2020年の世界デジタルトランスフォーメーション支出は10.4%増の見通し IDC:パンデミックの影響は限定的
IDCは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響はあるものの、デジタルトランスフォーメーション(DX)支出は堅調に増加するとの見通しを示した。
調査会社のIDCは2020年5月20日(米国時間)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の影響はあるものの、ビジネスプラクティス、商品、組織のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた支出は、堅調に増加するとの見通しを示した。
IDCによると、2020年の世界のDX技術およびサービス支出は、前年比10.4%増の1.3兆ドルとなる見通しだ。この予想伸び率は、2019年の同17.9%増と比べてはるかに低いが、IT支出全体が大きく落ち込むと予想される2020年において、DXは、見通しが明るい数少ない分野の一つだ。
「COVID-19は世界経済に甚大な打撃を与えており、企業のIT投資の在り方にも直接的な悪影響を与えている」と、IDCの顧客洞察および分析グループのシニアリサーチマネジャー、クレイグ・シンプソン氏は語る。
「DX技術投資も無傷ではないが、これまでのところ、COVID-19による影響度は小さい。現在進められている、あるいは計画されている多くの大規模DXプロジェクトは、ビジネス上のより大きな戦略的取り組みに貢献するからだ。DX支出の今後5年間の予想年平均成長率も、COVID-19の発生前にIDCが予測した数字と比べると、2ポイント未満の低下にとどまっている」(シンプソン氏)
2020年の予想DX支出の前年比成長率を業種別に見ると、パンデミックによる経済の落ち込みで大きな影響を受けている業種ほど、低い数字になりそうだ。個人および消費者向けサービス(ホテル、テーマパーク、カジノ、映画館を含む)の2020年のDX支出は、前年比5.3%増にとどまる見通しだ(2019年は18.4%増)。DX支出が最も多い業種である組み立て製造業も、6.6%増と予想されている(2019年は14.5%増)。これに対し、2020年のDX支出の伸びが大きいと予想されている業種は、建設(16.3%増)、ヘルスケア(15.7%増)などだ。ただし、これらはいずれも2019年より低い成長率だ。
ビジネス課題の種類によってはほとんどの業種で成長を見込める
「COVID-19により、2020〜2023年の世界DX技術投資見通しは、IDCがCOVID-19の発生前に予測した数字より5000億ドル近く少なくなっている」と、IDCの顧客洞察および分析グループのプログラムバイスプレジデント、アイリーン・スミス氏は語る。
「だが、特定のビジネス課題を解決する個別のユースケースを掘り下げて分析すると、ほとんどの業種に成長機会があることが分かる。例えば、RPA(Robotic Process Automation)をベースにした保険金の支払い請求処理、教育におけるデジタル可視化、通信におけるオムニチャネルコマースプラットフォーム、プロセス製造(医薬品)における臨床試験のオペレーショナルエクセレンスなどだ」(スミス氏)
IDCは、2020年に多額の支出があると予想されるDXユースケースとして、自律型オペレーション(510億ドル)、ロボティックス製造(470億ドル)、根本原因分析(350億ドル)を挙げている。これらはいずれも製造業がけん引する見込みだ。
また、支出の前年比成長率が高いと予想されるDXユースケースは、教育における仮想ラボとデジタル可視化、RPAをベースにした保険金の支払い請求処理、専門サービスにおける拡張デザイン管理などだ。
地域別に見ると、2020年も米国のDX支出が最も多く、世界全体の3分の1程度を占める見通しだ。米国に次いで多いと予想されるのが西欧で、中国がこれに迫りそうだ。両者は予想前年比成長率も高く、中国が13.6%、西欧が12.8%となっている。
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