業務変革に寄与しそうなアプリケーションや自動化技術への投資は積極的に検討するが、その土台であるネットワークは動いてさえいればいい――というのが多くのユーザー企業の本音だろう。こうした現実に対して、ネットワーク運用の現場では何が課題として立ちふさがっているのか。
ネットワーク運用保守の現場は、人材不足と技術要求の高度化という課題に直面している。特に中堅エンジニアの不足が顕著だ。
一方で、ネットワークは今やあらゆるアプリケーションやシステムの土台となり、エンドユーザーには「つながって当たり前」と思われがちだ。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が求められる中、ユーザー企業は業務に直結するアプリケーション導入やプロセス改善にリソースを優先したいと考えている。そのため、ネットワークについてはMSP(マネージドサービスプロバイダー)に運用保守を外注するケースが散見される。
こうした背景から、ネットワーク専業メーカーのアライドテレシス(以下、アライド)はクラウド管理型プラットフォーム「Allied OneConnect」を開発し、2025年からトライアルサービスを提供している(正式リリースは2025年秋ごろを予定)。ネットワーク管理に必要な機能をクラウドに移行することで、多拠点管理の効率化、障害の早期把握と復旧など、MSPにとっての利便性と市場競争力を高めるのがAllied OneConnectのコンセプトだ。
Allied OneConnectの利用は、ITパートナー企業にとってどのようなビジネスチャンスをもたらすのか。Allied OneConnectのリリースを目前に、先行して同社のネットワーク保守サービスへの導入、検討をしているミツイワの高野直樹氏とコムネットシステムの白柳翔大氏、そして本サービスの開発に携わったアライドの中村徹氏および松口幸弘氏が、ネットワーク運用の現場で起きている課題とビジネスの将来展望について語り合った。
――ユーザー企業のネットワーク機器導入や運用保守を担っているITパートナー企業という立場から、お二人はユーザー企業の現状や課題をどのように見ていますか。
高野氏 ネットワークは基盤で、あって当たり前のものだからか、お客さまは「1つリクエストしたらなんでも対応してくれる」という抽象的な要望をベンダーに対して持っていらっしゃるように感じます。
白柳氏 ネットワークは使えて当たり前で、安定稼働かつ高速であることが求められます。普通に使えて感謝されることは少ないのが実情で、反面使えなくなると一気に問い合わせが多くなります。この点がサーバやクラウドサービス、アプリケーションとは少し異なります。とにかく安定して使えること、高速であることが最優先課題にあります。
――実際に、人材不足を感じることはありますか。
高野氏 ネットワークの運用や保守における技術やスキルの向上、人材育成の考え方には企業ごとに違いがありますが、人材不足を確かに感じます。「ネットワークはつながって当たり前」という感覚のエンドユーザーが増えたことで、ネットワークエンジニアに要求するスキルレベルが高くなっているために、人材育成のスピード感とのギャップがあるようです。だからこそ、Allied OneConnectのようにエンジニアの力量を補完してくれるサービスの登場を歓迎しています。
白柳氏 個人的には、時代の変化とともに、ネットワークの在り方、ニーズも変化していると思っています。10年ほど前ならネットワークは「使えること」が条件でしたが、現在はセキュリティ対策も重要で、「セキュアかつ高速であること」という両立の難しい要求に応える必要があります。昨今は、「セキュアかつ高速に使えて、しかも状態を可視化できること」がネットワーク運用のポイントになっています。
――IT人材不足が顕在化する一方で、ネットワークの運用保守の要件が増え、可視性が求められている――。アライドがAllied OneConnectを発表したのは、このような課題の解決を意識していたということでしょうか。
松口氏 もともと当社は、独自開発のネットワーク統合管理技術「AMF」(Autonomous Management Framework)を提供し、SIer(システムインテグレーター)やNIer(ネットワークインテグレーター)さんを含めたIT人材に向けネットワーク運用保守を効率化する仕組みづくりに10年以上前から取り組んでいます。ITパートナー企業にとって、ネットワークエンジニアのスキル向上、人材の確保と育成は不可欠です。この課題に対して、当社にできることは何なのかを考えたのが、Allied OneConnectが生まれるきっかけの一つでした。
中村氏 Allied OneConnectは、ITパートナー企業が複数の顧客拠点を保守する上で便利な管理機能を備えたクラウド管理型プラットフォームです。設定を遠隔からネットワーク機器に適用する「ゼロタッチプロビジョニング」が可能で、多拠点、多店舗を抱えるユーザー企業における機器設置の工数を大幅に削減するだけでなく、監視サービスの効率化も期待できます(図1)。設置機器のロケーションマップ表示や簡易モニタリング機能などは複数拠点を一元管理するのに役立ちますし、ユーザー企業の個別環境ごとに画面を開いてステータスも確認できます。
松口氏 業界によってネットワーク要件は全く違います。企業をはじめ、医療や公共、文教などの大規模なネットワークには高い品質とセキュリティ要件が求められます。先ほどのAMFは、これらの業界ニーズに応える技術として提供してきました。一方で、小売業や飲食業など小規模組織の多い業界では、いまだに家庭用ネットワーク機器を利用することがあります。ただし、そこでも近年はネットワークの安定性や可視性が求められるようになりました。キャッシュレス決済が普及して、セキュアで安定したネットワークがないと店舗経営が成り立たなくなってきたためです。
全国に店舗展開する小売業や飲食業などのネットワークは数万台規模の機器管理が必要なので、オンプレミスの運用は現実的ではありません。これこそクラウドのメリットを生かすべきだと考えたことも、Allied OneConnect誕生の背景でした。
――ミツイワはAllied OneConnectをICT運用サポートサービス事業への組み込みの検討を進めていますが、どんなメリットを感じていますか。
高野氏 ICT運用サポートサービスの中核となる部門「デジタルマネージドサービスセンター」には約40人のエンジニアが勤務しています。Allied OneConnectを利用することで、大きく2つのメリットがあると考えています。
一つはトラブルの早期把握です。Allied OneConnectのリアルタイムモニタリング機能で、機器の死活監視だけでなく、さまざまなトラブルを早期に把握できます。これにより、サービス停止時間を最小限に抑えられるようになります。
もう一つは作業の効率化です。ゼロタッチプロビジョニング機能のおかげで、障害発生時には機器を交換するだけで自動的に設定情報(コンフィグ)を復元できます。エンジニアを現地に派遣する必要がなくなるため、問題解決の速度向上と人材への負荷軽減を実現できています。
Allied OneConnectは運用保守のためのサービスですが、センサーの役割も担っていると言えます。ネットワークの情報を取得して状況を可視化し、必要かつ最適な対処が迅速にできるようになりますから。今後さらにAllied OneConnectを介して多くのITパートナー企業とユーザー企業がクラウドプラットフォームにつながり、エコシステムが構築されることで、新しい市場やビジネスチャンスが生まれることを期待しています。
――コムネットシステムも、ネットワーク機器と運用管理を月額制のサブスクリプションサービスとして提供する「MALUTO」(マルト)に、Allied OneConnectを組み合わせるトライアルの実施を進めています。実際に利用した感想はいかがですか。
白柳氏 Allied OneConnectを利用してまず感じたのは、直感的に使えるUI(ユーザーインタフェース)の便利さです。コマンドライン操作に慣れていないビギナーでもネットワーク管理業務が可能なので、IT人材不足の折には心強い仕組みですね。
Allied OneConnectはクラウドサービスなので、ユーザー環境に導入したネットワーク機器に障害が発生した場合、リモートから迅速に復旧と監視サポートを提供できるようになります。専任のIT担当者を置けない小規模企業が多い業界に対して、われわれMSPは「社外情報システム部門」のような存在になるかもしれません。Allied OneConnectによって、MSPの存在価値がより高まるようになったらとても意義深いと思います。
――他のネットワーク機器ベンダーもクラウド管理プラットフォームを提供する中、Allied OneConnectの強みは何でしょうか。
松口氏 Allied OneConnectの最大の強みは、パートナー企業の皆さまとの連携によって品質をブラッシュアップしていることだと考えています。私たちは創業から38年にわたって企業ネットワークを支えるハードウェアを提供し、ナレッジを蓄積してきました。開発拠点や製品企画部門の主軸を国内とすることで、パートナー企業の皆さまから頂くフィードバックを製品とサービスに迅速に反映できています。Allied OneConnect対応のネットワーク機器には当社の独自OS「AlliedWare Plus」を搭載している、つまりプラットフォームが統一されていることも強みの一つです。
パートナー企業の皆さまから見てどこにAllied OneConnectの強みを感じたか、私もぜひお聞きしたいです。
高野氏 Allied OneConnectはマーケットアウト(市場ニーズを把握して製品を開発する考え方)的なサービスですね。ネットワーク管理ツールは多機能かつ高性能であるほど良いとは限りません。いかに必要な機能を使いこなし、ユーザー企業に価値を提供できるかが鍵です。その点において、Allied OneConnectはUIの分かりやすさが魅力だと感じます。
白柳氏 おっしゃる通り、重要なのは必要な機能が使えることです。使わない機能を搭載して価格を上乗せされてもユーザー企業は喜びません。中小企業向けなら特に、機能が必要最小限であることはコストパフォーマンスの観点から重要です。ライセンス体系もシンプルで、ニーズに合ったちょうどいい機能が利用できることがAllied OneConnectの強みだと思います。
中村氏 アライドはこれまで何十万台ものネットワーク機器をユーザー企業に導入してきました。Allied OneConnectを利用することで、ネットワーク機器の稼働情報をリアルタイムに収集できます。今後はこのビッグデータを活用することで、パートナー企業の皆さまに新しい価値を提供することを目指しています。
Allied OneConnectの機能はこれからますます増えていきます。目指すビジョンは人手がかかっている業務を自動化し、人の負担を軽減することです。利用データを収集し、AI技術を使ってさらに効率化することで、メンテナンスレスでユーザー企業もSIer/NIerも笑顔である世界を実現したいと思っています。
※Allied OneConnectは、2025年6月現在は仮称であり、商標登録の出願を予定している名称です。
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提供:アライドテレシス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2025年7月13日