IDCのSaaSおよびクラウドソフトウェア担当リサーチディレクター、フランク・デラ・ローザ氏)
SaaSアプリケーションとそれ以外のセグメントでは競争が異なる
セグメント別の動向については、IaaSとSISaaS、PaaSの合計実績の数字に注目することが重要だ。これらのセグメントは全体として、最終顧客とSaaS企業が利用する基盤サービスセットを提供するからだ。
IaaSとSISaaS、PaaS市場の上位5社(AWS、Microsoft、Google、Alibaba、IBM)は、この市場の51%のシェアを占めている。

SaaSアプリケーション以外の3分野の市場では上位5社が51%のシェアを占める(左の円)。その一方でSaaSアプリケーション市場は寡占化が進んでいない(出典:IDC Worldwide Semiannual Public Cloud Services Tracker, 2H20)
一方、この市場の5割近くは、特定のユースケース向けのPaaSや、クロスクラウドのコンピュートやデータ、ネットワークガバナンスサービスなどにフォーカスした企業が獲得している。これは健全なロングテール市場といえる。
SaaS市場については、ロングテール市場の割合がさらに大きく、上位5社の合計市場シェアは3分の1に満たない。
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